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《“総務省 統計行政 若手チーム”のレポート》Data StaRt Awardを受賞した「長崎県」の事例

【自治体通信Online 寄稿記事】
統計をつかう~事例で読み解く利活用方法~ #1(総務省 統計行政 若手チーム)

本新連載は総務省 統計行政 若手チーム(脚注参照)による統計の利活用事例レポートです。 “統計のつかいかた”のヒントをお届けします。
*脚注:総務省 統計行政 若手チームは、入省3年目までの職員を中心に構成している若手チームです。統計の魅力を伝えたいという思いから結成しました。

統計から転入・転出の“実際”を探りに行く

和歌山県和歌山市にある統計データ利活用センター(総務省統計局)は、先進的なデータ利活用の推進拠点として、平成30年4月1日に設立されました。当センターでは、大きく分けて、「統計ミクロデータの提供」、「統計データ利活用に関する人材育成」及び「データサイエンス・EBPMに資する統計データ利活用推進・支援」の3つの取組をしています。

このうちのひとつである「データサイエンス・EBPMに資する統計データ利活用推進・支援」として、地方公共団体との共同研究や地方公共団体における先進的な取組のヒアリングを行っています。

統計データ利活用センター(和歌山県)が入居するビルの外観

今回はその先進的な取組のひとつであり、「第5回地方公共団体における統計データ利活用表彰(Data StaRt Award)特別賞」を受賞した長崎県の事例について、ご紹介します。

本事例は、就業構造基本調査のミクロデータの分析及び独自のアンケート調査実施により、住民票の届出情報では把握できなかった転入・転出の理由や属性別の特徴を明らかにしています。

〈背景〉若者の県内定着施策を模索

長崎県の人口は、1960年の176万人をピーク(国としてのピークは2008年)に、平成27年国勢調査(本事業実施当時最新)で138万人、令和2年国勢調査で130万人となっており、2060年には78万人に減少する見込みとの推計もあります。

長崎県では、これまで地方創生の観点から、良質な雇用の場を創出し若者の県内定着を進めるといった施策を進めているものの、人口減少が続いており、その解決策を模索しているところでした。

人口減少の要因となる県外流出については、住民票の移動情報から実数は把握できるものの、転入・転出の主たる理由等の実態把握ができないことがかねてからの課題としてありました。それまで届出情報である年齢などから、県外転出の理由を推測していたものの、EBPMを進める上で前提条件となる、客観的なデータに基づく正確な現状把握が求められていました。

〈目的〉推測ではなく正確な現状把握

本事例では、長崎県の近年の転入・転出の構造(属性別移動理由等)を把握したうえで、これまで推測していた内容を客観的データにより確認し、正確な現状把握を適切に行うことを目的に、総務省統計局が実施している「就業構造基本調査」(下の囲み記事を参照)のミクロデータ分析を長崎県独自で行っています(統計法第33条に基づく利用)。

就業構造基本調査
国民の就業及び不就業の状態を調査し、全国及び地域別の就業構造に関する基礎資料を得ることを目的とする調査であり、次回は令和4年10月1日時点で実施予定です。
「就業構造基本調査」では、現在の居住地での居住開始理由を把握しています。
平成29年就業構造基本調査の調査事項(抜粋)

就業構造基本調査のミクロデータ独自分析の内容

長崎県独自の就業構造基本調査の分析によると、長崎県の2012年~2017年9月までの転入・転出については、男女ともに転出超過であり、転出超過数が多い理由は、男性では①「通学」(“進学”の意味)、②「仕事につくため」、女性では①「仕事につくため」、②「家族の仕事の都合」と男女で違いがみられます。

男女別の転出超過数の総数は、女性が男性よりも多いものの、「家族の仕事の都合」及び「結婚のため」を除くと、男性の転出超過数が女性を上回っております(下の一覧表を参照)

家族の仕事の都合などの要因を除くため未婚者に注目し、未婚者の転出をみると、男性は進学のタイミングでの転出が一番大きく、一部は県内に戻るもののそのまま県外で仕事につく傾向、女性は進学のタイミングでは県内にある程度とどまるものの、仕事につくタイミングでの転出が大きい傾向がみられます(下の一覧表を参照)

効果及び今後の長崎県における取組

上述の分析により、長崎県の転入・転出については、属性ごとの違いがあることが客観的データ(就業構造基本調査のミクロデータ)から明確になりました。

近年は女性の県外転出が拡大しているところ、その主たる理由(「家族の仕事の都合」が最も高い割合)についても明らかにすることができたことから、長崎県の人口減少対策の基礎データとして活用されているそうです。

一方で、就業構造基本調査のミクロデータ分析での課題(①市町別の分析ができない。②調査時点でのデータであり、現時点での状況を把握できていない)を克服するため、長崎県では、県及び市町別に移動理由等を動態的に把握する事業(長崎県移動理由アンケート)に着手しています。当該アンケートについて説明していきたいと思います。

長崎県独自の移動理由アンケートについて

①目的
長崎県による「移動理由アンケート」は、人口減少に関する効果的な施策の立案及び転入・転出施策の効果測定のため、県内全市町の窓口でアンケートを実施し、転入・転出の理由等をタイムリーに逐次把握することを目的としています。

②実施時期
令和2年7月~令和3年2月の間で、試行的なアンケートを実施し、その結果を踏まえ、令和3年3月から全市町で本格的に実施されています。

③実施体制・方法
動態把握事業(移動理由アンケート)については、長崎県企画部政策企画課と県民生活環境部統計課が連携して計画されています(下の囲み記事参照)

市町と県の事務分掌内容・事務スケジュール・移動理由アンケート内容

【市町の事務】
・市町民が転入転出届を市町窓口に提出した際に、窓口係から市町民にアンケート用紙を配布
・届出の処理が完了し、窓口でやり取りする際に記入されたアンケート用紙を回収し、県へ提出
※回答方法:紙アンケート用紙への記入又はオンライン

【県の事務】
・各市町で使用するアンケート用紙を作成し、市町に送付
・市町から提出があった紙アンケートをデータ入力し、オンライン回答データとともに市町別データを作成し、各市町に還元

【主な事務スケジュール】

【移動理由アンケート 様式】

④回答状況
本アンケートは、インターネット上での回答もできますが、アンケート用紙での回答がほとんどとのことでした。市民が転入転出届を提出する市町窓口でアンケート用紙を配布しているため、窓口での待ち時間に回答・提出する方が多いことが主な要因としてあげられます。また、本アンケートの住民票の移動者数に対する回収率は約3割とのことで、引き続き回収率向上に向けた取組をされているとのことです。

まとめ

長崎県の転入・転出に係る構造分析事業(就業構造基本調査のミクロデータ分析)については、知事・関係部局にも報告し、これまでの推測に対して、客観的な裏づけが行えたといった評価を得て、県庁内部での横断的な人口減少対策の検討にあたり、今後の施策検討における基礎データとして活用されています。

構造分析事業を契機として、長崎県では、協働で実施する動態把握事業(移動理由アンケート)については、令和2年10月から16市町で、移住施策関連の調査項目を追加した上で第2期試行を実施し、令和2年内には20市町で試行を実施しています。その後、令和3年3月から全21市町での本格実施をしております。

当該事業は長崎県庁で初めての取組であり、今後の人口減少対策のファンダメンタルデータとして活用される見込みのようです。

最後に

本事例では、総務省統計局所管の国勢調査、就業構造基本調査及び住民基本台帳人口移動報告のデータを利用いただいておりますが、総務省統計局が実施している統計調査は他にも様々ございます。

また前述のとおり、本年は10月1日現在で就業構造基本調査を実施します。就業構造基本調査は、国が実施する調査のうち、特に重要なものとされる「基幹統計調査」として実施する調査であり、調査の結果は、国の基本的な方針決定の基礎資料として活用されるほか、地方公共団体における雇用対策などの各種施策に利用されます。ご協力のほど、よろしくお願いいたします

引き続き、地方公共団体におけるデータ利活用事例及び先進研究事例を紹介させていただくことで、総務省統計局で有している統計データやその利活用方法について共有させていただきます。

(続く)

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