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自治体はSDGsそのもの(前編)~既存事業にこそ「大きな価値」

    【自治体通信Online 寄稿記事】再定義論「シビックプライド」④(関東学院大学法学部准教授/社会情報大学院大学特任教授・牧瀬 稔)

    自治体のシビックプライド政策の先進事例や成功事例に詳しい関東学院大学 法学部の牧瀬 稔 准教授に近年の傾向や成果を出している取り組みポイント等を解説、分析してもらう本連載。今回は、シビックプライドの醸成に関係が深いSDGsについて、自治体の取り組み姿勢と“意外な盲点”を検証します。
    【目次】
    ■ SDGsを「条例化」した自治体も
    ■ 条例名に「持続可能」が入っている条例一覧
    ■ 自治体にとって新しいことは何もない

    SDGsを「条例化」した自治体も

    今回と次回はSDGsに関連して筆者の私見を述べたい。筆者は、SDGsは新しい取り組みではなく、今まで自治体が実施してきた政策そのものと考えている。その考えを以下で言及する。

    ※ ※

    国はSDGsを強力に推進している。しかし法的根拠がない。その意味で、筆者は持続性が弱いように感じる。そこで地方自治体がSDGsを進めていこうとする意思があるならば、条例化してもよいと考える。

    なお、国がSDGsと同様に強力的に進めてきた地方創生は法的根拠がある。それは「まち・ひと・しごと創生法」である。

    国が法律を用意しないのならば、自治体が条例により法的根拠を持たせてもよいだろう。

    実は数は少ないが、SDGsを条例化している事例はある。それは下川町(北海道)である。条例名は「下川町における持続可能な開発目標推進条例」だ(2018年6月22日制定)。

    同条例の各規定を確認すると、SDGsパートナーシップセンター(第3条)、SDGs推進町民会議(第4条)、SDGs評議委員会(第5条)、SDGs推進本部(第6条)となっている。

    また桐生市(群馬県)は「持続可能な開発目標(SDGs)を桐生市のまちづくりに生かす条例」を議員提案により実現している(2019年3月19日制定)。

    桐生市条例は「国際社会の共通目標であるSDGsの理念を踏まえ、市民、関係自治体、民間企業、NPO等の広範で多様な主体及び関係者並びに市が、相互に連携し、パートナーシップを構築し、本市及び地域社会を取り巻く諸課題を統合的かつ横断的に解決することにより、持続可能なまちづくりを目指す」ことを目的としている(第1条)。

    このように政策の内容を明確にし、議会の議決を経て地方自治体の意思とするために、SDGsの条例を用意してもよいだろう。

    なお、条例名ではなく条文にSDGsが明記されているものに上勝町(徳島県)の「上勝町木づかいの景観まちづくり条例」がある(2019年9月20日制定)。

    上勝町条例第3条第2項第6号に「町の景観形成は、地域の社会課題と環境課題を同時に解決する持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)の観点から推進する」と明記されている。

    条例名に「持続可能」が入っている条例一覧

    参考までに、SDGsのひとつのキーワードである「持続可能」という4字が条例名に入っているものを一覧化した(下の一覧参照)。かなり少ない現状である。

    ※制定年順(同じ場合は50音順)、<>内は制定年月日、アンダーラインは筆者、附属機関設置条例は除いている

    ①「高松市 持続可能な水環境の形成に関する条例」<2010年9月27日>
    この条例は、持続可能な水環境の形成に関し、基本理念を定め、市、市民及び事業者の責務を明らかにするとともに、持続可能な水環境の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、市、市民及び事業者が連携して持続可能な水環境の形成に取り組み、もって現在及び将来の市民の水を通じた豊かで潤いのある生活の確保に寄与することを目的とする。

    ②「飯田市 再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」<2013年3月25日>
    この条例は、飯田市自治基本条例の理念の下に様々な者が協働して、飯田市民が主体となって飯田市の区域に存する自然資源を環境共生的な方法により再生可能エネルギーとして利用し、持続可能な地域づくりを進めることを飯田市民の権利とすること及びこの権利を保障するために必要となる市の政策を定めることにより、飯田市におけるエネルギーの自立性及び持続可能性の向上並びに地域でのエネルギー利用に伴って排出される温室効果ガスの削減を促進し、もって、持続可能な地域づくりに資することを目的とする。

    ③「上勝町 持続可能な美しいまちづくり基本条例」<2013年3月25日>
    この条例は、上勝町のめざす持続可能な美しいまちづくりの基本理念を明らかにするとともに、その推進を図ることを目的とする。

    ④「岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区推進条例」(岡山市)<2013年12月25日>
    この条例は、認定地域活性化総合特別区域計画に定められた特定地域活性化事業の実施に必要な措置を講ずることにより、在宅に特化した岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区の推進を図り、もって本市の経済社会の発展及び市民生活の向上に寄与することを目的とする。

    持続可能な開発のための教育の推進に関する条例(岡山市)<2014年9月30日>
    この条例は、豊かな環境と調和のとれた経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会を構築するため、ESDの推進に関し、基本理念を定め、それぞれの責務を明らかにすることにより、現在及び将来の市民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。

    ⑥木更津市 人と自然が調和した持続可能なまちづくりの推進に関する条例<2016年12月15日>
    この条例は、オーガニックなまちづくりの基本理念を定め、市の責務並びに市民及び団体の役割を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、市、市民及び団体が一体となり、本市を、人と自然が調和した持続可能なまちとして、次世代に継承していくことを目的とする。

    ⑦草津市 健全で持続可能な財政運営および財政規律に関する条例<2017年3月28日>
    この条例は、草津市自治体基本条例第14条に規定する財政運営に関し、自律した自治体としての基本的な事項を定めることにより、財政規律を確保し、将来にわたって健全で持続可能な財政運営を行い、もって市民福祉の向上に資することを目的とする。

    ⑧富山県 中山間地域における持続可能な地域社会の形成に関する条例<2019年3月15日>
    この条例は、中山間地域において、人口の著しい減少、急速な高齢化の進展等に対処し、住民が豊かな生活を安心して営むことができる地域社会を創造するための施策の推進に関し、その基本方針、県が講ずべき中山間地域施策を総合的かつ計画的に実施するための計画の策定その他の事項を定めることにより、中山間地域に持続可能な新たな地域社会の形成を図り、もって県民全体の生活の安定向上及び本県経済の安定に寄与することを目的とする。

    筆者はSDGsの持続性を担保する一手段として条例化を提案する。「難しい」と尻込みせずに、検討だけでもしてみたらどうだろうか。

    自治体にとって新しいことは何もない

    内閣府(自治体SDGs推進評価・調査検討会)は、自治体職員を対象にSDGsの取り組み状況の調査を目的とした「SDGsに関する全国アンケート調査」を実施している(下グラフ参照)。同調査によると勤務する自治体が「SDGs達成に向けて取り組みを推進しているか?」との設問にして「推進している」(下グラフの青部分)と回答したのは、平成30年調査では9%にとどまり、令和元年調査では19.5%と倍増以上の伸びを示した。

    内閣府(自治体SDGs推進評価・調査検討会)「SDGsに関する全国アンケート調査」より。青い部分が回答「推進している」の比率
    内閣府(自治体SDGs推進評価・調査検討会)「SDGsに関する全国アンケート調査」より。青い部分が回答「推進している」の比率

    しかし、自治体職員は、自らが実施している事業がSDGsに貢献する事業だと気付いていないケースが多くみられている。ポイントは「自らが実施している事業がSDGsであるのに、そのことに気が付いていない」ことだと思う。

    なお、首長などが「SDGsはじめます」と宣言すると、多くの自治体職員は「また仕事が増える」と思い嫌悪感を持つ。正直、職員にとってはSDGsなんてどうでもいいことだと思う。

    そこで「すでに実施している事業そのものがSDGs」と認識させることが重要だろう。そうすることで、職員にSDGsマインドが浸透していくことになる(すでに職員はSDGsマインドを持っているため「気づかせる」と言った方が正しい)。

    SDGsは地方自治体にとって新しい取り組みではない。SDGsが掲げる17の目標は、よく確認すると自治体にとって新しいことは何もない。

    例えば、現在、多くの自治体が定住人口の増加に取り組んでいる。それはSDGsの目標「11 住み続けられるまちづくりを」になる。また、自治体の教育行政そのものは同「4 質の高い教育をみんなに」になる。自治体は子どもの貧困対策に取り組んでいる。これは同「1 貧困をなくそう」に該当する。

    地方自治体は「SDGsは新しい概念だから」と身構えるのではなく、「すでに実施してきたこと」と認識する必要があるだろう。

    (後編「SDGsは地方自治体に光を当てる」に続く)

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    本連載「再定義論『シビックプライド』」のバックナンバー
    第1回:定住人口増等に不可欠な「地域戦略」の新しい基軸に
    第2回:シビックプライドが創る「活動人口」という“新しい未来”
    第3回:急速に盛り上がる「SDGs」その課題と展望

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)「共感される政策をデザインする」(同)「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)「持続可能な地域創生 SDGsを実現するまちづくり」(プログレス)など、自治体関連の著書多数。
    <連絡先>
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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