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データは知っていた「華やかさの陰の危機」

【自治体通信Online 寄稿連載】まちを元気にする自治体のマーケティング施策「糸島モデル」を創出した職員の仕事術①(糸島市職員・岡 祐輔)

データは知っていた「華やかさの陰の危機」

地域の会社の多くは中小規模、そして廃業が増加傾向―。こうした状況に多くの自治体が悩んでいます。そうしたなか、従来手法とは異なるアプローチで地域経済活性化に成功した事例があります。糸島市(福岡)が取り組んでいる独自のマーケティングモデル推進事業です。この事業の政策を策定、推進している同市職員、岡 祐輔さん(企画部秘書広報課 主査)に、まちが元気になった理由や採用した手法、試行錯誤など、その舞台裏を連載してもらいます。

【目次】
■ 公民連携で「市内企業の底上げ」を目指す
■ カンや思い込みの徹底排除
■ 観光客も移住者も増えているものの…
■ 外からは見えにくい課題
■ 地域経済活性の必須条件

公民連携で「市内企業の底上げ」を目指す

糸島市では、「商品開発」を地場企業、「販路開拓」を特色あるマーケティングの授業をもつ福岡市内の女子高校、「広告宣伝」を福岡市内のライター等に役割分担し、連携して一体的に糸島産品のブランド力を高める「糸島市マーケティングモデル推進事業」(以下、マーケティングモデル事業)を平成28年9月に立ち上げ、推進しています。

ちなみに、このマーケティングモデル事業は、2016年に「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で地方創生担当大臣賞を受賞し、受賞した政策を実施した「糸島マーケティングモデル」は「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー2018」で地方創生賞(コト部門)を受賞しました。

マーケティングモデル事業の目的は「従業員5人未満、従業員1人あたり年間販売額1,000万円以下の事業者」のマーケティング力の底上げ。糸島市の小売・卸売業の販売額が福岡都市圏17市町でワースト2、法人市民税収ワースト1など域内産業が乏しいため、雇用が少なく、生産性の向上が急務だったからです。

カンや思い込みの徹底排除

後述しますが、糸島市の観光入込客数は年々伸びていたものの、産直施設などの一部を除いて域内の経済的な豊かさにつながっていませんでした。

その原因を探るため市内事業者へのインタビューなどを実施したところ、マーケティングスキルの普及が必要であると考えました。それが、全国の自治体でも前例のない手法によって立案した糸島市独自の事業を開始することになった大きなきっかけです。

マーケティングモデル事業の策定にあたって、なんとなく課題だと思ったことがいくつかあります。そのひとつは、従来の手法では先進地などの事例を少しカスタマイズすることが一般的なことでした。

糸島市のマーケティングモデル事業を実施するにあたって重視したのは「データによって課題の絞り込みと効果のある打ち手を導くこと」です。カンや思い込みだけで実施しないよう、説得力のある提案ができるよう気をつけました。

マーケティングモデル事業の内容やプロセスの詳細は、順を追ってこの連載のなかでご紹介していきます。その前に、糸島市の特徴や抱えていた課題をお伝えしたいと思います。まずは、糸島市の成り立ちや状況からご紹介しましょう。

観光客も移住者も増えているものの…

糸島市は平成22年1月に前原市、二丈町、志摩町の3市町が合併して誕生しました。ちょうど誕生10年を迎えます。

人口は約10万人。高齢化率は25%を超え、やはり少子高齢化の問題は深刻です。

一方、福岡市中心部から電車、車ともに約30分の距離で、博多駅や福岡空港にも直通でアクセスできます。糸島市は田舎の要素を備えつつ、都市の利便性も高い地域です。

海沿いにはおしゃれなレストランやカフェが立ち並び、休日になると多くの観光客が、ゆっくりした“糸島時間”を過ごすためにランチや休憩に訪れます。

糸島市は福岡県最西端の糸島半島に位置する(写真赤枠)。市北側には玄界灘に面した美しい海岸線が広がり、市南側には背振山系の1,000m弱の山々が連なる。中間部には糸島平野と呼ばれるなだらかな田園地帯が広がり、JRと国道沿線を中心に市街地が形成されている。写真は糸島市の北部に位置し「日本の渚百選」にも選ばれた桜井二見ヶ浦の夫婦岩。

以前は関東や関西のイベントに顔を出すと、「糸島って、どこの島?」と言われることもありました。しかし、全国的にも稀に見る、観光客も移住者も増えているまちで、少しずつ注目され、知名度も上がってきました。

データを見ると、合併後、下のグラフのように糸島市の観光客は伸び続け、平成29年には年間648万人が訪れています。

まだまだ糸島市を知らない人も多いと思いますが、人気観光地ランキング、住みたいまちランキングで上位になり、全国の雑誌、テレビで紹介されるようになりました

外からは見えにくい課題

糸島市には豊富な食材が満ち溢れています。

大陸からいち早く伝わった水稲の文化・技術を受け継いできた生産者たちと、肥沃な土壌に育まれた糸島野菜に糸島牛や糸島豚。大陸棚や潮目といった絶好の漁場にも恵まれています。日本一の漁獲量(7年連続)を誇る玄界灘の荒波に揉まれた天然真鯛。資源管理を長年徹底し、国内に10%以下しか流通していない国産のハマグリ。海と山が近接し、栄養たっぷりの海水で育つ糸島カキ。こうしたブランド食材の宝庫です。

漁獲量7年連続日本一の天然真鯛など糸島市は海・山・平野の美食が豊富
漁獲量7年連続日本一の天然真鯛など糸島市は海・山・平野の美食が豊富

これだけ聞くと、どこでもありそうな自然と食が豊かな地方のまち、と思われるかもしれません。しかし、糸島市はケタ違いで圧倒的な強みをもっています。

糸島市のお隣の福岡市は東京から飛行機で1時間半程度。その福岡市中心部から車や電車でおよそ30分の距離に糸島市は位置します。

これほど都市部から短時間で行けるアクセスが便利な場所で、海や山などの自然豊かな環境に囲まれ、海・山・平野のさまざまな“美食”を味わうことができます。多くの観光客を受け入れることができる食材は、質はもちろん、種類、量も豊富。これらが糸島市の大きな強みです。 

糸島市は観光客だけではなく、移住者も増加しています。平成22年の糸島市誕生後、一時は人口減少していましたが、ここ数年で増加に転じました。特に子育て世代の転入が増えています。

しかし、このように一見順調に見えるエリアである糸島市は外からは見えにくい課題を抱えていました。「表向きの華やかさと地域経済の豊かさがリンクしていない」という課題です。たとえば、収益を生み出す事業の60%以上が産直施設や飲食業であり、観光客が向かう先以外は、ほとんどの業種が厳しい状況でした。

地域経済活性の必須条件

統計データからは、糸島市に拠点を構える事業者の6割が従業員5人未満で、特にこの層の廃業が加速していました。さらに、地域企業を30社以上インタビューしたところ、ほとんどの企業が「商品開発はしたいが宣伝スキルがない」「販路開拓ができない」という悩みをもっていました。

つまり、地域経済活性化には「小規模事業者の生産性向上」が重要であり、小規模事業者を支援するためには「開発から販売までの流れを自分たちでつくる」ことが必要だ、ということです。

こうした地域が抱える課題を解決するために「食という糸島の強みを活かして新しい糸島ブランド創出を目指す」マーケティングモデル事業が始まりました。

(「『地域経済の“牽引役”』の見つけ方」に続く)

岡 祐輔(おか ゆうすけ)さんのプロフィール

糸島市(福岡)企画部秘書広報課主査。MBA(経営修士)。2003年に二丈町(現・糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。2016年に「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で地方創生担当大臣賞を受賞。受賞した政策を実施した「糸島マーケティングモデル」は「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー2018」で地方創生賞(コト部門)を受賞。これらの功績により、地方公務員アワード2018を受賞。著書に 『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』 (学陽書房)がある。

<連絡先>
電話:092-332-2079(直通)
メールアドレス:oka.y.856@city.itoshima.lg.jp

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