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がん検診受診率向上における自治体の課題と取組【自治体事例の教科書】

がん検診受診率向上における自治体の課題と取組【自治体事例の教科書】

がん検診受診率の向上は、各自治体に共通する課題のひとつです。欧米では受診率が60~80%であるのに対し、日本ではほとんどのがん検診で50%を下回っているからです。実効性を高める受診率向上の施策や取り組みとは? 独自の工夫やユニークな取り組みを行っている事例などから、そのポイントを探りました。
 
【目次】
■受診率向上の取り組みの現状とは
■事例①【「どれにする?」から「いつにする?」に】高浜町(福井県)
■事例②【リピート受診促進】八王子市(東京都)
■事例③【広域連携SIBによる委託】広島県と県内6市

がん検診受診率の現状とは

日本人の死因のトップであるがん対策について、国は平成19年に策定した「がん対策推進基本計画」のなかで、個別目標のひとつとしてがん検診の受診率を50%以上とすることを掲げました。

厚生労働省が保健、医療・福祉など国民生活の基礎的な事柄について3年に1回調査する「国民生活基礎調査」によると、平成28年の男女別がん検診受診率(40~60歳)は、胃がん検診は男性46.4%女性35.6%、大腸がん検診は男性44.5%女性38.5%、肺がん検診は男性51.0%女性41.7%。さらに、女性を対象とした乳がん検診は44.9%、子宮がん検診は42.3%との結果になっています。

このように、国が目標とする受診率50%をかろうじて上回っているのは、男性の肺がん検診だけ、という結果になっています。

がん検診は健康増進法に基づき、区市町村が実施する健康増進事業です。次に、さまざまな工夫でがん検診受診率向上に取り組んでいる自治体の事例を紹介します。

事例①【「どれにする?」から「いつにする?」に】高浜町(福井県)

高浜町(福井県)は特定健診とがん検診の同時受診を実施し、受診者の受診時間短縮と経費負担軽減を図ることでがん検診の平均受診率を86.8%(平成28年)にしています。

同町では毎年4月に各地区の健康づくり推進委員が検診の希望調査票を各家庭に配布・回収して受診希望日を受け付けています。その際、特定健診とがん検診のセット受診そのものについて希望日を囲む「オプトアウト式」のフォームを使用。特定健診とがん検診の2つのうちの「どれにする?」から、特定健診とがん検診のセット受診を「いつにする?」という概念に変えることで、受診率向上を推進しました。

セット受診を希望せず、いくつかの検診だけ申し込みたい場合や個別検診を希望する場合は、検診ごとに希望日を記入し、希望しない検診には未受診理由を記入してもらうといったように、セット受診を希望しない場合の記入方法をあえて複雑にしたほか、セット受診の申し込み動機を高めるため、受診時間の短縮にも取り組みました。

通常は、午前中に特定健診・肺がん・胃がん・大腸がん検診を、午後に乳がん・子宮頸がん・大腸がん検診を実施していますが、同町では午後にも特定健診・肺がん検診を実施。従来、女性の場合、1日がかりだった検診が、午前または午後半日でのセット受診が可能になり、セットで受けやすい環境整備を行いました。

男性の場合も2年に1回受診すればよい検診をそれぞれ午前と午後にまとめ、午前か午後の半日で受診を終えられるようにしました。

これらの取り組み実施後は、実施前と比べ、すべての検診の申込者が増え、とくに2年に1回受診となる乳がん・子宮頸がん検診は1.8倍と大幅増となりました。同町のセット受診促進の取り組みは、きわめて実効性の高い施策だと言えるでしょう。

事例②【リピート受診促進】八王子市(東京都)

八王子市(東京都)は大腸がん検診の検査キットに関してさまざまな工夫を行い、受診率向上に結びつけています。

まず、平成26年から特定健診と大腸がん検診のセット受診の促進を目的に、特定健診の前年度受診者に対して大腸がん検査キットを無料同封しました。以前は特定健診受診者のうち37.8%が大腸がん検診を受けていましたが、検査キットの同封効果で同時受診率が66.1%に上昇しました。

さらに、大腸がん発見に有効な毎年のリピート受診者を増やす施策につなげるため、次のようなテストも実施しました。

それは、検査キットの送付対象者を2つのグループにわけ、受診案内送付時に、一方のグループには「検査を受けに行くと来年度も検査キットを無料送付します」旨をメッセージし、別のグループには「受診しないと来年から検査キットは無料送付されなくなります」といった、権利喪失可能性を強調するメッセージを同封する、といいうもの。

すると、「行けば次ももらえます」と伝えたグループに比べて、「行かないと次からもらえなくなります」とメッセージしたグループのほうの受診率が7.2%高くなるという結果になりました。

意味内容は同じで書き方を変えただけなのですが、同市の場合、権利の発生ではなく、権利を失うことを強調したほうが受診率向上に結びつくという結果になりました。

事例③【広域連携SIB】広島県と県内6市

広島県と同県内の竹原、尾道、福山、府中、三次、庄原の6市は、SIB(ソーシャルインパクトボンドの略)の手法を用いた大腸がん検診受診率の向上に取り組んでいます。

SIBとは、行政が民間資金を活用して事業を行う成果連動型の仕組みのことで、民間の資金やノウハウを活用して社会的課題解決型の事業を行い、行政はその事業成果に応じて成果報酬を支払います。

その特徴は、①事業の結果ではなく実施した成果が可視化されること、②成果に応じて行政から支払いが行われること、③成果が出るまでの事業資金について、行政ではなく民間が資金負担をすること―などが挙げられます。行政は財務的リスクを抑えながら民間の効果的な取り組みを活用でき、事業者は成果を重視した柔軟なサービスの提供が可能となります。

広島県の県全体のがん検診の受診率は5つのがん全てで40%程度と、全国平均と比べて極端に低いわけではないものの、国が目標に掲げる受診率50%達成には届いていませんでした。そこで、新たな手法として全国初の広域連携によるSIBを組成し、受診率アップの施策立案や実施などを民間企業に委託することにしました。

SIBを採用した理由は、
①受診率アップに向けた柔軟な対応ができるなど県民サービスの向上が期待できる
②成果が可視化されることでエビデンスの蓄積が図れる
③行政コストが節減できる
などのメリットが期待できるためです。

実施期間は平成30年から令和2年までの3年間。対象者(40歳~69歳の国保加入者等)の過去の検診・検査情報について人工知能を活用して分析し、オーダーメイドの受診勧奨を行っています。


<参照元>
厚生労働省「がん対策推進企業アクション」「受診率向上施策ハンドブック」
国立がん研究センター「がん検診受診率」
全国国民健康保険診療施設協議会ホームページ
高浜町ホームページ
八王子市ホームページ
広島県ホームページ    等

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