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医療情報連携ネットワーク(EHR)について・実施事例【自治体事例の教科書】

医療情報連携ネットワーク(EHR)について・実施事例【自治体事例の教科書】

高齢化により医療や介護ニーズがますます高まる一方で、少子化で医療や介護に携わる人材が不足しています。都市部と地方の医療機関の偏在なども問題となる中、地域の医療機関や介護施設などがネットワークを組み、より適切で効率的な医療や介護を提供し、住民のケアサービスを充実させていくことが求められています。そのために構築が期待される医療情報連携ネットワーク(EHR)について、地方自治体の実施事例をご紹介します。

【目次】
■神奈川県横浜市の実施事例
■徳島県徳島市の実施事例
■高知県下の自治体の実施事例

神奈川県横浜市の実施事例

神奈川県横浜市では横浜市全域、さらには他都市にある医療機関との情報連携を図るべく、鶴見区でEHR展開の実証実験をスタートさせました。鶴見区が選ばれた理由は、団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年を皮切りに、少なくとも10年以上にわたって医療需要が増大していくことが見込まれているためです。

医療ニーズがますます高まる中、医療・介護関係者が十二分に機能を発揮し、将来の医療需要の増大に対応するには、限りある医療資源の有効活用を図らなくてはなりません。そこで、情報活用の高度化と効率化を図るべく、ICTを活用したEHRの利用が期待されます。都市部における地域包括ケアシステム構築の実現を目指し、患者の診療に必要な情報を共有化することで、医療機関や介護施設で正確で迅速なコミュニケーションを図り、最適な診療・治療・健康管理を行っていくことが目的です。

それぞれの機関が保有するレセプトをはじめ、電子カルテや診断用画像、検査情報といった患者のデータを患者本人の同意に基づき、プライベートクラウドのデータベースに格納して相互に情報を参照できる「サルビアねっと」を構築しました。鶴見区を中心とした病院・医科診療所・歯科診療所・薬局・入所型および訪問看護ステーションなどの介護事業所をつなぎ、 地域医療や介護福祉の向上を図り、住民一人ひとりの状態に応じた最適な医療や介護サービスの実現を目指していきます。

徳島県徳島市の実施事例

徳島県では徳島県全域を対象にした ICTを用いた医療・在宅介護情報連携基盤「徳島県全域 EHR(愛称:阿波あいネット)」を展開し、地域医療の連携や多職種連携を可能とし、施設間において医療や在宅介護情報の共有を行っていきます。徳島県内の主要な大学病院を有する徳島大学が中心となり、徳島県内の医療機関による双方向の情報連携を進めることで、EHRの利用価値を向上させる取り組みです。

阿波あいネットは、徳島市民病院が評価実施機関となり、徳島県および徳島県医師会の協力のもと、徳島県内の病院・医科診療所・歯科診療所・薬局・介護施設をネットワークで結び、全体で60,000名の参加を目指しています。参加施設の増大と施設が抱える患者の増加を通じて、効果的な地域包括ケアや地域を越えた広域の医療情報連携へとつなげていくことを目的とする取り組みです。

少子高齢化が深刻化する中、今後の医療体制は病院完結型から地域完結型医療へ転換することが求められており、そのためにも医療・介護連携によるネットワーク化は欠かせません。阿波あいネットを通じて、徳島県内の医療情報を、データを収集した施設を問わず、住民個人単位で一連の記録としてシームレスに統合させます。地域医療や地域包括ケアシステムに携わる関係者間で共有し、診断や治療に活用することで、医療や介護の質の向上と効率性を高めることが狙いです。

住民がはじめて受診する医療機関であっても、他の機関を利用していれば、過去や治療中の内容を詳細に確認できるので既往歴などに即した安心で最適な医療の提供が可能となります。患者もいちいちこれまでの病状や服用歴などを説明する必要がなくなり、専門知識の有無による情報の伝達不足などの不安から解放されるのもメリットです。

各医療機関で処方歴や検査結果を共有できるため、重複処方や併用禁忌の防止ができ、重複検査や検査漏れのリスクを減らせます。患者にとって医療機関が変わる度に何度も同じ検査を受ける負担や手間を減らすとともに、治療の効率を上げ、医療費や調剤費の抑制にもつながり、高齢化により膨大となる医療費の削減にも寄与できます。また、徳島市民病院などの中核病院へ入院する必要が生じた場合、これまで受診していた地域のかかりつけ医における診断や治療を細かく共有することが可能です。

転院や退院をする際には入院中の治療結果を転院先やかかりつけ医と詳細に共有できます。医療機関を退院して介護施設に転所する場合や、介護施設の入所者に入院の必要が生じた場合も、介護の記録や治療の記録を互いに共有でき、より適切で充実したケアや医療につながるのがメリットです。

患者は中核病院でより高度な治療を受けたいと考えても、再び同じような検査を受けることなどを負担に感じ、受診を躊躇し病状を悪化させ、治療の遅れや医療費がかさむケースも少なくありません。一方、病状がよくなり退院した後も、地元の診療所などに転院するのが面倒に感じ、中核病院へと通院を続けることで、中核病院の外来患者が増え、医師や看護師の業務負担が増えるとともに、より重篤な患者への治療や受け入れができなくなる恐れがあります。

阿波あいネットを通じた情報共有で、患者が負担を感じずにスムーズな転院が可能となれば、重篤な患者は中核病院で、軽症や寛解(かんかい)の患者は地域のかかりつけ医でケアするバランスのよい役割分担が可能となるメリットが生まれるのです。また、災害発生時や事故や急病による救急搬送時には患者が意識不明などに陥り、これまでの既往歴などを伝えられないケースが少なくありません。

阿波あいネットに登録されている情報があれば、より適切な救命救急が実現できます。東日本大震災では津波で医療機関も流出し、膨大な量の医療データが失われ、被災者の診療の質を下げることにつながりました。徳島県で南海トラフ地震のリスクに備えた対策が求められており、阿波あいネットの活用が期待されています。

高知県下の自治体の実施事例

高知県では四万十市、宿毛市、土佐清水市、大月町、黒潮町、三原村がそれぞれ協定を締結し、幡多地域定住自立圏という新たな圏域を形成しています。幡多地域定住自立圏では医師不足などに伴い、幡多地域定住自立圏内だけで救急医療をはじめとした二次医療の完結が難しくなっています。

そこで幡多地域定住自立圏域の医療機関が役割分担行い、急性期から回復期・維持期へと切れ目のない医療を適切に提供できる体制づくりが必要です。そのために、救急医療や高度医療を担う中核病院と幡多地域定住自立圏域内の各病院や診療所のネットワーク化を促進することが求められています。

第1として、しまんとネット、幡多医療ネットワークを通じた地域連携クリニカルパス事業を実施します。脳卒中や大腿骨頚部骨折の重篤な症状につき、地域連携クリニカルパスを運用して急性期から回復期、維持期へと病期ごとに異なる医療の役割分担を図り、診療情報の確実な伝達と連携を図る取り組みです。

第2として電子カルテ情報の公開・共有化事業に取り組みます。幡多地域定住自立圏域の中核病院である県立幡多けんみん病院の電子カルテ情報を幡多医療圏の連携医療機関へオンライン化して公開することで、急性期から回復期、維持期へと、切れ目のないスムーズな医療連携を目指します。

第3として、へき地医療情報ネットワーク事業もスタートさせました。高知医療センターや県立幡多けんみん病院、大月町国民健康保険大月病院などの拠点病院と、へき地にある診療所をオンラインで結び、情報の共有や交換をはじめ、遠隔画像診断などを用い、へき地診療所の医療水準の向上を図ることを目指すものです。

〈参照元〉

首相官邸_「医療・介護・健康×ICT」の推進について(総務省)
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/jisedai_kiban/iryoujyoho_wg/dai1/
siryou3.pdf
)

神奈川県横浜市_横浜市EHR構築支援補助事業 事業成果報告書
(https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/seisaku/ICT/guideline.files/0031_20190527.pdf)

徳島県徳島市_徳島県全域を網羅するEHR(医療情報連携基盤)整備事業
(https://www.city.tokushima.tokushima.jp/shisei/kansa_koukai/kojinjouhouhogo/
densikeisankiketugou.files/kjh-hyoukasho-hospital01.pdf
)

高知県四万十市_幡多地域定住自立圏共生ビジョン(四万十市・宿毛市)
(http://www.city.shimanto.lg.jp/gyosei/plan/teijyu/k-vision.pdf)

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