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行政をハックしよう~ユーザー中心の行政デジタルサービスを目指して

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【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長/デジタル庁 企画官・吉田 泰己)

「霞が関のDX人材といえば、この人は外せない」。官民ともに行政DXに深く携わる人たちがこう口をそろえる経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長の吉田 泰己さん(デジタル庁 企画官を併任)が、自ら主導した“経済産業省DX”の事例等をもとに、行政がDX構築を進める上で「知っておくべき思考法とサービス開発手法」を行政官向けに平易に解説した著『行政をハックしよう~ユーザー中心の行政デジタルサービスを目指して』(ぎょうせい)を刊行しました。デジタル化に取り組む担当者はもちろん、すべての行政官が必読すべき同書のポイント、背景等を吉田さんに解説してもらいます。

通底に流れる“2つの問い”

私は2017年に留学から帰国し、経済産業省情報プロジェクト室で主に事業者向けの行政サービスに従事してきました。4年間、同部署で室長補佐から室長に昇進し、また2021年9月にデジタル庁が設立され、現在はそちらでも企画官として複数のプロジェクトに携わっています。

本書『行政をハックしよう~ユーザー中心の行政デジタルサービスを目指して』は主に私が留学していた際に学んだ海外のデジタルガバメントの動向や、経済産業省での取組みを通じて考えた行政のデジタル化を進めるに当たっての姿勢、方法論、行政のあり方の変容についてまとめたものです。主な読者として行政官の皆さんを念頭に執筆しました。

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『行政をハックしよう~ユーザー中心の行政デジタルサービスを目指して』(ぎょうせい)の表紙カバー

本書の通底に流れる問いとして、「我々行政官は本当に市民の利用しやすいサービスを提供できているのだろうか」、「我々の働き方は市民にサービスを届ける上で本当に効率的なのだろうか」の2つがあります。

本筋は技術導入ではなく意識変革

1点目については、行政サービスは「お役所仕事」という言葉に代表されるように、多くの市民から負担が大きく、面倒なものだと思われています。市民が日常生活で利用するスマホなどの民間サービスが利用しやすくなったことで、行政サービスのクオリティが大きく問われています。これはコロナ禍における給付等の支援における市民の不満からも明らかです。

社会全体のデジタル化が進む中で行政サービスもその例外ではありません。ユーザー中心にサービスをデザインする「サービスデザイン思考」を行政官も理解する必要があり、その考え方について本書では説明しています。

2点目については、中央官庁職員をはじめ、長時間の残業や若手職員の早期退職、公務員志望者の減少などが生じています。こうした行政官の労働環境の悪化やそれに伴う職員の減少には、紙を中心とした業務プロセスや、既存の手続の非効率を疑わずに前例踏襲している業務慣行に原因があると考えます。

問題の根本的な解決には、業務プロセスの見直しとそれに合わせたデジタル化による自動化を進めることが必要です。こうした改善を通じて行政官が市民のサービス向上という1つ目の業務に時間を割ける環境を実現することが重要なのです。

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市民にとってはめんどうで働く人にとってはブラック…!?(スマホのはめ込み画像は夜の官庁街)

こうした2つの問いを解決するには行政組織自体が変わらなければ、それを実現することはできません。デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術を単に導入することではなく、行政官が上記の2つの問いを認識した上で、組織を、職員の意識を変革することが最も重要であるというのが本書の立場です。

お役所文化を “IT企業化”

現在の行政組織の多くは十分なITスキルを持つ職員がおらず、その結果としてシステム開発を大手のITベンダーに依存してきました。しかし、デジタル化を進める上では、行政官自身もどのようにデジタル技術をサービスに取り入れるかを考え、行政側にもテクノロジーを理解する専門人材を抱えることが重要になります。

専門人材を採用し、真にテクノロジーを活かせる組織になるためには、その人材が働きやすいカルチャーを作り上げることが重要になります。つまりIT企業のような働き方が可能になるような環境づくりができるかが問われることになります。これは行政組織のあり方そのものを見直すことでもあるのです。

加えて、本書ではサービスデザイン思考と合わせて「アーキテクチャ思考」の重要性を説明しています。これはシステムを理解する上ではレイヤー構造を理解することを意味します。縦割りをなくし、重複投資を避けるためにも、自分がどのレイヤーの、どの部分を担当しているのか理解した上で業務を考えなければ、ユーザーにとっても、職員にとっても利便性の高いデジタルサービスは実現しないのです。

様々な行政サービスで共通する機能はシステムとしても共通化しなければ、業務は減りませんし、市民からみた場合にもサービスごとに体験が違うため、混乱を呼びます。このようにどの部分を共通化するのか、個別化するのかの判断は関係する部署が連携していなければ把握することはできません。

この点からも現在の行政組織に強くみられる縦割構造打破の重要性や、行政組織の変革の必要性を理解できると思います。

~本書のCHAPTER~
<プロローグ>
 デジタルテクノロジーで行政の「当たり前」を変えよう
Ⅰ.行政組織、行政官の置かれる環境と役割の変化
Ⅱ.なぜ行政のデジタル化を進める必要があるのか
Ⅲ.経済産業省DXの取り組みが目指してきたもの、達成できていないもの
Ⅳ.行政組織に欠けている2つの思考
Ⅴ.アーキテクチャ思考でビジネス・デジタルガバメントの事例を見る
Ⅵ.行政デジタルサービスを開発するための3つの手法
Ⅶ.IT企業のような行政組織を目指す
Ⅷ.新型コロナウイルス感染拡大で見えた行政サービスの課題
Ⅸ.目指すべきGovernment as a Serviceの方向性
<エピローグ>
 デジタルコンフィデンスを持って行政をハックするために

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宮坂学 東京都副知事が本書の帯に寄せた推薦文

行政官の“志”をかなえるテクノロジー

多くの行政官の方々は社会を良くしたい、市民に素晴らしいサービスを届けたいと思って入省、入庁したにも関わらず、実際にはそれができないギャップに悩まされていると思います。私自身も行政官として働く中で同じ思いに悩む場面が多々ありました。

その問題を解決するのが行政組織のあり方の変革であり、デジタルテクノロジーの活用であることを私は信じています。

しかし、多くの行政官の方がデジタル化といっても何から手をつけたら良いのかわからない、といったことが現状としてあると思います。本書はそうした人の背中を押す1冊でありたいと思っています。まずは自分の考え方や姿勢を変え、一歩踏み出して組織や業務、サービスを見直してみる、それをより多くの行政官の方ができれば、行政組織は変容していくはずです。

IT部門以外の行政官の方々には、本書には聞き慣れない言葉がたくさん出てくるかもしれません。しかし、デジタルサービスを提供する企業では本書で書かれているような言葉が普通に使われているのです。全ての企業がデジタル化を目指す中でこれを学んでいます。行政だけが、旧態依然としていて良いのでしょうか

本書をそのスタートラインに立つための1冊として多くの行政官の方々に読んでいただければ幸いです。

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吉田 泰己(よしだひろき)さんのプロフィール

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経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室長
デジタル庁 企画官
2008年経済産業省入省。法人税制、地球温暖化対策、資源・燃料政策などを担当の後、2015年から2017年までシンガポール・米国に留学。海外のデジタルガバメントの取組について学ぶ。
2017年より情報プロジェクト室所属。経産省DXオフィスの立上げ、事業者向け行政サービスのデジタル化を推進。
2020年7月より情報プロジェクト室長。2021年よりデジタル庁企画官を併任。
<note>https://note.com/hiroki_yoshida/
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