※下記は自治体通信 Vol.55(2024年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
デジタル技術の導入がさまざまな業務において進むなか、「契約業務」に注目する自治体は多い。デジタル技術の導入効果が、自治体内だけでなく、契約の相手方である地域の事業者にも生まれるためだ。高知県もそうした自治体の1つで、実証実験を経て、令和4年5月に電子契約システムを導入したという。実際の運用効果は、どのようなものか。導入の経緯を含め、同県の担当者2人に話を聞いた。
[高知県] ■人口:66万5,114人(令和5年12月1日現在) ■世帯数:31万2,948世帯(令和5年12月1日現在) ■予算規模:7,910億8,000万円(令和5年度当初) ■面積:7,102.28km² ■概要:黒潮が打ち寄せる変化に富んだ海岸線をはじめ、四万十川に代表される清流や緑深い山々など、豊かな自然に恵まれている。多種多様な特産品が存在し、「カツオ」や「ショウガ」は全国的に知名度が高い。高知の自由で豪快な気風は、「いごっそう」や「はちきん」と呼ばれ、「よさこい祭り」に代表される個性豊かな地域文化を発展させる原動力のひとつとなった。
高知県
総務部 デジタル政策課 課長補佐兼DX推進室長
矢野 隆補やの りゅうすけ
高知県
総務部 デジタル政策課 DX推進室チーフ(計画推進担当)
川村 洋平かわむら ようへい
県内の経済団体からも、電子契約導入の要請が
―高知県が電子契約を導入した経緯を教えてください。
矢野 高知県は他県よりも人口減少や少子高齢化が進んでおり、複雑化・多様化する課題に限られた数の職員で対応するため、行政事務の効率化が求められています。そうした背景のなか、令和2年度には県内の経済団体からも県に対して電子契約導入の要請があり、議論の俎上にあがっていました。
川村 ただし、当時は電子認証局が発行する電子証明書を用いた「当事者型」に利用が限定されていたため、導入には至りませんでした。しかし、令和3年1月の法改正を受け、簡易的な「立会人型」の運用が可能になったことから、同年8月からの実証実験を経て導入を決定し、令和4年5月から弁護士ドットコム社の『クラウドサイン』の運用を開始しています。
―導入後の効果はいかがですか。
川村 業務フローが変わり、作業時間が大きく縮減されました。従来は、契約書の印刷・製本・押印・郵送を繰り返していましたが、システム導入後はPDFデータをシステム上にアップロードするだけで済みます。誰でも簡単に操作でき、自動でメール通知される相手方が、システム上で承認すると手続きは終了します。従来2~3日を要していた契約締結が、最短1時間程度で完了しています。
矢野 郵送代や印紙代が不要になることでコスト削減効果も実感しています。当県では、年間約4,300件の契約手続きが発生していますが、県と事業者双方の郵送代を1件300円とした場合、そこでは約260万円の郵送代がかかると算定しました。それがすべて不要になるのです。そのうえ、約7,000万円もの印紙代も不要になると算定しており、事業者の負担はさらに減るでしょう。そうした効果に期待し、令和4年度は、変更契約も含めて3,267件の契約について電子化が進みました。特に土木部の公共事業で電子契約の利用が増え、令和5年度は、令和4年度実績をさらに上回る見込みです。
すべての契約を電子化へ
―今後の方針を聞かせてください。
矢野 この間の運用経験から、電子契約は県民サービス向上を目的とする行政DXの理念を体現する取り組みだと実感しています。事業者からの問い合わせも増えているため、今後はシステム導入効果の最大化に向けて、すべての契約の電子化を目指していきます。また、弁護士ドットコム社からはLGWAN対応のシステムも発表されているようなので、今後導入を検討していきます。
導入直後から効果を実感するには、豊富な実績による支援が重要に
弁護士ドットコム株式会社
クラウドサイン事業本部 パートナービジネス部 デジタル・ガバメント支援チーム マネージャー
高柴 明朗たかしば あきお
大手メーカーのソフトウェア開発やシステムエンジニアを経て、令和3年、弁護士ドットコム株式会社へ入社。自治体を含めた公共営業部門のマネージャーを担当する。
―電子契約を導入する際のポイントはなんでしょう。
明確な導入効果が実感できる電子契約に自治体の関心が高まる一方、各自治体の契約業務を取り巻く事情は微妙に異なっています。一律にサービスを提供するだけでは、導入直後から効果を実感するのは難しいのが実情です。そのため、自治体の事情に即した導入支援が重要になります。そこで当社では、『クラウドサイン』の提案にあたり、各自治体が必要とする導入から運用までのフェーズにおける支援を特に重視しています。
―サービスの特徴を教えてください。
『クラウドサイン』では、前述の問題に対応すべく、電子契約用の運用フローの構築や、庁内・事業者向けの説明会の開催だけでなく、130を超える自治体への導入実績を背景に充実した導入支援や事例紹介を行っています。これらが高知県から高い評価を受ける要因となり、また、最近では例規専門会社と協業して知見のサポートも行い、多くの自治体から高く評価されています。
―今後、どのように自治体を支援していきますか。
令和5年10月には『クラウドサイン』がLGWAN外部電子契約サービスリストに登録され、LGWAN環境下で契約書の原本ファイルのダウンロードや保管・管理ができるようになりました。今後は、これまで以上に広範囲な活用を提案するとともに、文書管理や財務会計などの基幹システムとの連携をサポートし、より効率的な行政のデジタル化を支援していきます。