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さまざまな改革を断行してきた辣腕首長が語る自治体経営の要諦

人口減時代に取り組むべきは“不均等”な行政サービスである

富山県富山市長 森 雅志

どの自治体も超高齢・人口減少社会を見据え、効果的な対策を打ち出そうと必死で取り組んでいる。そんななか「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を基本政策としてさまざまな施策を行っているのが富山市だ。市長の森氏は平成14年1月、旧富山市長に初当選。平成17年4月に市町村合併で新しく誕生した富山市の初代市長に就任して以降、多くの改革を断行してきた辣腕首長だ。同氏に、独自の取り組みについて聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.4(2016年4月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

郊外と中心市街地を結ぶ交通インフラを整備

―富山市が基本政策として推進している「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」について教えてください。

 車社会の発展により、(※)スプロール現象で拡散した人口を中心市街地や公共交通沿線に呼び込むための取り組みです。このまま人口減少と高齢化が進めば社会保障費が増え、若い人の負担が大きくなってしまう。その将来を見越して、若者や高齢者にとっても暮らしやすいまちをつくらないといけませ
ん。そのために、これ以上の人口拡散を止める必要があったのです。

 ただ、富山市の取り組みは「コンパクトなまちづくり」とは言いながら、頭に「公共交通を軸とした」とつけています。点在して住む人を強引に限定エリアにまとめるのではなく、まずは地域拠点と中心市街地を結ぶ導線としての交通インフラに投資。「車も公共交通も使う暮らし」を推奨しつつ、中心市街地や公共交通沿線に人を呼ぼうとしたのです。そういう意味でのコンパクト化です。

 従って、郊外居住を全否定しているわけではありません。自然のなかで子育てしたい人、勤めている工場近くに住みたい人など志向はさまざまですから。僕だって実家が専業農家の長男だから、いまも梨畑の真ん中に住んでいます(笑)。

※スプロール現象 : 都心部から郊外へ無秩序、無計画に開発が拡散していく現象のこと

―中心市街地に人を呼ぶためにどんな施策を行っていますか。

 大きく3つの取り組みをしています。1つめは、公共交通を質のいいものに変えること。具体例として、利用者の減少が続いていたJR富山港線を公設民営の考え方により、日本初の本格的(※)LRTシステム、富山ライトレールとしてよみがえらせました。LRT化することで、ホームも階段も改札もないので、シルバーカートを押している高齢者でもサッと乗れます。

※LRT : Light Rail Transitの略。低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、 :都心部から郊外へ無秩序、無計画に開発が拡散していく現象のこと定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システムのこと

人を呼び込むキーワードは「おいしい、楽しい、おしゃれ」

―2つめはなんでしょう。

 公共交通沿線地区に住むよう、人を誘導しています。たとえば、規制を強化するのではなく、推奨エリアに引っ越してきた人には補助金を出すといった具合です。

 そして3つめが、中心市街地を魅力的にすることです。取り組み例としては、市が保有する市内の商業床でいちばん高く売れるエリアに「グランドプラザ」という多目的広場をつくりました。土日祝日はほぼ100%なんらかのイベントが行われ、人でにぎわっています。

 また、65歳以上を対象に「おでかけ定期券」を発行。市内のどんな遠方から来ても、公共交通機関を使って中心市街地で降りれば1乗車100円ですみます。これによって毎日2800人以上の高齢者が中心市街地に出てきていることがわかっています。

 そのほか、祖父母と孫が一緒に来ると市の施設の入場料や入園料が無料で、カップルで来るとプラネタリウムが月に1回無料。街中のいたるところを花で飾ったり、街中の花屋さんで花を買い、市内の路面電車に乗ると運賃無料なんてこともやっています。

―花を飾ったり、花を持ち込めば運賃無料というのはムダではありませんか。

 費用便益比で見れば、ムダかもしれません。しかし僕は、人を呼び込むキーワードは「おいしい(お得も含む)」「楽しい」「おしゃれ」だと思っています。もっといえば「ヒューマニズム、リアリズム、ロマンティシズム」に基づいて施策を考えているのです。

 こうした施策により、公共交通を使ってやってくる。車じゃないからお酒だって楽しめる。すると、市民のライフスタイルが変わっていき、「もっと外出して楽しもう」となる。また、引きこもりがちだった高齢者の外出機会が増え、会った人と会話をすることで、健康寿命の延伸も期待できます。

―そうした取り組みにより、どのような成果があったのでしょう。

 中心市街地は平成20年から転入超過を維持しており、昨年初めて人口が増えました。じつに56年ぶりのことです。また、平成26年度の人口は日本全体で0.21%減少。一方富山市は0.16%にとどまっています。そして、富山県全体の地価は23年連続下落していますが、富山市では0.3%上昇しています。それが2年続いています。

 こうした取り組みが評価され、(※)OECDよりコンパクトシティの世界先進モデル都市として選出されるなど、世界的に注目されるようになりました。こうして国内外の評価が高まると、市民が「シビックプライド」をもち、それがさらに人口を呼び込む。こうした正のスパイラルを生み出して、持続性の高い都市を実現していきます。

※OECD : Organisation for Economic Co-operation and Developmen(t 経済協力開発機構)の略。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め34ヵ国の先進国が加盟する国際機関

成果を無視した均等なサービスは無意味

―森さんはここで紹介したものにとどまらず、さまざまな改革に取り組み、一定の成果をあげています。改革を成功に導くポイントはなんでしょう。

 地域ごとの役割に合った行政サービスを提供することです。

 以前の基礎自治体は、「地域すべてに均等に同じ水準の行政サービスを提供しなければならない」というスタンスでした。でもそれは、経済が右肩上がりだったころの発想です。とくになんの手立てもせずとも、税収が来年も増えるのであれば、それでもいい。

 でもいまは、まったく逆です。さらに人口が減り続けていくという時代に昔と同じことをやっていては、砂に水をまくようなもの。成果が出ず、全体が地盤沈下してしまいます。ですから、たとえ表面的には不平等に見えても、しっかり成果を出すための施策をしないと意味がありません。

 いちばん高い中心市街地の地価
が下落していくと、市全体も引っ張られて下がってしまう。すると固定資産税が下がり、税収を圧迫。結果、自治体経営の危機をまねく。だからこそ、中心市街地へ積極的に投資したのです。そして、実際に地価は上がりました。一方、郊外の中山間地をないがしろにするわけではなく、農業支援をするなど、郊外の役割に合った行政サービスを提供するのが重要なのです。

―地域ごとに異なった行政サービスを提供することで、不満をもつ市民もいるのではないですか。

 それは、市民の理解を得るしかありません。データで根拠を示したり、小さな成功体験を重ねていくことで、積極的に支持してもらわなくても、消極的に理解さえしてもらえばいい。

 少し乱暴ですが、100%の理解を得るのを住民から待っていたのではなにもできません。そもそも100%の支持なんて得られるわけがない。多くの自治体が審議会や検討会をつくり、準備にばかり時間をかけている。僕らはそこに時間をかけない。一定程度の合意形成ができれば、動きます。

相手が根負けするまで説得し続ける

―どのようにして一定の合意形成を得るのでしょう。

 「説明責任」でとどまることなく、「説得責任」まで果たすことです。これが大事。それが将来の市民のために、我々が果たすべき使命なのです。

 最初に富山ライトレールを導入したときは、1回2時間の説明会を1日最大4回、全部で120~130回やりました。職員の説明会を含めると計200回ほど。市民が疲れて「もうわかったよ」というくらいやる(笑)。

「俺はいらないけど、おばあちゃんにはあったほうがいいな」くらいの合意形成ができれば、それでいいのです。

森 雅志(もり まさし)プロフィール

昭和27年、富山県富山市生まれ。中央大学法学部を卒業後、昭和52年に司法書士・行政書士事務所を開設。平成7年に富山県議会議員に初当選し、平成11年に再選。平成14年に富山市長に当選し、平成17年に市町村合併で新しく誕生した富山市長に当選する。現在は3期目。全国で初めて本格的LRTシステムを導入するなど、さまざまな改革を打ち出し、成果をあげている。

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