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ヒト、モノ、カネを呼びこむ神保流「シティプロモーション」の深層

自立した政策力をもてば「選ばれる自治体」になれる

ヒト、モノ、カネを呼びこむ神保流「シティプロモーション」の深層

埼玉県戸田市長 神保 国男

日本全体が人口減少社会に突入したいま、自治体間競争が顕在化しつつある。しかし、独自の魅力を打ち出せずに悩む自治体は多い。そうしたなか、東京都に隣接し、地理的条件に恵まれる一方で、ともすればその影に埋没してしまいかねない戸田市(埼玉県)では、まちの魅力を内外に発信し、ヒト、モノ、カネを呼びこむシティプロモーション(以下、CP)を早くから実践。さまざまな効果を出している。「CP戦略」の旗を振る同市長の神保氏に、その考え方と現在までの成果などを聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.4(2016年4月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

過半数が「名前も知らない」希薄な都市イメージを変えたい

―戸田市では平成23年にCP戦略を策定しました。そのきっかけを聞かせてください。

 平成19年、全国を対象にしたある民間調査で「認知度が低く、都市イメージの希薄なまち」という世間の認識が突き付けられたことがきっかけでした。戸田市について「名前も知らない」と答えた人が全体の約半数もいたのです。非常にショックでした。

 昭和60年のJR埼京線開通以来、戸田市は人口増加を続けてきました。なかでも若年層の増加比率が高く、市民の平均年齢は平成8年以来、つねに県内一の若さを誇ってきました。財政健全度も県内トップ。自分たちでは、むしろ周囲からうらやまれる存在との認識さえありました。

 折しも、平成19年当時は人口減少社会の到来が語られはじめ、戸田市でも今後、人口は「自然増」よりも、住民に選んでもらう「社会増」を競わなければならないとの危機感が高まっていました。そこで、外部に対する差別化を意識しながら、まちの魅力を積極的にアピールし、市民の誇りと愛着心を向上させなければならないと認識
を改めたのです。

―CPの実行にあたり、戸田市の魅力をどう分析したのですか。

 東京に隣接した地理的条件は、いうまでもなく最大の魅力です。戸田市の人口増加もこれに起因する部分が大きいのは事実です。

 一方で、こうした条件は人口移動の激しさにつながっており、諸刃の剣です。実際に、平成22年までの5年間の人口統計を見ると、35~49歳では逆に転出超過になっていました。つまり、転入してきた若い世代が、子育ての時期に転出を決意してしまう、大きな流れがあると考えられます。我々はこうした分析から、子育て世代への支援を充実させることで、この世代の人口流出を止めようとの明確な戦略を立てました。「子育て・教育のまち」を大々的に標榜し、住環境=住みやすさをブランド化するCPを展開してきたのです。

子育て・教育に重点を置き住環境をブランド化

―施策の中身を教えてください。

 住環境をブランド化の対象と決めた戸田市では、まちの魅力が高まる要件として、とくに「子育て」「教育」に明確な重点を置きました。子育て世代の支援では、全国的に問題になっている待機児童の解消にいち早く着手しました。市内の保育所定員は、就任した18年前には1038人でしたが、これを平成26年4月には2143人へと2倍強に増加させました。さらに、小規模保育施設、家庭保育室への財政支援を強化しました。これは最近、国がまったく同様の施策を始めました。

 一方、教育では、国際理解教育推進特区に選定された経緯があり、小学1年生から英語教育を導入しています。戸田市の場合、中学3年生になると4割ほどは英検3級の実力をもっているといわれており、すでに近隣の市町村よりも学力は高いとされています。さらに今後は、市内の中学3年生全員に英検を受験してもらい、3級を取得することを教育目標に設定しようと考えています。

―教育政策ではどのような成果が出ていますか。

 こうした成果が実り、昨年4月の埼玉県学力テストでは、小・中学生ともに県内でもトップレベルの学力となっています。この結果は、教育委員会などからの広報を通じて、「教育のまち」のイメージ戦略に大きく寄与しています。

 来年度はベネッセコーポレーションとの連携を深め、先進的なICT環境をさらに整備し、教育レベルを一層引き上げる計画です。この教育水準の高さを理由に、周辺の自治体から住民が転入してくるケースも出はじめました。

―戸田市の場合、CPの最終的な目的は人口増加ですね。これらの施策の成果として、人口はどう推移していますか。

 平成26年は人口増減率で全国第6位の増加率1.95%を記録しています。徹底した広報戦略によって「子育て・教育しやすいまち、とだ」のイメージが徐々に浸透している成果だと感じています。今年の人口は13万5000人と、国立社会保障・人口問題研究所の推計を上回るペースで増加しており、戸田市で改めて将来人口を推計し直しました。その結果、平成47年の14万2000人まで増加を続けると見込まれています。

 これには確かに、地理的条件も大きく影響していますが、類似の自治体は、さいたま市や川口市など県内にいくつもあります。にもかかわらず、人口増加率も平均年齢の低さも戸田市が依然として県内一です。平均年齢にいたっては昨年で20年連続となりました。

成功の鍵は政策立案力という「裏付け」

―CPを広く普及させる活動もされていますね。

 はい。平成25年8月に、シティプロモーション自治体等連絡協議会を設立したのはそうした活動のひとつです。小さな自治体では、多額の広告宣伝費をかけることができません。これに対し、協議会は、民間企業や大学、自治体の知恵を出し合い、交流していくことで、少ない経費で大きな効果につなげる仕組みです。

 定期的な研修、相互の視察訪問などを通じて、同じくCPに取り組む意識の高い自治体職員との人脈形成、情報交換も可能です。さらに会員自治体は、必要に応じて、行政計画や指針を策定する際の人的、物的な後方支援を受けることもできます。

―戸田市では、自治体内シンクタンクとして「戸田市政策研究所」を平成20年4月に設置していますね。CPの推進でどのような役割を果たしているのですか。

 CP戦略の策定にあたって、もっとも基礎的なデータとなる人口移動などの調査はすべて政策研究所が行っています。政策研究所は所長を務める副市長を筆頭に、政策、広報などの担当職員が研究員として参画しています。専従職員はひとりですが、テーマごとに部署横断的に数人から十数人の市職員がプロジェクトチームを結成します。従来の縦割り行政の弊害を排し、問題の全体像を認識できる優秀な人材が市役所内に育っていることも好ましい相乗効果です。

 政策研究所の最近の成果では、スマートフォン用アプリ「tocoぷり」の開発があります。これは、「イベント情報」や「市からのお知らせ」、さらには市民が抱くまちの課題など、さまざまな情報を投稿し、行政と市民の情報交流を図る仕組みです。市民が主体的に地域の情報を発信することで、市への愛着を高めてもらうねらいです。昨年2月に、この取り組みが評価され、調査研究グランプリを受賞しました。選ばれる自治体になるためには、地域の実情に合った独自の政策立案力・実行力という「裏付け」は非常に重要です。

市制50年で新戦略策定高齢化対応で首都圏のモデルに

―現在、政府は地方創生をうたい、さまざまな施策を打っています。どのように評価されますか。

 従来のように、中央から画一的な政策が下りてくる地方創生では、失敗に終わる可能性が高いでしょう。地域の実情に合った政策を自治体が主体的に実行できなければ地方創生は成功しません。「財源を回せ、人材はいる」と国に主張できる行政経営がなければ、自治体間競争は生き抜けません。

 これまで地方分権改革や道州制議論がありました。その際、よく指摘されるのは受け皿となる自治体の人材力不足ですが、戸田市においては、その指摘は当たりません。また、協議会に参加しているほかの自治体も、国や都道府県に頼らず、自立した行政経営を志す意識の高い自治体が多いです。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 今年、戸田市は市制50周年を迎えます。同時に、CP戦略も今年から新たな5ヵ年に突入するため、現在改訂作業を進めています。

 戸田市はこれまで人口増加や若さが“売り”でしたが、一方で、国の試算では全国で10番目の速さで高齢化が進む自治体になると予想されています。高齢化率は現在の15.6%が平成52年には28.8%にはね上がるとみられています。現在進めているCP戦略の改訂作業では、この高齢化対応がひとつの柱になるでしょう。子育て・教育分野で国に先駆けた政策力を活かし、高齢化対策の分野でも、遅れた首都圏自治体のモデルケースになりたいと考えています。

神保 国男(じんぼ くにお)プロフィール

昭和17年、戸田市生まれ。法政大学法学部卒業。学生時代は陸上部で活躍。昭和42年に司法試験に合格し、神保国男法律事務所を開設。埼玉弁護士会副会長などを歴任。昭和62年より埼玉県議会議員に3期連続当選。平成10年に戸田市長に就任し、現在5期目。戸田市の知名度向上に力を入れ、シティプロモーションに積極的に取り組んでいる。シティプロモーション自治体等連絡協議会の発起人でもあり、会長を務めている。

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