―保育園においてどのような業務改善を行ってきたのですか。
いまほど「保育のICT化」が注目されていなかった平成23年から、児童票や指導案をパソコンで作成してデータベース化を図るなど、保育業務支援システムの導入を進めてきました。手書きによる大変な業務を優先して徐々に導入し、効率化を進めていけば、保育士をはじめとする保育者の負担も軽くなり、もっと働きやすくなるだろうと考えたのです。
その背景には、「保育士の定着率向上を図る」という目的もありました。この業界は他業界にくらべて離職率が高い傾向にあり、当法人も同じ課題を抱えていると同時に、いまほどではないですが保育士不足の兆候が生まれていました。そのため、定着率の向上に注力し、保育業務支援システムの導入を図ったのですが、「システムによる業務効率化だけでは不十分だ」とは感じていました。
―そこでどのような対策を講じたのでしょう。
民間企業がリリースしていた保育者の心のケアに特化したサービスに注目しました。このサービスは連絡帳アプリや、登降園管理、帳票管理などの業務を効率的に行えるサービスの、ひとつのコンテンツです。
―詳細を教えてください。
細かなチェック項目に対して保育士が答えた結果を分析し、各人のコンディションを診断するサービスです。さまざまな角度から回答してもらうことで、「働きやすさ」「モチベーション」「困りごと」といった観点で分析し、個人レポートを作成。それをもとに管理職と保育者が定期的に面談し、コミュニケーションを図るのです。
当法人も以前からアンケートや面談は行っていましたが、紙ベースなので見返すのも大変ですし、園全体の傾向を把握するのも難しい。その点、このサービスなら、パソコンやスマートフォンで入力でき、個々人の詳細な分析結果はもちろん、全体の傾向を掴むことも可能に。なにより、チェック項目は保育者に特化しているため、「より保育者に寄り添った分析が望める」ということから2年前に導入しました。
子どもの主体性を活かす「なんだろうのその先へ」
―導入後の効果はありましたか。
この2年は、新しい取り組みに慣れるための準備段階だと考えていたので、まだ定量的な効果に結びついているとまではいえません。ただ、重要なのは「管理職と保育者がいかに質の高いコミュニケーションを図れるか」ということ。いきなり「さあ、話しましょう」といっても難しいですが、分析結果という共通理解にもとづいて話し合えば、より深いコミュニケーションが生まれる。そうした関係性を構築すれば、離職率の低下にもつながるはずだと考えています。
これまでは「このサービスをどう活かしていくか」という、いわば勉強期間。この間に勉強してきたことをもとに、法人全体で管理職と保育者のコミュニケーションをしっかり築いていきたいですね。
―保育者のケアを含めた、今後の保育方針を教えてください。
当法人は「なんだろうのその先へ」を合言葉に、子どもの主体性を活かす保育をめざしています。保育者が誘導しすぎるのではなく、子どもがしたいことをできるだけ汲み取って尊重します。結果、子どもの探求心が芽生え、豊かな成長につなげていくのがねらいです。
そのため、保育者の主体性も大事にしています。保育者が主体性をもって行動するからこそ、子ども主体の保育ができるはずですから。そうした保育はやりがいを感じる一方、ともするとがんばり過ぎてしまうことも。結果、みえないところで保育者自身がムリしてしまう傾向にあります。
だからこそ、業務効率化や保育者のメンタルケアは重要で、保育者がどういう心の状態にあるかを管理職と本人が把握し、必要であれば改善を図っていく。それが、保育者に長く働いてもらうための環境づくりにつながっていくと考えています。
このサービスが導入された当時は現場の保育士だったのですが、自分では自覚していなくても「モチベーションと体調が噛み合っていない」といったことがわかりました。たとえば、モチベーションが折れ線グラフで数値化されているので理解がしやすいほか、データにもとづいた面談のため、「きちんとケアされている」と感じていました。
園長になってからは、保育士と一緒に診断データを見返しながら「このときはこうだったね」と振り返りを行っています。過去のデータを参考にして、今後はスキルを上げていきたいのか、あるいはもう少し自身の家庭に向き合いたいのか、といった目標設定の参考にもしています。分析データを一緒に読み解いていくことで、より深いコミュニケーションにつながっています。