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文化の集積を❝深掘り❞して 磨きあげる。それが石川県らしい観光施策なんです

文化の集積を❝深掘り❞して 磨きあげる。それが石川県らしい観光施策なんです

石川県 の取り組み

北陸新幹線金沢開業で評価された独自の取り組みとは

文化の集積を❝深掘り❞して 磨きあげる。それが石川県らしい観光施策なんです

石川県知事 谷本 正憲

「行きたかった、あの日本へ。」。JR東日本が首都圏を中心に展開した印象的なキャッチコピーとともに、平成27年3月、北陸新幹線が金沢まで開業した。それから3年以上が経過したいま、どのような状況になっているのだろうか。「約400年の文化を守り続けることこそ重要」だと語る知事の谷本氏に、新幹線開業による効果や、石川県ならではの観光施策について聞いた。

※下記は自治体通信 テクノロジー特別号(2019年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

利用者が約3倍に増加その勢いは衰え知らず

―北陸新幹線の金沢開業から3年以上が経ちました。実際にどのような効果がありましたか。

 まず開業1年目は、開業前とくらべて約3倍の926万人の方が新幹線を利用されました。北陸新幹線は、延伸の凍結や再開を繰り返してきた歴史があり、われわれもどのくらいの開業効果が出るのか不安でした。「先に開業した東北・九州新幹線並みの利用があれば」と思っていましたが、その予想を大きく超えています。

 さらに、開業から2年、3年経ってもそのペースがほとんど落ちないんです。普通は時間が経てば利用者も落ち着き、徐々に減っていくもの。現在は4年目ですが、その勢いは変わっていません。JRの方と話した際も「このペースは、もう定着するんじゃないですか」といってもらえました。

 こうした結果には、本当に驚かされているというのが正直なところですね。

―どういった点が利用者から評価されているのでしょう。

 石川県では、古くは加賀藩前田家の時代から時間をかけて築きあげてきた文化をはじめとする財産の、さらなる磨きあげを行ってきました。それが、東京・金沢間が約4時間から約2時間半に短縮されることで、「時間と距離の心理的負担」が払拭され、改めて評価されたのだと思います。磨きあげてきたのは、おもに3つ。「歴史・景観」「食文化」「おもてなし」です。

―詳しく教えてください。

 「歴史・景観」でいうと、金沢城の復元整備があげられます。平成8年から、前田家の居城だった金沢城を江戸時代後期の姿に復元しています。木造城郭建造物で、明治以降復元された建物としては日本最大級でしょう。平成29年は約230万人の方にお越しいただき、「さすが加賀百万石のお城はすばらしい」と評価されています。

 「食文化」では、石川県は「能登の里山里海」に代表されるように新鮮な海山の食材が豊富。くわえて、それを調理する技術者をたくさん養成してきました。しょう油や味噌、地酒などの伝統的な発酵食品や、九谷焼や輪島塗、山中漆器といった料理を盛りつける器の文化もある。そうした、総合力としての食文化を磨きあげてきました。

―「おもてなし」はどうですか。

 「おもてなし」を支えるのは人です。石川県には加賀温泉郷や和倉温泉など全国でも有数の温泉地があり、お客さまをお迎えする「おもてなし」はみんな心得ているんです。それは宿の従業員に限った話ではなく、タクシーやバスの運転手、飲食店の従業員、ボランティアスタッフなどもそう。また、県も定期的に研修を実施しています。

 そうして、ずっと長い時間をかけて磨きあげてきたものが評価されているのです。さらに、新幹線が開業したことで、さまざまな波及効果が生まれています。

新たな観光客増加と新たな旅行形態を確立

―それはなんでしょう。

 まず、東北エリアからのお客さまが約1・8倍に増えました。以前は仙台から金沢まで約5時間かかっていたのが、東北新幹線から大宮で乗り換えれば約3時間半で来られるように。東北と北陸を結ぶ直通新幹線も好評で、年々増便しています。いまは団体用の貸切列車ですが、実績を重ね、将来は臨時列車というカタチで時刻表に載るようになればと考えています。

 さらに、金沢港へのクルーズ船の寄港が増加しています。金沢駅から金沢港へは、車で約15分。そのコンパクトさを利用して、金沢港から日本海周遊クルーズを楽しんで、また金沢駅から北陸新幹線に乗って帰るという「レール&クルーズ」という旅行形態が生まれたんです。平成26年は16本だったクルーズ船の寄港数が、平成29年は47本に。平成30年はさらに増え、現時点で50本を超える見込みです。そのため、大型のクルーズ船が寄港できるように岸壁の水深を深くするなどの工事を急ピッチで進めているところです。

―ほかに効果はありましたか。

  新幹線開業前は年間約30万人だった外国人観光客が平成29年は約61万人と倍増しました。いま金沢のまちなかを歩いて、外国人観光客に会わない日はありません。われわれは平成28年に「2025年に海外誘客100万人」の目標を掲げたんですが、当初は職員から「厳しい目標ですね」と弱音も聞かれましたが、いまでは「視野に入ってきましたね」と。

 今年はラグビーワールドカップ、来年は東京オリンピック・パラリンピックが控えています。クルーズ船を利用する外国人観光客も増えると予想されます。そうしたことを踏まえ、スポーツイベントやクルーズをからめたツアーの造成を働きかけているところです。

伝統を無視した取り組みは石川県にあわない

―谷本さんが観光施策を行っていくうえで、重視していることはなんでしょう。

 私が知事になってまもない頃、ある方に石川県の魅力を聞いたときの答えが「それは知事、文化の集積です」と。やはり約400年もかけて、加賀前田家の時代から築きあげてきた文化は、よそがマネしようとしてもできない、というわけです。

 だから「新たなテーマパークの建設」といったような取り組みは、石川県にはあわない。そういうのは、狙わないほうがいいんです。先人が少しずつ築きあげてきた財産の質を高めて、“深掘り"していく。それが、石川県らしいやり方だと思いますね。

敦賀開業に備えて相乗効果が狙える施策を

―石川県における今後のビジョンを教えてください。

 引き続き、県の歴史・文化に厚みをくわえていくような取り組みを進めていきます。

 人口減少が進むなか、これからの地方創生は量や規模より、質の高さが求められる時代だと思います。そうすると、これだけ集積されている文化に磨きをかけていけば、「石川県が衰退していく」ということはないんじゃないかと考えています。むしろ、そういう意味では石川県の時代が来たといえるかもしれないですね(笑)。

 約4年後には、北陸新幹線敦賀開業が控えています。新たな開業効果が期待されるため、金沢開業と相乗効果を図れるような取り組みを行っていきたいですね。

谷本 正憲(たにもと まさのり)プロフィール

昭和20年、兵庫県生まれ。昭和43年に京都大学法学部を卒業後、自治省(現:総務省)に入省。島根県総務部財政課長、宮崎市助役、茨城県環境局長および総務部長、自治省行政局公務員部公務員第二課長、自治省財政局交付税課長、自治省財政局公営企業第一課長などを歴任する。平成3年、石川県副知事に就任。平成6年、石川県知事に就任する。現在は7期目。

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