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地方における人材活用促進

「人的資本経営」を地域企業に根付かせる「地域の人事部」という試み

    「人的資本経営」を地域企業に根付かせる「地域の人事部」という試み

    経済産業省関東経済産業局・民間企業の取り組み

    地方における人材活用促進

    「人的資本経営」を地域企業に根付かせる「地域の人事部」という試み

    経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課長 志村 典彦
    株式会社パソナJOB HUB ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長 加藤 遼
    [提供] 株式会社パソナJOB HUB

    社会経済環境が目まぐるしく変化し続けるなか、地方の自治体においては、地域経済の担い手となる中小企業の価値をいかに向上させ、地域活性化につなげていくかが課題となっている。こうした状況について、経産省関東経済産業局の志村氏は「地域において、『人的資本経営』を推進できる仕組みを構築していく必要がある」と話す。そうした仕組みはどのように構築すべきなのか。関東経済産業局とともに、地域の人材支援事業に取り組むパソナJOB HUBの加藤氏も交えて、詳細を聞いた。

    経済産業省
    関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課長
    志村 典彦 しむら のりひこ
    株式会社パソナJOB HUB
    ワークスタイルイノベーション本部 ソーシャルイノベーション部長
    加藤 遼 かとう りょう

    「人的資本経営」に向けた、経営者のマインドセットが必要

    ―いま、地域経済の活性化は多くの自治体における共通課題ですが、取り組みを推進するうえで、どのような課題がありますか。

    志村 「人的資本経営」の推進に向けた、企業経営者のマインドセットが必要なことです。人的資本経営とは文字通り、人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出そうとする経営のあり方ですが、日本の企業においては長らく、人材育成や教育研修などの取り組みを「コスト」と捉える傾向がありました。経済産業省が令和2年にまとめた報告書によると、*1「人事部門を価値提供部門ではなく管理部門とみなしている者の割合」は世界平均で48%ですが、日本は60%と半数以上にのぼります。この結果からは、人的資本経営に向けた経営者のマインドセットがまだまだ必要な状況にあることがわかります。

     日本でも、都市部の大企業などにおいては、人的資本経営を推進するケースが増えてきましたが、地域の中小企業においては人的資本経営に対する理解自体がまだまだ足りていません。その背景には、人事部門を経験したことのある経営者が少なかったり、専任の人事・採用担当者がいなかったりする現状もあります。つまり、地域の中小企業が自社の力だけで人的資本経営を実現するのはなかなか難しいのです。

    加藤 「VUCAの時代」と言われるように、企業を取り巻く経営環境がつねに大きく変わり続けるなか、そうした変化に柔軟に対応できる仕組みが地域企業には整っていません。企業が経営環境の変化に対応しながら、企業価値を持続的に高めていくためには、「事業ポートフォリオの変化を見据えた人材ポートフォリオの構築」や、「イノベーションや付加価値を生み出す人材の確保・育成」など、経営戦略と人材戦略が連動する「人的資本経営」の推進が重要となります。

    自治体や産業支援機関などが、企業の人的資本経営を支援

    ―人的資本経営を推進していくために、どのような施策が必要となりますか。

    志村 地域の中小企業それぞれの経営課題や経営戦略を理解し、そこにふさわしい人材の獲得、育成、定着を一貫して担える枠組みを地域単位でつくることです。そこでいま我々、関東経済産業局が推進しているのが、「地域の人事部」という取り組みです。これは、自治体に加えて、地域の商工会、商工会議所、金融機関といった産業支援機関のほか、民間企業、NPO法人、教育機関等が連携し、それぞれのノウハウを持ち寄り、面的に域内企業の人材支援を行う仕組みです。

    加藤 人的資本経営の推進に向けたフックとなる事業としてはたとえば、「中核人材の活用支援」が挙げられます。現在、地域の企業においては、経営者の壁打ち相手となり、会社の経営戦略をともに練り、実行していくような言わば「社長の右腕」としての存在が、都市部の企業と比べて圧倒的に不足しています。同時に、昨今は兼業・副業を推進する機運が高まり、テレワークやDXの推進もあいまって、都市部の企業で働きながらも、地域企業にもかかわれる時代になっています。そこで「地域の人事部」では、都市部の企業に所属し、専門スキルや知識を持った兼業・副業人材を活用し、中核人材の採用・育成につなげていく支援も展開しているのです。

    ―現在の「地域の人事部」の取り組み状況を聞かせてください。

    志村 令和4年度は、茨城県日立市、常陸太田市、大子町、新潟県長岡市、燕市、長野県松本市、塩尻市、静岡県三島市の8自治体で「地域の人事部」を立ち上げ、実証事業を進めています。ここでは、「兼業・副業人材の活用」や「インターンシップ」といった実務的な施策を展開しながら、同時並行で、関係者間で地域における人材戦略支援のあり方を議論したり、施策のプロセスや成果のモニタリングを行ったりもしています。実務的な施策が進んだことで、いくつかの効果が出始めていることには、手ごたえを感じています。

    経営戦略に紐づいた人材戦略の重要性について理解が深まった

    ―どういった効果が出ていますか。

    志村 地域企業においては、兼業・副業人材を活用する際、経営者自身が直接兼業・副業人材と協働してプロジェクトを進めるケースが多いです。その場合、商品・サービス開発やDX推進のプロジェクトを通して、兼業・副業人材と協働していくなかで、原体験を通して「経営戦略に紐づく人材戦略」の重要性の理解を自然と深めていく効果が見られます。

     また、兼業・副兼人材の募集の際に、かなり数多くの応募者が集まるのですが、応募者たちの熱のこもった提案書を見て、自社の強みや魅力にあらためて気づかされるケースもあります。なによりも、兼業・副業人材など外部人材の事業に対する共感の大きさに、経営者たちが感動し、事業への熱意を強める姿は、この取り組みの大きな成果ではないでしょうか。

    加藤 この施策がタッチポイントとなり、地域のファンを育て、関係人口を創出するという、副次的な効果が同時に表れるのも、「地域の人事部」の面白いところです。従来、自治体においては、産業振興は産業振興部署、移住定住は別の部署が対応していたと思います。「地域の人事部」ならば、そこをワンストップで地域や産業に関する情報を提供できます。関係人口創出を図りたい自治体は今後、地域一体となった情報発信が必要となります。そこでも、「地域の人事部」は有効に機能できるはずです。

    多くの自治体が使えるように、立ち上げ工程をモデル化

    ―今後の「地域の人事部」の取り組み方針について聞かせてください。

    志村 今後、「地域の人事部」を多くの地域に広げるに当たり、「地域の人事部」立ち上げプロセスのモデル化を行っていきたいと考えています。現在、実証事業が進行中の8自治体は、それぞれに取り組みの進度が異なり、従来から外部人材の活用に対して取り組みが進んでいた地域もあれば、まったくのゼロから立ち上げた地域もあります。それらの実証事業での知見を抽出し、「地域の人事部」立ち上げプロセスのモデル化を行っていくことで、多くの地域が挑戦しやすい取り組みにしていきたいと考えています。

     さらに、令和5年度の事業展開に当たっては、新たに2つの観点を加えて取り組みを進める予定です。1つは、人材の供給元となる都市部の大企業との連携強化です。大企業と「地域の人事部」が連携することで生まれる効果はとても大きいと考えています。もう1つは、人材の流動化を促進するための、リスキリングの支援です。「地域の人事部」には、もともと教育機関の関与も想定されており、実際に塩尻市や松本市の事業では地元大学が参画しています。地域の人材ニーズを踏まえ、外部人材の登用のみならず、域内での人材育成も強化していくことも可能になるのではないかと思います。ぜひ、多くの自治体に、「地域の人事部」の枠組みを活用してもらいたいですね。

    志村 典彦 (しむら のりひこ) プロフィール
    平成8年、経済産業省関東経済産業局に入局。中小企業政策、地域経済産業政策、総務・人事部門などを担当した後、流通・サービス産業課長を経て、令和3年より現職。地域の支援機関、自治体等がそれぞれの強みを活かし、地域一丸となって地域中小企業の人的資本経営を推進する「地域の人事部」の構築に従事。
    経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 産業人材政策課
    連絡先 048-600-0358
    お問い合わせメールアドレス bzl-kanto-jinzai@meti.go.jp
    URL 関東経済産業局ホームページ
    「地域の人事部」について (関東経済産業局ホームページ)
    人的資本経営について (経済産業省ホームページ)
    加藤 遼 (かとう りょう) プロフィール
    平成18年、株式会社パソナに入社。令和2年より現職。おもに地域企業と複業人材のマッチング『JOB HUB LOCAL』、ワーケーションプログラム企画・運営『JOB HUB WORKATION』、越境学習プログラム企画・運営『JOB HUB LEARNING』の事業責任者を担う。
    株式会社パソナJOB HUB
    設立 平成17年6月
    資本金 5,000万円
    事業内容 『JOB HUB LOCAL』(地域企業と複業人材のマッチング)、『JOB HUB WORKATION』(ワーケーションプログラム企画・運営)、『JOB HUB LEARNING』(越境学習プログラム企画・運営)、顧問コンサルティング事業、ProShare事業、エグゼクティブサーチ、社外取締役、監査役の紹介事業、JOB HUB アウトソーシングなど
    URL https://pasona-jobhub.co.jp/
    お問い合わせメールアドレス local@pasona-jobhub.co.jp

    *1:※出所 : KPMG 「Future of HR 2020 岐路に立つ日本の人事部門 変革の一手」(2020年4月 KPMG)より経済産業省が作成

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