
埼玉県川越市の取り組み
窓口申請のICT化①
電子と紙の「ハイブリッド申請」で、窓口業務の混雑緩和を目指す
福祉部障害者福祉課 主査 清水 貴大
※下記は自治体通信 自治体DX特別号(2021年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、窓口申請のICT化に取り組む自治体は増えている。川越市(埼玉県)においても、独自のやり方で、実証実験に取り組んでいる。いったいどのような方法で、ICT化を推し進めているのか。同市障害者福祉課の清水氏に、取り組んでいる背景を含めて詳細を聞いた。

紙をなくして、すべて電子申請にはできない
―川越市が窓口申請のICT化に取り組んでいる背景を教えてください。
やはり、窓口業務が混雑していたことです。季節的な事情も含めれば、窓口が混雑するというのはどこの課でもある話です。しかし、障害者福祉課においては、慢性的に混雑していました。申請する書類がかなり多いというのもあるのですが、住民の順番が来たら窓口に座ってもらい、そこから記入してもらうスタイルだったため、どうしても時間がかかっていたのです。かなり前から「ICTの導入で改善できないか」という話は出ていたのですが、具体的には進んでいませんでした。
―それはなぜでしょう。
障害者福祉課の窓口業務が、電子申請に適していなかったからです。その理由として、申請書類が複写式であったこと。その場で控えを住民にお渡しするので、紙をなくしてすべてを電子申請にしてしまうわけにはいかない。さらに言うと、市町村で申請を受け付け、県などの他機関に進達する業務のため、簡単にやり方を変えることができなかったのです。
―そうした課題をどのように解決したのですか。
そんなときに、『自治体通信』でトランスコスモスが提供している電子申請に関する記事を読んだのです。内容は、窓口に行く前の段階でスマートフォンから事前に書類の記入ができ、記入ずみの書類を二次元バーコードに落とし込んで、それを使って窓口で申請書類をプリントアウトできるという仕組みでした。言わば、電子申請と紙申請のハイブリッドのようなもので、これなら当課の課題を解決できるのではと。それで、トランスコスモスが提供している『DEC Bot for Government』(以下、『DEC Bot』)を活用した実証実験を、「自立支援医療費(精神通院医療)支給認定申請書」「精神障害者保健福祉手帳申請書」「有料道路障害者割引申請書 兼 ETC利用申請書」の3分野で行うことに。令和2年の6月末から、順次開始しました。

住民から喜びの声を聞き、ICT化の本質だと実感
―実際に運用していかがですか。
開始当初こそ、Wi-Fiと窓口のタブレット端末と連動したプリンターとの相性が悪く、通信が切断されるといったことはありましたが、有線に変えてからは特に問題なく運用できています。そしてやはり、住民からは好評です。待ち時間を有効活用してスマートフォンで記入できるため、「早くてラクだ」という声は多いですね。
印象的だったのは、ある60代男性の声。ETCの利用申請で来られたんですが、その方は自宅のパソコンで入力し、二次元バーコードをプリントアウトしてもって来られたんですね。お話を聞くと、「手が震えてしまうので字がうまく書けない。だからこれがあって本当に助かった」と。この声を聞くだけで、障害者福祉課でやる意味があったと強く実感しましたね。混雑緩和につながるのはもちろんですが、このように住民の困りごとを解消することがICT化を進める本質だと思います。
―今後における『DEC Bot』の活用方針を教えてください。
引き続き、トランスコスモスと一緒に改善を進めていきたいです。実証実験の段階ですので、トランスコスモスから「どんなことでもいいから意見をください」と言われています。そこでたとえば、複写式でなくなったぶん、職員が申請書類に新たに書きくわえる必要がある際、複写すべてに記入しなければなりません。そのため、それを自動化できないかなどの要望を行っているところです。
始めて間もないため、サービスの周知ができておらず、窓口に来てからサービスを知る住民がほとんど。なので、「もっと早く知りたかった」という声も。6月末から開始して、11月末時点で3分野全体の申請が4,000件で、250件がシステムからの申請です。3分野は毎年更新と2年更新があるため、実際に利用が増えていくのは来年度、再来年度になるだろうと。ですから、続けていくことが重要だと思っています。
支援企業の視点
窓口申請のICT化②
「部分的なICT導入」なら、負担なく住民サービスの向上が望める
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括
デジタルエクスペリエンス本部 担当 所 年雄
※下記は自治体通信 自治体DX特別号(2021年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
前ページでは、独自の方法で窓口申請のICT化を進めている川越市(埼玉県)の事例を紹介した。このページではその取り組みの支援を行っているトランスコスモスを取材。自治体における窓口申請の課題やその解決法を、同社執行役員の所氏に聞いた。

住民だけでなく、職員の業務負担につながる
―自治体における窓口申請の課題はなんでしょう。
まずは、窓口に行ってから申請書類を手書きで記入しなければならない点ですね。記入ミスがあれば、その都度書き直しが必要。そのため、どうしても時間がかかることにくわえ、申請に来た住民の負担にもつながります。
さらに言うと、そもそも役所に行かないと、どの書類になにを書いて、どこに申請すればいいのかわからない、という課題もあります。自治体は、ホームページや広報誌などで案内はしています。ただ、なかなか住民の目にとまりにくく、「行ったほうが早い」と考えがちに。その結果、申請に必要な証明書やハンコをもってきておらず、また来庁しなおさなければならないことも。結果として、さらに申請に手間取ることになり、対応する職員側にとっても業務の負担となってしまうのです。

―どうすればいいですか。
やはり、申請業務のICT化を図っていくべきでしょう。しかし、すべての業務をICT化しようとすると、大がかりなシステムが必要であったり、職員も新たな業務フローを覚えたりしなければならなくなる可能性がある。それではコストがかさむうえに、現場の負担にもつながります。そこでポイントとなるのが、部分的にICT化を進めるということです。当社が提供している窓口申請システム『DEC Bot for Government』(以下、『DEC Bot』)は、そうしたニーズに応えられるサービスのひとつだと言えるでしょう。
―くわしく教えてください。
まず、スマートフォンを使って、窓口に行く前に申請書類を作成することができます。対話形式のチャットボットに従って記入するので、どの書類になにを書くのかが明確。申請に必要なものも、事前にわかります。入力後はその情報が入った二次元バーコードを取得。それを窓口の端末にかざせば、記入ずみの申請書類が印刷されるというわけです。住民側の申請フローをICT化しただけで、その後に発生する職員側のフローは以前と変わりません。また、自治体側に必要なのは窓口の端末とプリンターのみで、それは当社が用意します。必要であれば、既存のシステムと連動させることも可能。結果、自治体の負担なく、住民サービスの向上につながるという仕組みなのです。

実証実験を通じて、さらなるブラッシュアップを
―自治体からの反響はいかがでしょう。
令和元年9月にリリースし、いくつか問い合わせをいただきつつ、川越市のように実証実験を行っているところです。やはり、自治体によって業務の進め方が異なるため、さまざまな要望をヒアリングしながらブラッシュアップを図っているところですね。できるだけニーズに応えたいと思っていますので、少しでも興味のある自治体職員の方は、気軽に問い合わせてほしいですね。
―今後における自治体の支援方針を教えてください。
『DEC Bot』を普及させることで、自治体のDX支援を行っていきたいです。デジタル庁が創設されることが決まり、自治体のDXはより加速すると考えられます。また、近年は「コロナ禍」ということもあり、窓口申請に来た住民の滞在時間をいかに少なくするかが今後さらに重要になってくるでしょう。「いきなりすべてICT化を図るのは難しい」という自治体には、『DEC Bot』が最適だと自負しています。
設立 | 昭和60年6月 |
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資本金 | 290億6,596万円 |
従業員数 | 6万1,773人(グループ全体:令和2年9月末現在) |
事業内容 | デジタルマーケティングサービス、ECワンストップサービス、コンタクトセンターサービス、ビジネスプロセスアウトソーシングサービス |
URL | https://www.trans-cosmos.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 | 0120-120-364(平日9:00~18:00) |