
RPAの活用をいかに広げ、本格的な生産性の向上につなげていくかは、官民問わず、RPAを導入した組織が直面する課題のひとつだ。平成30年度からRPAの導入を進めている市川市(千葉県)では、「現場職員が使いこなせなければ、RPAの強みは活かせない」と考え、現場の職員が主体となってロボット(※)の作成を行っている。現場職員によるロボットづくりを重視する理由や、実践を通じて得られたロボットづくりのポイントなどについて、こども福祉課の森本氏に聞いた。
※ロボット:RPAツールにおいて、登録された手順(シナリオ)に従ってPC作業を自動で実行してくれるソフトウェア型のロボットのこと

ツールの選定では、職員による使い勝手を重視
―市川市でRPAが導入された経緯を聞かせてください。
当市では、企画部の行政経営課(平成31年3月までの名称は行財政改革推進課)が主導するカタチで、既存業務の効率化や業務の質向上を図る取り組みを行っています。従来のシステム開発では、はじめにシステム会社とともに要件を細かく決めた後、時間をかけて開発や改修を行いますが、RPAは、一度導入しさえすれば、現場の業務担当者による自由な発想でロボットをつくれるのがいちばんの魅力。そこで、自治体でも導入が急速に進んでいるRPAに着目したのです。
まずは、単純作業時間の短縮や人為的なミスの軽減に期待し、繁忙期の時間外労働の是正が課題となっていたこども福祉課と、保健センターの健康支援課でRPA導入のトライアルを実施しました。その結果、生産性の向上に一定の効果が見込めることが検証できたので、令和元年9月から、まずはこども福祉課でRPAを本格導入しました。トライアルでは4社のRPAツールを同時に検証していましたが、本格導入にあたっては、RPAテクノロジーズの『BizRobo!』を選定しました。

―RPAツールの選定では、どのような点を重視しましたか。
現場の業務担当者でもロボットがつくりやすいツールであることを重視しました。現在は多くの自治体で次々とRPAの活用事例が生まれていますが、RPAを適用できる業務は、自治体や部署によってさまざまです。一部の職員だけがRPAを扱えても、ロボットはなかなか増えていかないでしょう。そのため、継続的にRPAを活用し、本格的な生産性の向上を目指すのなら、トライアルの感覚値で言うと現場職員の3割から5割、理想としては7割ほどがRPAを扱えるようにならなければならないと考えています。
こうした観点から、ツールの選定においては、「メニューの見やすさ」や「項目の探しやすさ」「シナリオ分岐のつくりやすさ」といった各項目を数値で評価しながら、ツールの使い勝手を重視して比較検討を進めました。
また、ツールによっては、ロボットがディスプレイ上の要素を「画像」として認識します。その場合、たとえば、アプリケーションのバージョンアップで要素のデザインや位置が変わったり、ディスプレイの画面比率が異なるPCで表示したりすると、画像の見た目が変わってしまいます。そのため、ロボットが要素を認識できず、動かなくなってしまうことも。その点、『BizRobo!』は、ディスプレイ上の要素をHTMLの属性などから構造的に認識できるので、そういった心配がありませんでした。
導入決定後は、私を含めたこども福祉課の6人を対象にRPAの操作研修を実施。早速、自分たちでロボットをつくってみることにしました。
業務のフロー図が描ければ、ロボット内製化は難しくない
―実際にロボットをつくってみて手応えはいかがだったでしょう。
私を含め、プログラミングができるといったITの専門知識をもっている職員はいなかったのですが、普段私たちが行っている業務をフロー図で描けるようになれば、ロボットの内製化はさほど難しくないと感じました。
たとえば、児童手当の新規申請に関する業務では、はじめに窓口で申請を受けつけてから、その内容を課内で審査。そして、専用のシステムに入力した後、決裁に回します。こうした一連のフローのなかから、「どの部分ならばロボットに判断や処理を任せられるか」を見極め、RPAツール上でシナリオ化することさえできれば、単純でも間違いの許されない判断と処理をロボットに任せることができるのです。
RPAを扱えるようになるには、ITの知識そのものよりも、ロボットに処理を覚え込ませるために、業務フローの整理や、処理理由を明確化できるかどうかが大切だと実感しました。

―現在はどのようにRPAを活用していますか。
私が中心となってロボットを作成している段階で、具体的には、児童手当業務のうち、「口座振り込み変更の読み合わせリストの作成」や「受給者に対するお尋ね文の自動作成」といった作業のロボット化を進めています。文字を読み取れるAI-OCR(※)も、RPAの活躍の幅を広げられる技術として活用を検討しています。
このほか、マイナンバーを使った所得照会業務にも、RPAを活用したいと考えています。マイナンバーによる情報連携で、所得証明書を要さずに児童手当などの業務で必要な所得情報を確認できるようになりましたが、別システムに照会先情報を入力する作業が新たに増えていました。このシステム間連携にRPAを活用し、データ入力の正確性向上と作業量の縮減を図りたいですね。
今後、RPAを活用するにあたり、作業フローが複雑な場合は、民間事業者にサポートしてもらうことも当然、必要でしょう。ただし、業務担当者が自らロボットを内製化し、運用していくことがもっとも大切だと考えています。ですので、「多くの業務時間を縮減できる」といった大きな効果を狙うよりも、まずは自分たちでもできるところからどんどん着手し、ロボットの作成に慣れていきたいです。
※AI-OCR:手書きや印字文字をスキャナなどで読み取り、デジタルデータへと変換できる光学的文字認識(OCR=Optical Character Recognitionの略)と、AIを組み合わせた技術

―今後におけるRPAの活用方針を聞かせてください。
市としてのRPAの導入と運用は、行政経営課が主導していきますが、まだまだRPAを知らない職員も多いなかで、こども福祉課はその“先遣隊“として、RPAを使った業務改善の意欲を引き出していければと考えています。
現在のRPAは、決められたことを決められたとおりに行ってくれるツールであり、RPAをいかに活かすかは、「どうしたらロボットがより動いてくれるのか」を考えられる職員の能力と、業務改善に対する意識次第です。そして、業務改善でもっとも求められることは、「やる気」であると思っています。実際に、業務フローのシナリオを組み、ロボットがそのとおりに動いたときは、うれしいものです。まずは楽しみながら、RPAの活用を職員間で盛り上げ、生産性の向上につなげていければと考えています。そして、自治体の本来の仕事である、住民を幸せにするための業務により注力できるようにしていきたいですね。

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