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山形県南陽市 の取り組み

ソウルフード、ラーメンを主役に地域に人を呼び寄せる

みらい戦略課 企画調整係 鈴木 聡

山形県の南部に位置し、人口約3万2,000人を擁する南陽市。開湯920余年の歴史をもつ赤湯温泉のほか、ラ・フランスやさくらんぼなどの果樹栽培が盛んなことでも知られている。そんな同市が交流人口増加のための起爆剤として、打ち出した“一手”が大きな注目を集めている。市民のソウルフードであるラーメンを主役にしたまちづくりを唱え、平成28年7月に「ラーメン課」を発足させたのだ。プロジェクトの正式名称は『南陽市役所ラーメン課 R&R(ラーメン&レボリューション)プロジェクト』。革新的ともいえるこの取り組みは、どのような経緯からスタートしたのだろう。“ラーメン課長”として奔走する、南陽市のみらい戦略課の鈴木氏に詳細を聞いた。

山形県南陽市データ

人口: 3万1,830人(平成29年12月1日現在) 世帯数: 1万1,262世帯(平成29年12月1日現在) 予算規模: 219億4,724万円(平成29年度当初) 面積: 160.52km² 概要: 山形県南部にあり、1967(昭和42)年に市制施行。古湯・赤湯温泉には今も多くの観光客が訪れ、鶴の恩返し伝説の舞台としても知られる。ラ・フランス、さくらんぼ、ぶどうなどの果物が数多く生産されており、明治中期からの歴史を持つワイン醸造業もさかん。市の名前は中国の故事「南陽の菊水」にちなんだもので、その経緯から中国の南陽市とは友好都市提携を結んでいる。

―ラーメンは南陽市民にとって、どれほど身近な存在なのでしょう。

 まさにソウルフードといえる存在です。NTTタウンページの調査によると、人口10万人あたりのラーメン店数は山形県が70.92店と全国トップなのだそうです。この数字を南陽市(ラーメン店57店)で計算すると、人口10万人あたりでなんと178店。これは全国平均27.71店の約6.5倍もの数字となります。実際、当市では来客時に出前のラーメンでもてなすなどの独自のラーメン文化が培われてきましたし、多くのそば屋さんでラーメンが提供されているのも、ほかではなかなかみられない光景だと思います。

 ただ味のバリエーションが非常に広く、たとえば近隣の米沢ラーメンなどのように、統一された味や定義はありません。当市ではこれを逆にメリットととらえ、「南陽市に来れば、必ず自分の好みの味に出会える」とPRしています。

―どのような経緯から『ラーメン課 R&Rプロジェクト』は発足したのですか。

 直接的なきっかけとなったのは、地方創生の総合戦略策定に向けて平成26年10月に実施した市内の中高生向けアンケートです。その中で「市外の人に教えてあげたいもの・場所」という項目を用意したのですが、ラ・フランス、さくらんぼ、ぶどうなどの果樹とともに、「ラーメン」という回答がベスト4入りしたのです。私たち市職員にとってラーメンはあまりに身近すぎたため、当市の魅力としてとらえていなかったので、ある意味衝撃でした。

 またその翌年、公募市民13人と若手市職員14人により結成された「みらい戦略チーム」の話し合いの中でも、ラーメンが市の強みとしてあげられました。さらに、みらい戦略アドバイザーとして講演にお呼びした前武雄市長・樋渡啓祐氏が「さきほど食べたラーメンがおいしかったので、これをPRしてはどうか」と講演中におっしゃられたことも、強力な後押しになりました。

 そこで『ラーメン課 R&Rプロジェクト』が立ち上がったのですが、実をいいますと一部署として「ラーメン課」を設置したわけではありません。実際に設置するとなると議会の承認が必要になるため、どうしても時間がかかってしまいますから。スピード感を優先させるため、議会の承認が不要な“プロジェクト”として進めることを決め、プロジェクト名に「ラーメン課」と入れることにしました。後半部分の「R&R(ラーメン&レボリューション)」という言葉には、「前例のない試みにしたい」という想いが込められています。

―発足当初はどのような動きからスタートしたのでしょう。

 まず、発足前の平成28年の4月ごろから「ラーメン課員」の募集を始めていました。市職員の中からラーメン好きの有志を集めるとともに、外部の視点を得るために全国から一般の「ラーメン課員」を公募したんです。その結果、計69人(市職員21人、一般ラーメン課員48人)のラーメン課員が集まりました。一般課員の中には東京や大阪など遠方の方もおられますので、定例会議の出席が難しい場合は、SNSなどによる情報交流などの形で関わっていただくようにしています。

―プロジェクト立ち上げ時からスムーズに進んだのですか。

 いいえ、いろいろな課題がありました。最初に悩みの種となったのは、南陽市内のラーメン店の現状をどう把握するかということでした。市内に麺業組合はあるのですが、加入店はわずか10軒ほど。多くのお店が商工会や観光協会にも加盟していない状態。前出のように南陽市では、そば屋さんやドライブインなど他業種のお店がラーメンを提供している場合も多く、現状把握の作業は困難を極めました。

 ネット情報も利用しましたが、ここで頼りになったのは人のチカラです。市役所内から広く情報を集め、リストに漏れがないかは職員に何度もチェックしてもらいました。

 その次のステップとして、市職員のラーメン課員が実際に市内を巡り、事業に協力してもらえるかどうかのアンケート配布を行いました。その結果、現時点で57店から返事を回収できました。なかなか回答をいただけないお店には、職員が何度も足を運んで事業の趣旨を説明するなど、可能な限り「対話・対面」を意識しました。

 こうした取り組みで得たデータベースを使って作成されたのがラーメンマップ『なんようしのラーメン』です。

―評判はどうだったのでしょう。

 正直かなり好評でした。ここでも若者の視点を取り入れるため、東北芸術工科大学(山形市)で教鞭をとる南陽市出身の赤沼明男准教授の協力のもと、同大学のグラフィックデザイン学科を中心とした学生さんにラーメンマップの編集・制作を依頼しました。アンケートで「取材に協力できる」とお答えいただいた34店舗を対象とし、半年ほどかけて学生さんに取材に回ってもらったんです。

 このラーメンマップの大きな特長は、各店のラーメンがイラストで表現されていることです。ラーメン店の紹介というと無条件にメニュー写真を思い浮かべてしまいがちですが、大学側から「絵でしか伝わらないものがある」という提案をいただいたのです。ラーメン課会議でも話し合い、「いままでにないものを」というコンセプトに合致していたことから、イラストに決定しました。

 ラーメンマップは平成29年5月に完成。当初は1,000部のみの印刷でしたが、あまりの好評からその後9,000部を増刷することになりました。山形道のサービスエリアや東京・名古屋などの県事務所に設置していただいたほか、Web上にもPDF版を用意しました。こちらは現在までに、6,000以上のダウンロード数を記録しています。

―現在はどのようなPR活動を行っているのですか。

 基本路線は、いかにお金をかけずに「南陽市のラーメン」をPRするかということです(笑)。そのため情報発信の主軸として、SNSの活用を進めています。たとえばFacebookでは、ラーメン課の公式アカウントとともに、新たに結成した「ラーメンファンクラブ」用のアカウントを新設。43人(平成29年11月時点)の会員の方に、南陽市内で食べたラーメンの写真・情報をアップいただいています。またTwitterも好評ですね。平成29年11月1日現在で、Facebookのリーチ数は15万859、Twitterのインプレッション数は64万4,200を記録しました。

 プロジェクトを広めるためのもう1つの柱が「ラーメン大使」の委嘱です。これも金銭的な問題から、ボランティアで受けていただける方法を模索し続けてきました。たとえばラーメンの取材で来ていただいた方にその場で協力をお願いしたり、市長が会議や対談などで一緒になった方にトップセールスでお願いしてみたり。前者では元プロ野球選手のパンチ佐藤さん、後者では女優の渡辺えりさんなど、現時点で8人の大使に南陽市のラーメンをPRしていただいています。

―さまざまな取り組みを行っていますね。

 そうですね。ラーメン課員からの提案を1つひとつカタチにしていきたいと思っています。実際、平成29年6月~8月に開催した「ラーメンで笑顔!!フォトコンテスト」はラーメン課会議にて出された企画ですし、10月には、東北芸術工科大学の学生にデザインしてもらった“のぼり”も完成しました。すでに希望があった30店舗の店先に設置されており、南陽市のラーメンの“一体感”を演出するのに大きな役割を果たしてくれています。

 PRでこだわりがあるとすれば、県外のラーメンフェスなどに出店を考えるというより、あくまで「実際に店まで来て食べてもらう」ことを前提とし続けたいですね。なぜなら当プロジェクトの第一目的は、ラーメン屋さんの収入を上げることではありませんから。ラーメンを食べていただいたあとに、たとえば赤湯温泉に泊まって、同時に果樹や米にも親しんでもらうことが理想なわけです。「ラーメンを主役にした地域活性化」という最終到達点を見失うことなく、プロジェクトを進めていきたいと考えています。

―市民の意識になにか変化はありましたか。

 ありましたね。最初は市民もラーメン店も「本当に効果があるのか」と懐疑的でしたし、反応もそれほどよくはありませんでした。しかし職員が「対話・対面」を重視して説明を繰り返すことで、ラーメン店の方々が次第に協力的になってくるのを実感しました。またプロジェクトが進み、ラーメンマップやのぼりという形が見えてくると、今度は市民の間でも「なにかやっているな」という感じで認知度が高まってきているようです。現時点では、観光客数といった定量的な成果としては集計ができていませんが、各ラーメン店の駐車場が満車になっている様子をみるだけでも、ラーメンを目的に南陽市を訪問された方が急増しているのは感じています。

―『ラーメン課 R&Rプロジェクト』の目標を教えてください。

 もちろん交流人口の増加が最大の目標です。その一方で、市内の事業者の側に意識の変化がみられてきたことにも注目していきたいですね。

 これまで、同業はあくまで「ライバル」という位置づけでしたが、それがいまでは、ラーメン店から「マップがなくなったから送って」といわれるようになりました。当然、マップには他店の情報も掲載されています。ですからこのような要望をいただけるのも、「まち全体を盛り上げたい」というプロジェクトのコンセプトが市民に広まりつつある証拠だと思っています。

 市としては、やはり地域活性化の主体はあくまで民間や事業者であるべきだと考えます。ラーメン課プロジェクトを一刻も早く軌道にのせ、あとは私たちがその裏方に回れるような状態になるのが理想です。南陽市のラーメンのムーブメントを引き継いでくれる民間団体の受け皿づくりも今後の大きな課題となるでしょう。

 将来的には、今回のプロジェクトによるノウハウを活かし、たとえば市内に5社あるワイナリーなどについても市外・県外にPRしていければとも考えています。

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