民間企業と一般社団法人の取り組み
交通施策へのデータ活用①
交通利便性をまちの新たな魅力に、まずはバスの利用状況把握から
信州千曲観光局 事務局担当 山崎 哲也
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
さまざまなモビリティサービスを有効活用して、人々の移動手段を充実させる「MaaS」。これを、住みよいまちづくりに活かそうとする自治体が増えている。千曲市(長野県)では、まちづくり活動を展開する地元企業の「ふろしきや」と信州千曲観光局が、MaaS施策の端緒としてバスの利用状況を把握する実証実験を行った。取り組みの狙いやその詳細について、それぞれの担当者に聞いた。


「デジタル乗車券」を、データの収集基盤に
―MaaSの取り組みを始めた経緯を教えてください。
田村 当社が主催するワーケーションの体験イベントを実施するなかで、「MaaS」というキーワードが浮上したのが最初のきっかけとなりました。イベント参加者が市内をより自由に移動できる仕組みを整えたいという発想が、公共交通機関を使ったMaaS施策の実施につながったのです。
山崎 ただし、公共交通機関は来訪者にとっての移動手段である以前に、地域住民にとっての重要な生活インフラでもあります。そのため、より広い視点に立って、住民や観光客、ワーケーション来訪者などさまざまな人々の移動ニーズを洗い出す必要性を感じるようになっていきました。しかし、そこには大きな課題が存在していました。
―どのような課題でしょう。
山崎 具体的にどういった方法で、住民や来訪者の移動ニーズを客観的に把握するか、ということです。たとえば、市内の主要な公共交通機関のひとつである路線バスは、交通系ICカードを導入していないため、利用者の乗降データを収集するすべがなかったのです。
田村 この課題の解決策として、協業パートナーのMaaS Tech Japan社から、ある提案を受けました。スマホアプリを使って人々の移動データを収集するという内容です。同社ではちょうど、乗車券をデジタル化し、人々の移動データを収集できる簡易的なアプリを開発したとのことでした。そこでまずは、そのアプリによって得られるデータの有効性を検証しようと、路線バスの利用者を対象とした実証実験を今年6月に行いました。
停留所ごとの乗降データを、グラフやマップで可視化
―どういった仕組みで移動データを取得するのですか。
田村 バス利用者が、乗降時にLINEアプリ上の「デジタル乗車券」で「乗車・降車ボタン」をタップすることで、そのときの時刻と位置情報が分析ツール『SeeMaaS』に送信されるのです。そこには、路線図や時刻表といったバスの運行情報をあらかじめ取り込んでいるため、それらの運行情報を乗降データと連携させることで、「どの路線のどの便を使い、どの停留所で乗り降りした」というデータに加工できます。そこから、グラフやマップなどに可視化できるため、バスの利用状況を一目でわかりやすく把握できるのです。
―具体的にどういった利用状況がわかりましたか。
山崎 実証実験の参加者はワーケーションイベントで来訪した人が多かったのですが、「交通ハブの間の移動のみにバスが使われる」といった傾向を容易につかむことができました。このデータは、ワーケーション来訪者や観光客向けに特化したデマンドバスの運行を検討するなど、今後の取り組みのヒントとなりそうです。
『SeeMaaS』では、配車アプリや交通系ICカードなどから得られるデータも可視化できるため、今後はバス以外の交通機関の利用状況も収集することで、人々のより詳細な移動ニーズを分析していきたいと考えています。
田村 人々の移動ニーズを把握できれば、ほかのモビリティサービスと組み合わせた具体的なMaaS施策の検討をより客観的な視点から行えるようになるでしょう。将来は、近隣地域から訪れる人々の移動データとも連携した分析を行っていく方針です。交通の利便性がまちの新たな魅力になるよう、住民と来訪者それぞれの視点に立ったMaaS施策に取り組んでいきます。
支援企業の視点
交通施策へのデータ活用➁
人々の移動ニーズを多角的に捉え、データドリブンな交通施策推進を
ここまでは、路線バスの利用状況を把握することで、交通の利便性向上を目指す民間の取り組みを紹介した。ここでは、その取り組みを支援したMaaS Tech Japanを取材。移動ニーズの把握に向けたデータ収集のポイントなどについて、同社の清水氏に聞いた。

移動ニーズの把握は、デジタルデータの取得がカギ
―公共交通機関の運営をめぐり、いま自治体にはどのような動きが見られますか。
具体的なMaaS施策や交通に関するテクノロジーの導入を検討するよりも、「まずは交通機関の利用実態を正確に把握したい」と考える動きが強まっていると感じています。その背景には、コロナ禍によって公共交通機関の利用が大きく落ち込んだことがあります。そこで、仮に鉄道やバスの路線を廃止した場合、人々の生活や自治体財政、各種行政施策にどのような影響を与えるのか。こうした、交通が与える多面的な影響を評価する必要性が高まっていると、多くの自治体が感じているのです。
―そうした影響を評価するために、自治体はどういったことに取り組めば良いのでしょう。
バスやタクシー、鉄道などさまざまな乗降データをデジタル情報として取得することが第一歩となります。デジタルデータを取得すべき理由は、調査にかかる労力を軽減できるメリットも挙げられますが、なによりも、分析ツールを用いた処理によって複数の交通機関の乗降データを駆使した多様な分析が可能になるからです。当社が提供する『SeeMaaS』は、そうした分析が可能なツールです。
―特徴を教えてください。
まず、「デジタルデータの取得」そのものをサポートする仕組みがあることです。『SeeMaaS』の「スターターエディション」では、簡易的なデジタルチケットアプリを提供しています。このアプリを使えば、交通機関の利用者にLINE上で操作してもらうだけで、出発地と到着地の組み合わせごとに利用者数を把握できる「OD*1データ」を取得できます。交通系ICカードを導入していない交通機関でも、簡単に乗降データを収集し、グラフやマップに可視化できるのです。
『SeeMaaS』には、「スタンダードエディション」もあり、こちらではさらに、交通機関の種類やデータの提供元を問わず、移動に関する多様なデータを融合した分析を行うことができます。
複数のデータをかけ合わせ、移動ニーズを分析できる
―具体的に、どのような分析ができるのですか。
たとえば、バスの利用データと国勢調査のデータをかけ合わせれば、住民の年齢層別にバスの利用傾向をマップ上で分析することなどができます。もしも、同じように高齢者が多く住んでいても「バスの利用頻度が異なるエリア」が見つかれば、その原因を客観的に考察し、交通網の再編といった具体的なアクションの要否を含め、より現実に即した適切な意思決定を行えるようになります。自治体は、こうした分析から人々の移動ニーズを多角的に捉えることで、カーシェアやデマンド交通も有効活用した具体的なMaaS施策を導入できるようになるでしょう。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社はこれまで、持続可能な地域交通の確立や地域活性化を目的に、複数の自治体や事業者と協働し、移動データの分析・活用を実践してきました。『SeeMaaS』は、こうした実践から生まれた成果のひとつです。人々の暮らしや環境、観光、防災など、交通がかかわるさまざまな地域課題の解決に向けて、データドリブンなまちづくりを目指す自治体のみなさんは、お気軽にお声がけください。
設立 | 平成30年11月 |
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資本金 | 1億円 |
従業員数 | 17人(令和4年10月1日現在) |
事業内容 | プラットフォーム開発事業、コンサルティング事業、メディア事業 |
URL | https://www.maas.co.jp/ |
問い合わせ先 | ■電話番号 080-7713-2084 (平日 9:00~18:00)営業担当(髙橋) ■メールアドレス info@maas.co.jp |
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*1:※OD : 出発地(Origin)と到着地(Destination)を組み合わせた語