
民間企業の取り組み
データプラットフォームの導入
だれ一人取り残さない住民支援を「CRM」の手法を通じて実現せよ
※下記は自治体通信 Vol.42(2022年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
国によるDX推進やコロナ禍を背景に、自治体で行政手続きのオンライン化が進んでいる。そうしたなか、官民を問わずさまざまな分野でコンサルティングを手がけるデロイト トーマツ コンサルティングの橋本氏は「行政手続きのオンライン化にとどまらず、DXを活かしたさらなる住民サービス向上を目指すべきだ」と話す。同氏に、詳細を聞いた。

住民一人ひとりを個で捉え、そのニーズに寄り添う支援を
―自治体において、DXは進んでいるのですか。
コロナ禍の影響もあって、特に行政手続きのオンライン化は進んでいると言えます。その結果、まだ一部ではあるものの、住民が時間や場所を問わず申請を行えるようになりました。くわえて、ペーパーレス化などによって職員の働き方に柔軟性が生まれ、業務効率化にもつながるなど、一定の成果をあげています。
今後は、ライフスタイルやワークスタイルの変化に伴って住民や事業者が行政に求めるニーズの多様化が進む一方で、人口減少などによる行政サービスの担い手不足が予測されます。少ない職員でさまざまなニーズに対応し、住民満足度向上を図るには、手続きのオンライン化だけでは十分とは言えないでしょう。
―どのような住民サービスが必要になってくるのでしょう。
行政の支援を必要としながらも適切な情報を得られていないために支援が行き届いていない人たちに対して、行政からプッシュ型で支援を提案していく、「アウトリーチ型」の住民サービスが必要だと考えています。たとえば、乳幼児の一時預かりの相談で窓口に来た住民が、要介護の高齢者と同居されているとします。そういった場合に、一時預かりの相談にくわえて、その住民が利用できる介護サービスの紹介を行うといったイメージです。
情報を自ら入手して申請できる人に対してのみ住民サービスを提供できるという状況は、本当に支援を必要とする人たちを十分にカバーできているとは言えません。これからの行政には、デジタル化を進めつつも、だれ一人取り残さない住民支援が求められるのです。
―「アウトリーチ型」の住民サービスの実現には、なにが必要でしょう。
ユーザー一人ひとりを個としてきちんと捉えたうえで情報を集約し、ニーズにマッチしたサービスを提供していくCRM*1の考え方が重要です。民間でCRMが広まって久しいですが、行政においても住民を対象にしたCRM、言わば「住民CRM」を実現していくことが肝になると考えています。そのためには、住民にかかわる情報を全方位的に捉えていくことが必要なのです。
住民の情報を一元管理し、必要に応じて利活用する
―どのようにして、情報を全方位的に捉えていくのですか。
住民一人ひとりの情報を部局や機関の枠を越えた、データプラットフォームで一元管理する仕組みの構築が必要だと考えます。自治体には名前や住所といった基本情報にくわえて、各種申請情報、窓口およびオンラインで実施した相談の内容といった、住民に関する情報がどんどん集まってきます。その情報を部局ごとに縦割りで管理せず、住民の許可を得る前提で情報を全庁的に蓄積していくのです。そうして集めた情報をベースにして、住民一人ひとりのライフステージやライフスタイルに合った行政支援を提案する。そうすることで、「住民CRM」が実現できます。
―効率良く「アウトリーチ型」の住民サービスを提供する方法はありますか。
窓口で対応するだけでなく、たとえば住民や事業者向けに専用のオンライン窓口「ポータル」を用意する方法があります。ある自治体では、お母さん一人ひとりのマイページをオンライン上につくり、相談の予約管理を行ったり、受けられる支援やセミナーのお知らせを受け取ったりできるポータルの導入を進めています。リアルでの窓口や郵送といったアナログな方法を残しつつ、デジタルでの対応を進めることで業務効率を高めることができます。
―ポータルには、どういった機能が必要なのですか。
利用者が各種申請をオンラインで完結でき、必要な情報をタイムリーに得られる機能が必須です。さらに、職員が一連の処理を一括で行ったり、業務の進捗をまとめて確認できたりすれば、業務効率化にもつながります。そして業務横断的なデータプラットフォームやポータルだけでなく、パブリック領域のさまざまなソリューションを1つにまとめ、「住民・事業者向け行政サービス基盤のソリューションカタログ」としたものが、われわれの提供する『GovConnect(ガブコネクト)』です。
個人情報保護の観点からも、安心な仕組みづくりが必要
―どんな特徴があるのでしょう。
さまざまなソリューションの集合体である点です。ニーズが高い業務は標準化が進んでおり、必要に応じてカスタマイズする形でソリューションを提供することができます。『GovConnect』は、すでにグローバル展開しており、多数の導入実績があります。たとえば、子育て支援や児童虐待対策、許認可の審査、補助金の申請管理など、複数の国で利用できる汎用的な機能。くわえてコロナ陽性者やワクチンの接種予約、マイナンバーカードの交付管理のように日本独自の要望に応えた機能も用意しています。
また、クラウドサーバーにあるソフトウェアをインターネットを経由して利用できる、「SaaS」型のソリューションである点も特徴です。これらの特徴によって、短い納期で初期導入費用を抑えつつ、業務の変更や利用者のフィードバックを取り入れながら、拡張性や柔軟性が高いシステムとなっています。
―幅広い情報を管理することで、情報セキュリティについて心配する声があがりそうですが。
まず、プラットフォームには、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度「ISMAP*2」の認証を受けたシステムを活用します。また、個人情報保護の観点から、提供する情報を、それによって享受できるサービスと天秤にかけながら、住民自身が決めていける仕組みを前提にサービスを構築しています。
「シビックプライド」を育て、住民に選ばれるまちを目指す
―導入や運用については、サービスの提供企業としてどのようにサポートしているのでしょう。
当社には、さまざまな分野での豊富なコンサルティング経験があり、組織文化づくりやデジタル人材の育成、BPRをサポートする体制が整っています。システムが浸透する前段階では、一時的に現場の負担が増えるため、組織全体が「住民CRM」について理解しなければ頓挫してしまうでしょう。また、自律的に取り組みを続けるには、組織内にデジタル人材は必須です。さらに、業務のやりかたが変わるので適切なBPRも必要です。
そういった取り組みは、第三者であるコンサルタントの力を活用することも非常に重要だと考えています。たとえば、ワークショップなどを通じて「住民CRM」の有効性を職員の方々に理解していただき、フラットな議論で合意形成していく場を庁内につくり上げていくといったことが可能ですし、デジタル人材の育成プログラムの用意もあります。
―自治体に対する今後の支援方針について教えてください。
住民ニーズの多様化や職員の減少は、自治体にとっては試練であると同時にチャンスであると考えています。住民ニーズにしっかりと対応して、自治体への帰属意識や愛着「シビックプライド」を育てていくことができれば、人口増加やまちの発展を期待できるからです。今後はわれわれが民間と行政のそれぞれで培ってきたさまざまなノウハウ・知見を活かして、住民に選ばれるまちづくりを入口から出口まで一貫してサポートしていきます。
設立 | 平成5年4月 |
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資本金 | 5億円 |
従業員数 | 4,290人(令和4年5月末日現在) |
事業内容 | デロイト トーマツ グループの一員としての提言と戦略立案から実行までの一貫したコンサルティングサービス |
URL | https://www2.deloitte.com/jp/ja/services/consulting.html?icid=top_consulting |
問い合わせ先 | 以下のURLよりアクセスのうえ、お問い合わせください https://tohmatsu.smartseminar.jp/public/application/add/5401?inq=S4 |
