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自治体が企業の販路拡大を積極支援。地域経済振興策の新しいかたち

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自治体が企業の販路拡大を積極支援。地域経済振興策の新しいかたち

品川区
地域振興部 商業・ものづくり課 中小企業支援係 海瀬 夏希
[提供] 品川区

※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

地域経済の振興策の一環として、地元企業への支援活動はかねてより自治体の重要な役割のひとつである。特に、折からのコロナ禍で多くの業種・業態において事業運営で困難な状況が続く昨今では、そこへの期待は大きい。予算や人員という制約のもと、各自治体は知恵を絞り、効果的な支援策を模索するなか、品川区(東京都)が行っている独自の取り組みが注目を集めている。民間企業の販路拡大への支援として、品川区自らが導入実績をつくり出す役割を担い、当該製品・サービスのその後の販路拡大の一助としてもらう取り組みである。「社会貢献製品支援事業」と呼ばれるその取り組みの概要やこれまでの成果などについて、同事業を推進する品川区商業・ものづくり課の海瀬氏に話を聞いた。

[品川区] ■人口:40万3,316人(令和4年3月1日現在) ■世帯数:22万6,613世帯(令和4年3月1日現在) ■予算規模:2,623億6,429万円(令和4年度当初案) ■面積:22.84km2 ■概要:東京湾に面した臨海部と山の手に連なる台地からなり、古くから交通、交易の拠点として栄えた。考古学発祥の地として有名な大森貝塚など歴史に名を残す史跡も数多くある。江戸時代には東海道第一の宿として賑わい、明治時代に入ってからは、京浜工業地帯発祥の地として発展。現在、羽田空港の国際化や、品川駅への新幹線の停車、リニア中央新幹線の乗り入れなど、再び交通、産業の拠点として重要な役割を担おうとしている。

自ら導入実績をつくり拡販の一助に。行政ならではの支援策

品川区
地域振興部 商業・ものづくり課 中小企業支援係
海瀬 夏希 かいせ なつき

当区での導入実績は、ほかの自治体にも参考になる

―社会貢献製品支援事業を立ち上げた経緯を教えてください。

 品川区は京浜工業地帯発祥の地とされ、優れた製造業が集積しています。近年は「五反田バレー」に代表される情報通信産業の集積も目立ちます。こうした企業のなかには、優れた技術を持ちながら、広報体制が整わず、販路拡大に苦労しているケースが見受けられます。そこで当区では、地域企業支援の一環として、各社への販路拡大支援が必要と判断。平成30年度からこの事業を開始しました。区役所や区民生活で活用できる製品・サービス・技術を対象に、年度ごとにテーマを定め、当課が書類審査と面接で認定製品を決定。さまざまな支援を行っています。

―具体的に、どのような支援策が用意されているのでしょう。

 「区による販路拡大伴走支援」「資金助成支援」「テストマーケティングの場所提供」「各課への製品提供」と、4つの支援を行っています。このうち、「各課への製品提供」として、商業・ものづくり課が各課との橋渡し役となり、区自らが導入実績をつくることは、この事業の柱です。これは自治体での導入実績が企業の販促活動で「とても有利な材料になる」との企業側の要望を受けたもので、行政ならではの支援策と考えています。

―どのような成果がありましたか。

 たとえば、令和2年度に認定した「AI窓口案内ロボット」は、役所内での導入を発表したところ、全国の複数の自治体から問い合わせがあり、導入に向けて前向きに検討いただいていると聞いています。自治体間には多くの類似業務がありますので、当区での導入実績はほかの自治体にとっても参考になるはずです。自治体での導入を目指すことで、企業は幅広い世代に受け入れられやすい製品・サービスを開発する意識が高まりますので、新たな市場を開拓するうえでもプラスの効果が期待できます。

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令和3年度「品川区社会貢献製品支援事業」認定4製品・サービス

ここまでで紹介した「品川区社会貢献製品支援事業」において、令和3年度に認定された4つの製品・サービスを提供する4社を取材。製品の特徴や導入効果などについて聞いた。


抗菌抗ウイルスコーティングスプレー『VS』

長く効果を維持する抗ウイルス塗膜で、毎日の消毒作業から担当者を解放

株式会社大川
代表取締役社長
大川 洋介 おおかわ ようすけ

―製品の詳細を教えてください。

 スプレーを吹きかけ、ひと拭きするだけで、99.9%以上の抗菌・抗ウイルス効果を最長3ヵ月維持するコーティング剤です。配合している有効成分は「第4級アンモニウム塩」であり、公的評価機関である製品評価技術基盤機構で新型コロナウイルスへの効果も証明されたものです。この成分は、塗布後に即効性があることは実証されていましたが、今回の『VS』ではその効果を長期間持続させることに成功したのです。つまり、機材を使用するたびに毎回塗り直す手間がなくなるわけです。

―どのようにして効果に持続性をもたせたのですか。

 効果を長期間持続させるためには、対象物の表面に塗膜を形成させる必要があり、そこには高い塗装技術が求められます。そこで当社では、塗装に関するノウハウを活かし、スプレーによって薄い塗膜を形成する技術を開発。独自の混錬技術により、スプレー材は透明度を保つことで、場所や素材を選ばず、誰でも簡単に使用することができます。今回、塗膜の有無を確認するための試薬も合わせて開発。綿棒に浸み込ませた試薬の色の変化で塗膜の残存状態や抗ウイルス効果を確認できますので、再塗布のタイミングがわかり、安心してお使いいただけます。

導入自治体の声

品川区
地域振興部 商業・ものづくり課 管理係 係長
山本 めぐみ やまもと めぐみ

 当課では、区内の伝統的産業の振興・発展を目的としたイベントを開催しており、毎年多くの来場客を集めています。コロナ禍で中止となった昨年を受け、今年は安心・安全に開催すべく、万全を期した感染対策の一環として『VS』を採用しました。多くの来場客の対応にあたりながら頻繁に消毒作業をすることは現実的に難しかったので、『VS』は非常に好都合でした。業者による施工の必要もなく、簡単にコーティング作業を行えました。当課では窓口でも『VS』を活用し、運営の省力化も図っています。


『ごかんごさい宅配離乳食ボックス』

食材宅配×オンライン講習会で、不安を抱える子育てママを支援

FUNFAM株式会社
代表取締役
藤岡 康代 ふじおか やすよ

―どのようなサービスですか。

 コロナ禍で不安を抱える子育てママたちへの支援として、無添加の安心安全な離乳食を届けるサービスです。毎月、月齢に合った食材を異なる組み合わせでレシピとともに同梱して郵送し、後日開催されるオンラインによる離乳食講習会とセットで提供するのです。子育てママに離乳食教育を行うのは本来、保健所の重要な役割なのですが、ご承知の通り、昨今のコロナ禍で保健所の業務はひっ迫し、とても離乳食講習会にリソースを回せません。また、感染症対策の観点からも、対面での講習会をなかなか開けない事情もあり、親族や友だちにも会いにくい子育てママは絶対的に知識が足りていません。そこで、離乳食が始まる生後約5ヵ月から1歳半までの間、オンライン講習会でその不安に寄り添うサービスを開発しました。

―サービス名である『ごかんごさい』の由来はなんですか。

 人間の五感は、五歳までに形成されるという「五感・五歳」が由来です。味覚も5歳までの食事で形成されると言われていますから、子育て支援に力を入れる自治体は離乳食教育に対して関心は高いです。もともと、離乳食講習会は費用がかさみ、各自治体では運営の効率化が課題となってきた経緯もあります。そのため、サービスを立ち上げてまだ1年ですが、すでに東京都の出産応援事業や、名古屋市(愛知県)の出産育児支援事業の商品として採択されているほか、多くの自治体の関心を集めています。

―利用者の評判はいかがですか。

 時間や場所の制約を受けずに参加できるため、大変喜ばれています。事前に食材とレシピが届くことから、講師による調理を簡単に再現できます。当社では、子育てママからの意見を食品メーカーに伝え、消費者の嗜好に合った製品の開発につなげてもらっています。これは、「食品廃棄問題」の解消にもつながる取り組みです。つまり、行政、子育てママ、食品メーカーがそれぞれ抱える3つの「食の課題」を同時に解決できるサービスと言えるわけです。


3次元VR映像ソリューション『VR360』

VR空間を3Dで構築し、リアルの空間を見たまま再現

ハートコア株式会社
ファウンダー 兼 代表取締役社長/CEO
神野 純孝 かんの すみたか

―サービス概要を教えてください。

 『VR360』は、実際にある空間や施設を特殊なカメラで撮影し、360度の3次元の臨場感あるバーチャルリアリティ(以下、VR)空間を制作するサービスです。空間撮影からメンテナンスまで一貫してサポートし、オリジナルキャラクターをVR空間に入れるといったカスタマイズサービスも提供しています。従来の3次元VRは180度の視野でしか実現できず、360度で実現する場合は2次元映像になるのが一般的でした。これに対して当社では、撮影映像をつなぎ合わせて360度の立体空間を形成する技術を確立。利用者の没入感を高めます。特別なビュアーやアプリを使うことなく、URLをクリックするだけでコンテンツを閲覧できるのも特徴です。

―『VR360』には、どのような活用法がありますか。

 ある自治体では、新型コロナウイルスの予防接種会場をVR化し、住民への施設案内に活用した例がありました。役所内部をVR化すれば、庁内の窓口案内に活用することもできます。観光地など地域の魅力を発信する際にも活用いただけます。見たままの空間映像をVR化するので、再現性は非常に高く、「プロの写真とのギャップにがっかりする」といったケースはもうなくなるでしょう。

導入自治体の声

品川区
防災まちづくり部 防災課 啓発・支援係
千葉 夏希 ちば なつき

 当課では、普段馴染みのない避難所を区民に知ってもらいたく、避難所体験サイトを構築したのですが、そこで『VR360』を活用し、VR化した避難所映像をWeb上で公開しました。昨今、コロナ禍で避難訓練が次々と中止になるなか、避難行動を意識する機会は減っています。また、コロナ対応で運営方法が変わるなか、臨場感のある映像により住民側も運営側も有益な「現場体験」を得られたようです。自分で操作できるため没入感が高く、子どもの反応が特に良かったようで、体験の定着に効果的な手法だと思います。


室内環境可視化システム『Ambilens』

これまでなかったデザイン性をくわえ、誰もが直感的にわかる環境監視を実現

株式会社TASKO
CCO
織田 洋介 おだ ようすけ

―製品の紹介をお願いします。

 室内のCO2濃度をモニタリングし、設置場所それぞれの空気環境基準に基づき、換気が必要かどうかを表示するデジタルサイネージ製品です。これまでも同様の製品はありましたが、どうしても専門家や施設関係者が使うことを想定していたため、機能性ばかりが重視されていました。その結果、設置場所や環境に馴染み、表示やデザインに親しみがもてる製品は少なかったと言えます。そこでデザインやものづくりを得意とする当社が、「誰が見ても美しく、直感的にわかりやすいもの」をコンセプトに新たに開発したのが、この『Ambilens』です。

―製品の特徴はなんですか。

 最大の特徴は、デザイン性です。設置場所に合わせて、形状や表示方式を1点1点オーダーメイドでデザインすることも可能で、どんな場所でも設置しやすい製品としています。言語を用いず、シンプルでわかりやすいユーザーインターフェースを追求したことで、そこにいるすべての人が状況を把握できるようになります。製品構成もシンプルさを貫き、インターネットへの接続は不要に。特別な維持費もかかりません。オプションで、情報サイネージに切り替えても使えるので、公共空間でさまざまな利用が可能です。

導入自治体の声

品川区立 品川図書館

 当館では、新型コロナウイルスが流行するなか、区民が安心・安全に図書館を利用できる環境づくりに力を入れてきました。換気が十分に行われている状況の可視化ができれば、利用者により安心してもらえると判断し、『Ambilens』の導入を決めました。設置場所にマッチしたデザインが施せることから、当館では施設に馴染む外形としました。『Ambilens』は、CO2濃度以外にもさまざまな情報が表示できるため、広報案内や注意喚起など、利用者向けの周知媒体としても活用できそうです。