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農業・漁業のスマート化を促進させ、産業振興と地域活性化を成し遂げる

兵庫県豊岡市の取り組み

一次産業におけるIoT導入

農業・漁業のスマート化を促進させ、産業振興と地域活性化を成し遂げる

豊岡市 コウノトリ共生部 農林水産課 グッドローカル農業推進室 室長 山本 隆之
[提供] KDDI株式会社

※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

近年、業務効率化や持続可能な経営を行うため、「スマート農業」「スマート漁業」など、一次産業にIoTを取り入れる自治体が増えている。稲作にてスマート農業に取り組んでいる豊岡市(兵庫県)と、牡蠣の養殖に「スマート漁業」を取り入れている海陽町(徳島県)もそうした自治体のひとつとして注目を集めている。両自治体の担当者および関係者に、それぞれ取り組んでいるスマート農業とスマート漁業の詳細を聞いた。

[豊岡市] ■人口:7万8,670人(令和4年2月28日現在) ■世帯数:3万3,492世帯(令和4年2月28日現在) ■予算規模:818億9,164万9,000円(令和4年度当初案) ■面積:697.55km2 ■概要:兵庫県の北東部、但馬地域に位置しており、県内最大の面積を誇る。平成17年に、国指定の特別天然記念物・コウノトリが自然放鳥され、人里で野生復帰を目指す取り組みを開始した。また、農林水産業、観光業などが盛んで、特に観光業では、全国的に有名な城崎温泉をはじめ、西日本屈指の神鍋スキー場、但馬の小京都・出石城下町などを有している。
豊岡市
コウノトリ共生部 農林水産課 グッドローカル農業推進室 室長
山本 隆之 やまもと たかゆき

豊岡市ならではの取り組み「コウノトリ育む農法」

―豊岡市がスマート農業に取り組んでいる背景を教えてください。

 当市では、一度日本で絶滅した野生動物のコウノトリを復活させるためのプロジェクトとして、昭和40年から人工飼育を開始し、平成17年に自然下へ放鳥を行いました。ただ、コウノトリが野外で生息し続けるためには、人間も含めたすべての生き物が豊かに暮らせる環境づくりが必要です。そこで、生物多様性に配慮した農法を平成15年度から開始。その後、市と兵庫県、JAたじまが三位一体となって、「コウノトリ育む農法」として体系化していったのです。

 この農法は、「深水管理」によって雑草を生えにくくするのが特徴のひとつですが、水位が保たれているのかなどをこまめにチェックする必要があります。農家によっては水田が点在していたり、家から水田が遠かったりするため、農家の労力負担が大きいのが課題でした。そこで、KDDIに相談したのが取り組みのきっかけでした。

―なぜ、KDDIに相談をしたのでしょう。

 KDDIとは、地域活性化を目的とした包括協定を平成28年9月に締結していました。もともとは観光がメインテーマでしたが、「農業でもチカラを貸してほしい」とお願いしたのです。それで平成30年度からスタートしたのが、「豊岡市スマート農業プロジェクト」という実証事業です。具体的には、水田にIoTセンサーを設置し、水田の水位や水温、地温を自動計測し、クラウドサーバを通じてPCやスマホ、タブレット端末で確認できる仕組みです。当市は中山間地域のため、通信面で不安がありましたがKDDIから提案してもらった、「LTE-M*1」で問題なく通信ができました。

―成果はありましたか。

 見回りにかかる時間を約65%削減できたという結果が出ました。毎日行かなければならない見回りが、3日に1度で済むという感じです。農家からは、「寝る前にスマホで水田の状況を見て、翌日の段取りを組めるようになった」といった声が聞かれていますね。

 さらに、KDDIから提案を受け、令和2年度から新たな取り組みを行っています。

農家の負担軽減にくわえ、品質と収穫量の向上を目指す

―それはなんでしょう。

 イオン水生成装置を使った、実証実験です。これは、イオン水で雑草を抑制するとともに、稲を活性化させるというもの。それによって、稲の品質および収穫量を向上させるのが狙いです。こちらはまだ結果が出ている段階ではありませんが、未処理区より処理区のほうが、雑草も少なく、稲の根の張りがいいというのが視認できています。

―今後におけるスマート農業の取り組み方針を教えてください。

 引き続き、2つの実証事業を行い、さらなるデータを集めて成果につなげていきたいですね。また、当市はほかの自治体と同じく農業者の高齢化や後継者不足という課題を抱えており、その解決に寄与することに期待しています。さらに、「有機農業の農地を2050年に全体の約25%にする」と国が掲げる「みどりの食料システム戦略」の実現に向けても、欠かせない取り組みだと考えています。


徳島県海陽町の取り組み

海陽町 農林水産課 主査 谷 直樹
株式会社リブル 代表取締役 早川 尚吾
[提供] KDDI株式会社
[海陽町] ■人口:8,752人(令和4年2月1日現在) ■世帯数:4,477世帯(令和4年2月1日現在) ■予算規模:116億8,353万6,000円(令和4年度当初案) ■面積:327.67km2 ■概要:徳島県の最南端に位置し、南東の海岸線は太平洋を臨み、北は那賀郡、東は海部郡牟岐町に、西は高知県と隣接している。青く美しい海岸は、数々の岬や入り江を有するリアス式海岸となっており、室戸阿南海岸国定公園に指定されている。産業は農業および漁業が中心であるほか、「阿波尾鶏」といった養鶏業も盛んに行われている。
海陽町
農林水産課 主査
谷 直樹 たに なおき
株式会社リブル
代表取締役
早川 尚吾 はやかわ しょうご

カンと経験の領域を、IoTで「見える化」

―海陽町は「スマート漁業」に取り組んでいるそうですね。

 はい。当町では漁獲高にくわえ、高齢化や後継者不足で町内の漁業関係者も年々減っている状況です。そこでなにか打開策はないかと検討していたところ、当町で創業した水産ベンチャーのリブルがIoTを活用した牡蠣の養殖に取り組むという話を聞き、サポートすることにしたのです。

早川 海陽町の海は温かくて澄んでいるのが特徴なのですが、牡蠣は水温が冷たくてエサが豊富で、ある程度濁った海を好む傾向があり、じつは牡蠣の養殖に向いていないんです。ただ、この環境で養殖に成功すれば、これまで牡蠣の養殖に適していないとされているほかの地域でもヨコ展開をしていくことが期待できます。そこで、あえて海陽町で取り組むことにしました。

―取り組んでいる「スマート漁業」の詳細を教えてください。

早川 養殖方法としては、牡蠣をつり下げて養殖する「イカダ垂下方式」が一般的ですが、「シングルシード生産方式*2」を採用しました。ただこの手法は、牡蠣を入れるカゴの揺れ具合を調整するなどが必要で、それにはカンと経験に頼る要素が大きい。そこで、この要素をIoTで「見える化」をするために始まったのが「あまべ牡蠣スマート養殖プロジェクト」です。

 まずは、当社と海陽町、 宍喰漁業協同組合(以下、宍喰漁協)、KDDIで平成30年12月に地域活性化を目的とした連携協定を締結するところからスタートしました。

―それぞれどのような役割を担っているのでしょう。

早川 海陽町には町内関係者との調整を行ってもらい、宍喰漁協には養殖場の提供、KDDIにはIoTセンサーやLTEによる通信技術、クラウドサーバ、養殖管理ツールを提供してもらっています。そして当社が、センサーと養殖管理ツールを使い、水温や濁度、揺れおよび牡蠣の成長度や斃死数*3のデータを収集。それを、徳島大学の協力を得て分析し、効率的な育成ノウハウの確立を目指しているのです。

―現時点でどのような成果が得られていますか。

早川 見える化についてはまだこれからですが、質の良い牡蠣が収穫できており、生食用の牡蠣を扱う店からすでに引き合いが来ています。また漁業の将来に危機感をもっている漁師さんに、試験的に牡蠣の種苗を供給する取り組みが始まっているところですね。

牡蠣の養殖を広げていき、漁業の振興につなげたい

―「スマート漁業」における今後の方針を聞かせてください。

早川 引き続き、海陽町やKDDIなどの協力を得て早い段階で見える化を形にし、牡蠣の養殖が未経験でも始められるような仕組みをつくっていきたいですね。そして、海陽町に貢献するのはもちろん、こうした取り組みを日本各地に派生させることで事業を拡大させるとともに、地域活性化に貢献していきたいと考えています。

 一連の取り組みで、もっと町内で牡蠣養殖に携わる人が増え、多くの人が収益をあげられるようになれば、漁業の振興につながっていきます。それがさらに、移住・定住者の増加につながっていけばと。そのために、当町としてもできるだけ支援をしていきます。


支援企業の視点

地域ごとに異なる課題に応じた、IoTを提供できる企業を選ぶべき

KDDI株式会社 ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 室長 齋藤 匠
[提供] KDDI株式会社
KDDI株式会社
ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 室長
齋藤 匠 さいとう たくみ

―一次産業にIoTを取り入れる自治体が増えている理由を教えてください。

 やはり、全国的に高齢化や人口減少が進んでいくなか、いかに効率的に収益をあげられるかを求められているのが要因だと考えられます。特に一次産業においては、カンと経験の要素が強く、「どのように次世代に引き継いでいくか」という観点では、業務を「見える化」することが重要で、その点でもIoTのニーズが高まっています。さらにサービスを提供する立場から言いますと、たとえば通信技術が進化することで、中山間地といった、いままで通信が難しかったエリアでもIoTが活用できるように。そういった提供側の進歩も、自治体の利用促進につながっていると言えるでしょう。

―そうしたなか、自治体が一次産業にIoTを導入する際のポイントはなんでしょう。

 ひと口にIoT導入と言っても、地域によって課題は多種多様なため、パッケージを導入して終わりといった簡単な話ではありません。そのため、地域ごとの課題解決につながるようなIoTを提案できる民間企業の支援が必要です。たとえば当社では、まずは自治体とひざをつき合わせたうえでヒアリングを行い、適切な提案を行います。通信環境で言えば、5Gや光回線、LTEなどユースケースに応じた整備ができるのが当社の強み。また、当社の全国におけるパートナー企業と協業したIoTソリューションもあわせて提供します。その一方で、要望に応じて地元のベンダーや大学などとの協業も可能。地元企業と地域経済にプラスとなる事業を共創し、地域社会とともに成長を目指していきます。

―今後における自治体への支援方針を教えてください。

 当社では一次産業だけでなく、全国各地において、観光や教育、医療、交通、獣害対策など各分野で支援実績があり、さまざまな地域課題の解決に対応できます。そうした取り組みを通じて、全国における自治体の地方創生に貢献していきたいですね。

齋藤 匠 (さいとう たくみ) プロフィール
昭和51年、茨城県生まれ。平成13年に日本大学大学院を修了後、東京通信ネットワーク株式会社入社。平成18年、同社がKDDI株式会社と合併する。平成28年より法人企業のDXを担当し、令和2年、地方創生支援室長に就任し、現在にいたる。
株式会社リブル
設立 平成30年5月
資本金 5,236万630円
事業内容 水産養殖業
URL https://reblue-k.com/
KDDI株式会社
創業 昭和59年6月
資本金 1,418億5,200万円
売上高 5兆3,125億9,900万円(令和3年3月期)
従業員数 4万7,320人(連結)
事業内容 電気通信事業
URL https://www.kddi.com/
お問い合わせメールアドレス sousei@kddi.com

*1:※LTE-M : 低電力広域ネットワーク無線技術標準の一種

*2:※シングルシード生産方式 : 牡蠣をカゴに入れてバラバラに養殖する方式。牡蠣同士がぶつかりあい、殻の付着物を落とすことで殻まで美しく、大きさや形の均一性が取れた身入りの良い牡蠣ができるとされている

*3:※斃死 : 動物が突然死ぬことを指す場合が多い。牡蠣においては、育成途中で環境要因などによって死ぬことを指す