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介護が必要となる原因のひとつ「脊椎圧迫骨折」を知っていますか

研究者からの提言

健康寿命の延伸

介護が必要となる原因のひとつ「脊椎圧迫骨折」を知っていますか

大阪市立大学大学院 整形外科 病院講師 高橋 真治
[提供]メドトロニックソファモアダネック株式会社

※下記は自治体通信35号(Vol.35・2022年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

高齢化が進むなか、地域住民の健康を増進させるための取り組みは、自治体にとって欠かせない施策となっている。そうしたなか、大阪市立大学大学院・病院講師の高橋氏は、「健康寿命の延伸を図っていくため、特に高齢者が普段から気をつけなければならない疾患がある」と話す。整形外科を専門とした治療・研究を行っている同氏に、詳細を聞いた。

大阪市立大学大学院
整形外科 病院講師
高橋 真治 たかはし しんじ

軽微な動作でも骨折し、適切な処置がされにくい

―高齢者が特に気をつけなければならない疾患とはなんですか。

 「脊椎圧迫骨折」です。これは、背骨が「ポキッ」と折れるのではなく、椎体が押しつぶされるように変形する骨折で、「骨粗しょう症」がおもな原因となります。そもそも骨粗しょう症とは、骨密度が低下し、徐々にもろくなって骨折を起こしやすくなる病気のこと。加齢や生活習慣、女性の場合は閉経後のホルモンバランスの変化などが原因で起こるのです。我々の研究調査では、骨粗しょう症は症状が現れにくいため、きちんと診断されないケースも少なくなく、患者全体のうち実際に治療されている人の割合は約20%です。

 現在、日本で骨粗しょう症患者は約1,300万人いるとされています。「尻もちをつく」「くしゃみをする」「重いものをもち上げる」「身体をひねる」といった、ささいな動きがきっかけで、椎体がつぶれることがあるのです。

―なぜ、骨折のなかでも脊椎圧迫骨折に気をつける必要があるのでしょう。

 適切な処置がされにくいことが多いからです。骨粗しょう症によって、身体のどの部位でも骨折する可能性が高まりますが、特に手首と背骨、太もものつけ根が骨折を起こしやすくなります。なかでも、背骨と太もものつけ根の骨折は、「寝たきり」を招く原因になりえるので注意が必要。太もものつけ根の骨折は、歩行が困難になるケースがほとんどであることから発見や処置も比較的早く、ほぼ全例に治療が行われます。ただ、脊椎圧迫骨折は、痛みがあっても「年齢のせい」にしてあきらめたり、症状が骨折箇所から離れた場所に出たりするケースがあります。結果、積極的な治療が行われない場合や、適切に診断されない場合もあるのです。実際に私が診たケースでも、脊椎圧迫骨折をして2~3年間腰痛に悩んだ末に診察に来た患者さんがいらっしゃいました。

背骨全体のバランスがくずれ、新たな症状を招いていく

―そのままにしておくと、どのように症状が進んでいくのですか。

 安静にしておくと痛みが治まることもありますが、それだけではつぶれた椎体は元には戻りません。また、つぶれた椎体をほうっておくと背骨全体のバランスがくずれ、次の圧迫骨折を起こすリスクが約4倍に高まると言われています。骨折が進むと、しだいに背中や腰の痛みが大きくなるほか、背骨が曲がるといった症状が現れることがあります。背中が丸くなると胸を圧迫するため、肺活量の減少や身体全体の機能低下につながったり、胃が圧迫されて食欲不振を招いたりすることがあります。痛みのために日々の活動量が少なくなり、骨密度がさらに低下することも。気分もふさぎがちになり、最終的に「寝たきり」の生活になる危険性が高まることがあるのです。

―そうしたリスクを防ぐため、いかに対処すべきでしょう。

 まず大前提として、日々の適切な運動のほか、カルシウムやタンパク質、ビタミンを中心としたバランスの良い食事を心がけることです。さらに、定期的な骨密度の検査を行うこと。そして必要であれば、骨密度の数値に見合った薬物治療を受けることですね。そうすることで、だいたい5~8割くらいの割合で、骨折をする人を減らすことができるでしょう。

 それでも、脊椎圧迫骨折になってしまった場合は、状況に応じた治療を行う必要があります。

―どのような治療方法があるのですか。

 まず、「保存的療法」があります。具体的には、コルセットやギプスを装着したり、ベッドの上で安静にしたりする。また、痛み止めや骨粗しょう症の薬を投与する方法です。状況をみながら筋力を落とさないようにリハビリを行い、中長期的に治療を行っていきます。

 それでも痛みが治まらない場合や緊急性を要する場合は、手術による「外科的療法」を検討します。方法は、骨折の状態や患者さんの全身状態などを考慮して検討します。具体的には、骨を移植したり、金属製のねじや棒といったインプラントで骨を固定したりする方法があります。この場合は、一定期間の入院やリハビリが必要になります。以前はこの方法が手術では一般的でしたが、近年は治療法の選択肢が増えています。それが「BKP*1」と呼ばれる治療法です。

QOLの改善が目的で、手術時間は30分程度

―詳しく教えてください。

 アメリカで開発された治療法で、平成23年から日本でも公的保険が適用されています。具体的には、ベッドにうつ伏せに寝た状態で背中の2ヵ所を1cm程度ずつ切開。レントゲンの透視装置を使いながら、椎体のなかで専用の風船をふくらませて、つぶれた骨をもち上げ、できるだけ骨折前の形状に戻します。その後、風船を抜き、椎体内にできた空間に「骨セメント」を充填して固めるのです。早期に痛みをやわらげることによりQOLの改善を目的とした治療で、手術時間が30分程度なのが特徴。その後の入院やリハビリも、比較的短期間ですみます。

―患者への負担が少ない手術と言えますね。

 ある意味、そうとも言えます。ただ、勘違いしてほしくないのは、BKPによる治療がいちばん優れているのではないという点。保存的療法で痛みが治まる人もいれば、骨折が進行して症状が重い人はインプラントによる手術が適している場合もあります。重要なのは、痛みが続く場合は骨がさらにつぶれてくる可能性があるため、タイミングを逃さず専門医に診てもらうこと。そして、いちばん適していると考えられる治療を受けることだと思います。それが一人ひとりの健康寿命を伸ばすことになり、ひいては豊かな社会の形成につながっていくのです。

―今後の治療方針を聞かせてください。

 やはり、脊椎圧迫骨折のおもな原因とされる骨粗しょう症の治療割合をもっと上げていきたいと考えています。くわえて、骨粗しょう症の治療は継続が必要ですが、治療は時間がかかることが多く、約3割の患者さんが離脱しているのが実情です。そのため、病院にて医師、薬剤師、看護師が連係し、患者さんを細やかにフォローすることで、離脱も防いでいければと。

 さらに、脊椎圧迫骨折に関しては、日頃の予防はもちろん、やはり早期発見と適切な治療が重要。「ちょっと安静にしていれば大丈夫」といった自己判断をしてもらわないためにも、脊椎圧迫骨折およびその治療法の啓発活動を行っていきたいですね。

健康寿命延伸のため、骨の疾患対策を

―自治体職員に対するメッセージをお願いします。

 自治体においては、認知症対策に重点が置かれている印象を受けます。もちろんそれも大変重要な施策ですが、健康寿命の延伸に関して言えば、脊椎圧迫骨折のような骨の疾患対策にも焦点をあてていただければと。病院で患者さんにアンケートを行っているのですが、特に近年はコロナ禍の影響で、日々の運動習慣ががくんと落ち、結果的にQOLの数値も下がっているという結果が出ています。外出が減ることで、ある意味骨折する機会は減っているかもしれませんが、骨粗しょう症の予備軍は増えていると考えられます。そうしたケアを行うことは、ゆくゆくは地域における介護費用の減少にもつながっていくはずです。

 医療に携わる私としても、自治体と協力して啓発活動を含めたケアを行っていければと考えているので、協力をお願いしたいですね。

高橋 真治 (たかはし しんじ) プロフィール
平成17年に大阪市立大学医学部を卒業後、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)への留学などを経て、平成26年より大阪市立大学大学院の整形外科で勤務している。日本脊椎脊髄病学会認定の脊椎脊髄外科指導医。

支援企業の視点

「官・民・医」が連携したうえで、疾患の幅広い啓発活動が重要に

メドトロニックソファモアダネック株式会社 プリンシパルプロダクトスペシャリスト 廣谷 美弥子
[提供]メドトロニックソファモアダネック株式会社
メドトロニックソファモアダネック株式会社
プリンシパルプロダクトスペシャリスト
廣谷 美弥子 ひろたに みやこ

―「脊椎圧迫骨折」になっても気づかない人は多いのですか。

 背骨の痛みが、じつは「骨折」と診断されて驚かれる高齢者がいらっしゃると聞きます。また、痛みがあっても「年齢のため」と放置し、日常生活に支障をきたすケースも少なくないそうです。結果、「寝たきり」につながる可能性がある疾患と言えます。独居や夫婦のみで生活される高齢者が増え、介護離職も課題になっている社会的背景に鑑みても、早急に対策を行う必要があると考えています。

―どうすればいいでしょう。

 高橋先生がおっしゃるとおり、患者さんが適切な時期に適切な診断と治療を受け、骨折前の生活に近づけることが重要です。そのためには、まだ疾患に気づいていない当事者やご家族、リスクの高い人に向けた啓発活動が重要だと考えています。たとえば当社では、背中の痛みを抱える患者さんのための情報サイト『せぼねと健康.com』を開設しています。脊椎疾患領域に対してヘルスケアソリューションを提供している経験を活かし、脊椎圧迫骨折における症状や治療選択肢を詳しく説明しています。また、啓発用の記事掲載や小冊子の配布も行っています。

―今後における疾患の啓発方針を教えてください。

 地域の医療機関や自治体と連係しながら、啓発活動を行っていきたいと考えています。当社では、疾患における認知度の調査や介護費用にかかわる調査なども行っています。「人生100年時代」のなか、医療機関や自治体といっしょに健康寿命の延伸に貢献していきたいですね。

廣谷 美弥子 (ひろたに みやこ) プロフィール
製薬企業やCROを経て、平成16年、メドトロニックソファモアダネック株式会社に入社。現在は、マーケティング業務に従事している。
メドトロニックソファモアダネック株式会社
設立 平成8年1月
従業員数 約250人(令和2年3月末現在)
事業内容 脊椎脊髄疾患を中心とした医療機器の製造、輸入および販売(メドトロニックグループは150ヵ国以上の地域において、9万人を超える従業員が70種類以上の疾患に対する治療法を提供)
URL www.medtronic.co.jp/
お問い合わせメールアドレス rs.japansebonetokenko@medtronic.com
背骨の病気に関する詳細はこちら 『せぼねと健康.com』
背骨の病気(骨粗しょう症・脊椎圧迫骨折・多発性骨髄腫)について、発症メカニズム、症状、治療法 などに関する情報を提供(© 2021 Medtronic. メドトロニックは、Medtronicの商標です 14211101A)』
https://www.sebonetokenko.com/

*1:※BKP:Balloon Kyphoplasty(バルーン カイフォプラスティ)の略。経皮的椎体形成術の一種。全身麻酔およびX線透視下で経皮的に実施する脊椎圧迫骨折の治療法