自治体×民間企業のキーパーソン対談
行政DXの推進
職員のITリテラシー向上が、スマートシティ実現の第一歩となる
KPMGコンサルティング株式会社 パートナー 馬場 功一
※下記は自治体通信 Vol.31(2021年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
現在、裾野市(静岡県)のスマートシティプロジェクト、「SDCC構想」が大きな注目を集めている。富士山のふもと、人口約5万人のまちで始まった取り組みとは、どのようなものか。本企画では、同市市長の髙村氏と自治体のスマートシティ支援を行っているKPMGコンサルティングの馬場氏との対談を実施。取り組みの詳細とともに、スマートシティに取り組むうえでの課題と解決策を探った。


「Society5.0時代」を見すえた取り組み
―「SDCC構想」の詳細について教えてください。
髙村 SDCCとは、「Susono Digital Creative City」の略。すなわち、富士山麓の豊かな自然をもつ裾野市をベースに、クリエイティブ・マインドを持った市民・企業などがデジタル技術やデータの利活用によりまちをリデザインする。そして、あらゆる分野の地域課題を解決する次世代型近未来都市を目指す取り組みです。
もともと裾野市では、平成30年度に「データ利活用推進本部」を発足させたり、東京大学と連携し「デジタル裾野研究会」を立ち上げたりと、「Society5.0時代」を見すえた取り組みを行ってきました。それにくわえ、トヨタ自動車が令和2年1月に発表した実証都市、「Woven City*1(ウーブン・シティ)」構想があります。
―「Woven City」には大きな反響がありました。
髙村 ええ。当市としても「Woven City」に取り組むトヨタ自動車と連携を図るのはもちろん、国や県、そのほかさまざまな技術やノウハウを持った産官学が参加可能な「SDCCコンソーシアム」を発足。具体的に取り組むのはまだこれからですが、産官学のチカラを借りつつ、9つの方向性(下図参照)をもとに、市民生活の豊かさを追求していこうと考えています。
―KPMGコンサルティングでは、自治体向けにスマートシティの支援を行っているそうですね。
馬場 はい。当社ではグループ企業を通じて、アメリカやイギリス、インドといったグローバルなスマートシティ支援を行ってきました。そして、日本を振り返ると、全国的に人口が減少し、どこの自治体も財政的にラクではありませんよね。そんななかで、社会インフラや制度を維持していくのはなかなか難しい。くしくもコロナ禍により、「デジタルがなにか使えそうだ」と、みなさんがなんとなく理解されるようになりました。そこで「当社のノウハウを活用して、スマートシティのお手伝いをしたい」と、令和2年の8月に専門部署を立ち上げ、本格的にスマートシティ支援を行うことに。当社も、「SDCCコンソーシアム」に参画しています。
スマートシティにおける、大きな2つの課題
―スマートシティに取り組むうえでの課題はなんでしょう。
馬場 大きく、2つあると考えています。1つ目は、「取り組みの優先順位のつけ方がわからない」という点。2つ目は、「財源とノウハウが不足している」という点です。
1つ目に関しては、住民から見て「圧倒的に便利になった」というのがわかること。これを我々は「クイックウィン」と呼んでいますが、そこから始めることをおススメしています。我々が行ったアンケートによると、自治体が実証実験を行っていても、そのことを知らない住民が非常に多かった。それで、盛り上がらず次につながらないケースが多々あるようです。たとえば、「バスの待ち時間が減った」といったことが目に見えてわかるようになれば、住民理解が得られ、そこから少しずつ盛り上がっていくはずですから。
髙村 確かに「クイックウィン」は、大事な考え方ですね。ロボットとかAIはあくまでツールであって、重要なのは課題解決を行うこと。その小さな積み重ねが、スマートシティにつながっていく。「SDCC構想」も、そうした意識で取り組んでいます。
―2つ目の課題にはどう対応すればいいですか。
馬場 これは我々が造語として使っているワードですが、たとえば「デジタルPPP*2」を提案しています。要は、スマートシティへの投資や運営を行う部分を、役所から切り出してまちづくり会社のように別会社化するのです。そうすれば、たとえば課ごとに分かれていた業務を統一でき、業務効率化やコスト削減が可能に。さらに、人事異動によってノウハウが継承されないといったことも避けられます。自治体と会社が密接に連携することで、自治体にもノウハウが貯まるというわけです。
髙村 可能性としては、十分考えられますね。どこの自治体もそうですけど、財政的に厳しいのは間違いないので。契約の問題とかいろいろあるでしょうが、規制緩和を行うことでクリアできる部分もあると思います。
馬場 ありがとうございます。そもそも、こうした課題に対応するには、現場の自治体職員のITリテラシーをあげることが必要。そのための第一歩も我々は支援しており、それが、今回裾野市に導入した『ITリテラシー診断』です。
ITリテラシーをはかる、通信簿のようなサービス
―詳しく教えてください。
馬場 「クラウドは知っているか」「Excelをどこまで使えるか」といった数十の質問に答えていただき、職員の方のITリテラシーをはかるサービスです。言わば、ITリテラシーの通信簿のようなものです。すると、「この部局は全体的に高い」といったことが見えてきます。それを深掘りすると、「この講座をみんな受講していたから」というような仮説を立てることが可能です。その仮説を横展開して、ITリテラシーを底上げするといった施策を打つことができます。
―実際に『ITリテラシー診断』を導入していかがでしたか。
髙村 まずは現状の分析ができたので、非常にありがたかったですね。結果はもう少し精査する必要がありますが、人材育成のなかに組み入れていく必要がありますし、職員みずからも「ITリテラシーをあげていくことが重要だ」という気づきにもつながったと思います。
スマートシティの支援を、一気通貫で行える
―今後どのように「SDCC構想」へ活かしていきたいですか。
髙村 「SDCC構想」に取り組むには、IT知識をもった職員が旗振り役になることが重要。そういった観点でも、一度だけの取り組みではなく、定期的に行っていくことも必要だと感じています。『ITリテラシー診断』もそうですが、「SDCCコンソーシアム」によってさまざまな産官学からの知恵やノウハウを得ながら、「チーム裾野」によって「SDCC構想」を推進していきます。
―裾野市に対する今後の支援方針を教えてください。
馬場 今回の『ITリテラシー診断』は、あくまでスマートシティ構築の第一歩です。これから、「eラーニング」といった研修の提供も考えています。また今後は、裾野市役所の行政デジタルトランスフォーメーションも「SDCC構想」には必要だと考えており、その支援を行っていければと。
さらに当社は、さまざまな事業者とチームを組み、スマートシティの構想検討・計画策定から運用を一気通貫で支援することが可能です。そのため、スマートシティを検討している自治体の方には気軽に相談してほしいですね。
従業員数 | 1,153人(令和2年7月1日現在) |
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事業内容 | 総合コンサルティングファーム |
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