
秋田県大館市の取り組み
庁舎の地震対策①
被災後「直ちに」機能するために、最重要課題は「免震構造の選定」
総務部 総務課 新庁舎建設推進室 主査 菅原 樹
※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
未曾有の大災害となった東日本大震災からこの3月で10年が経過。この間、自治体の防災・減災対策、特に地震対策は大きく進み、免震構造を導入する自治体が増えている。大館市(秋田県)もそうした自治体のひとつだ。同市では、まもなく運用が開始される新庁舎において、「新たな免震構造」を導入したという。どのような検討を経て、導入を決めたのか。同市新庁舎建設推進室の菅原氏に、話を聞いた。

新庁舎建設にあたり、複数の免震技術を検討
―大館市が現在進めている新庁舎建設の概要を教えてください。
当市の庁舎は東西2つの棟に分かれていますが、西側は昭和29年の竣工と老朽化が進んでおり、耐震性能の不足も指摘されていました。給排水や冷暖房といった各種設備の老朽化、住民サービス窓口や執務環境の狭あい化などの問題も抱えていました。そうしたなか、東日本大震災がひとつの契機となり、従来の耐震補強を重ねる手法では、災害時に防災拠点としての機能を果たしていくことは難しいと判断。さまざまな検討を重ねた結果、庁舎の建て替えを決めました。
計画の推進にあたって、市では基本方針をまとめましたが、その第一に掲げたのが、「防災拠点として市民の安全・安心を確保した庁舎」というものでした。
―それは具体的に、どのようなことを意味するのでしょう。
大規模災害が発生した場合に、救助や復旧に向けた情報収集の中核施設として十分機能できるよう、「高度な耐震性能を確保すること」と定義しています。地質調査の結果では、当市の地震リスクはさほど大きくないことが分かった一方、日本海連動型の大地震や、全国どこにでもあるとされる直下型大地震への備えは依然必要であることも分かりました。基本方針が定める、災害後も拠点として「直ちに」災害復旧業務に着手できる耐震性能を求めた当市では、免震構造の導入を基本路線として計画を進めてきました。
―実際に、免震構造の検討はどのように進められたのですか。
設計会社から複数の検討書を提案いただき、おもに積層ゴム支承を主体とする2つの案と「球面すべり支承」という大きく3つの免震技術について検討しました。地質構造や想定される地震リスクなどを踏まえた検討の結果、当市では「球面すべり支承」の免震技術を導入することを決めました。


建設コストや床面の揺れで「球面すべり支承」が優位に
―導入の決め手はなんだったのでしょう。
免震性能については、どの案も当市の地震リスクを低減するには十分でした。そのうえで「球面すべり支承」は、構造がシンプルであり、免震装置自体がほかの方式の装置に比べて薄くコンパクトです。そのため、設置する地下ピットにさほどの深さが必要なく、建設時の掘削コストを抑えることができる点は高く評価しました。実際、6階建て、延べ床面積約7,330㎡の下部構造には計40基の免震装置が設置されていますが、地下ピットの深さは、わずか2m強に抑えることができました。
また、同じく評価したのが、当市における地震発生時のシミュレーションを行った結果、上部建物の床面の揺れがほかの方式に比べて小さかった点です。
―なぜ、床面の揺れの小ささが重要と考えたのですか。
当市では、「直ちに」災害復旧業務に着手できることを条件に掲げていたからです。震度6強から7の地震に対しても、構造体を補修することなく使用できるのはどの方式でも同じでしたが、この「直ちに」を重視した場合、建物の床面の揺れが小さければ、棚や什器などの転倒を防げ、地震直後にも迅速に拠点機能を発揮できますから。
―今後の新庁舎の運用計画を教えてください。
基本方針の第一に掲げた「市民の安全・安心を確保する」という目的のため、複数の選択肢を比較検討し、最新の免震技術を導入できたことには、とても満足しています。新庁舎は大館城址として隣接する公園と一体となった設計を取り入れ、市民の憩いの場となるための工夫が随所に施されています。5月からの運用開始後は、安全・安心の開かれた庁舎として、市民に広く受け入れられることを期待しています。
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