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被災後「直ちに」機能するために、最重要課題は「免震構造の選定」

秋田県大館市の取り組み

庁舎の地震対策①

被災後「直ちに」機能するために、最重要課題は「免震構造の選定」

大館市
総務部 総務課 新庁舎建設推進室 主査 菅原 樹
[提供] 日鉄エンジニアリング株式会社

※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


未曾有の大災害となった東日本大震災からこの3月で10年が経過。この間、自治体の防災・減災対策、特に地震対策は大きく進み、免震構造を導入する自治体が増えている。大館市(秋田県)もそうした自治体のひとつだ。同市では、まもなく運用が開始される新庁舎において、「新たな免震構造」を導入したという。どのような検討を経て、導入を決めたのか。同市新庁舎建設推進室の菅原氏に、話を聞いた。

大館市データ
人口:7万265人(令和3年3月1日現在)世帯数:3万1,589世帯(令和3年3月1日現在)予算規模:769億2,700万4,000円(令和2年度当初)面積:913.22km²概要:秋田県北東部出羽山地を流れる米代川と長木川の清流沿いに開けた大館盆地にある。秋田、青森、岩手の北東北三県の要衝の地であり、古くから人々が定着し、縄文時代早期の遺跡も残る。昭和6年に、日本犬では最初に天然記念物に指定された秋田犬の「発祥の地」としても知られる。大館能代空港や日本海沿岸東北自動車道などの高速交通体系の整備や、各種施設の充実などの住環境、経済環境の整備が進み、北東北の拠点都市へと飛躍の時を迎えている。
大館市
総務部 総務課 新庁舎建設推進室 主査
菅原 樹すがわら いつき

新庁舎建設にあたり、複数の免震技術を検討

―大館市が現在進めている新庁舎建設の概要を教えてください。

 当市の庁舎は東西2つの棟に分かれていますが、西側は昭和29年の竣工と老朽化が進んでおり、耐震性能の不足も指摘されていました。給排水や冷暖房といった各種設備の老朽化、住民サービス窓口や執務環境の狭あい化などの問題も抱えていました。そうしたなか、東日本大震災がひとつの契機となり、従来の耐震補強を重ねる手法では、災害時に防災拠点としての機能を果たしていくことは難しいと判断。さまざまな検討を重ねた結果、庁舎の建て替えを決めました。

 計画の推進にあたって、市では基本方針をまとめましたが、その第一に掲げたのが、「防災拠点として市民の安全・安心を確保した庁舎」というものでした。

―それは具体的に、どのようなことを意味するのでしょう。

 大規模災害が発生した場合に、救助や復旧に向けた情報収集の中核施設として十分機能できるよう、「高度な耐震性能を確保すること」と定義しています。地質調査の結果では、当市の地震リスクはさほど大きくないことが分かった一方、日本海連動型の大地震や、全国どこにでもあるとされる直下型大地震への備えは依然必要であることも分かりました。基本方針が定める、災害後も拠点として「直ちに」災害復旧業務に着手できる耐震性能を求めた当市では、免震構造の導入を基本路線として計画を進めてきました。

―実際に、免震構造の検討はどのように進められたのですか。

 設計会社から複数の検討書を提案いただき、おもに積層ゴム支承を主体とする2つの案と「球面すべり支承」という大きく3つの免震技術について検討しました。地質構造や想定される地震リスクなどを踏まえた検討の結果、当市では「球面すべり支承」の免震技術を導入することを決めました。

建設コストや床面の揺れで「球面すべり支承」が優位に

―導入の決め手はなんだったのでしょう。

 免震性能については、どの案も当市の地震リスクを低減するには十分でした。そのうえで「球面すべり支承」は、構造がシンプルであり、免震装置自体がほかの方式の装置に比べて薄くコンパクトです。そのため、設置する地下ピットにさほどの深さが必要なく、建設時の掘削コストを抑えることができる点は高く評価しました。実際、6階建て、延べ床面積約7,330㎡の下部構造には計40基の免震装置が設置されていますが、地下ピットの深さは、わずか2m強に抑えることができました。

 また、同じく評価したのが、当市における地震発生時のシミュレーションを行った結果、上部建物の床面の揺れがほかの方式に比べて小さかった点です。

―なぜ、床面の揺れの小ささが重要と考えたのですか。

 当市では、「直ちに」災害復旧業務に着手できることを条件に掲げていたからです。震度6強から7の地震に対しても、構造体を補修することなく使用できるのはどの方式でも同じでしたが、この「直ちに」を重視した場合、建物の床面の揺れが小さければ、棚や什器などの転倒を防げ、地震直後にも迅速に拠点機能を発揮できますから。

―今後の新庁舎の運用計画を教えてください。

 基本方針の第一に掲げた「市民の安全・安心を確保する」という目的のため、複数の選択肢を比較検討し、最新の免震技術を導入できたことには、とても満足しています。新庁舎は大館城址として隣接する公園と一体となった設計を取り入れ、市民の憩いの場となるための工夫が随所に施されています。5月からの運用開始後は、安全・安心の開かれた庁舎として、市民に広く受け入れられることを期待しています。


設計会社の視点

庁舎の地震対策②

多くのシミュレーションにより、建設地に最適な免震技術を提案

株式会社久米設計
環境技術本部 構造設計部 主管 藤田 芳治

前ページで見た大館市の新庁舎建設計画において、設計を担当したのが久米設計である。計画を取り巻くさまざまな要素を踏まえ、最適な免震技術を提案した過程では、どのような検討が重ねられたのか。同計画を担当した藤田氏に、「球面すべり支承」を提案した背景や導入の経緯などを聞いた。

株式会社久米設計
環境技術本部 構造設計部 主管
藤田 芳治ふじた よしはる

大館市では、球面すべり支承が最適

―大館市に免震技術を提案した経緯を教えてください。

 近年の大規模震災を受け、多くの自治体が本庁舎の機能に、防災拠点としての業務継続性や、機動力の発揮を重視する動きが強まっています。大館市もまさにそうした自治体のひとつで、施主が求める機能や条件を検討した結果、免震技術を導入する以外に選択肢はない状況でした。そこで当社では、大館市の地盤や秋田県が公表している被害想定地震のデータをもとに、複数の地震波を想定した地震応答解析を実施。多くの免震技術を比較検討した結果、大館市に適した3つの技術を提案しました。

―3つの技術は、それぞれどのような評価だったのでしょう。

 提案したのは、積層ゴム支承を主体とする2つの案と、球面すべり支承という3つの技術でした。比較検討の結果、免震建物の性能については、大館市の建設条件では地震時に建物各階の揺れの大きさを示す「層間変形角」や「床応答加速度」で、3案いずれも良い結果が得られました。

 有意な差が認められたのはコストで、球面すべり支承は、まず地震時に建物に生じる地震力が小さく、上部の躯体数量を低減できる可能性が高いこと。また、装置単体のコストも相対的に低いうえ、ほか2案で必要なオイルダンパーが不要となること。さらに、装置自体がコンパクトであるため、設置する建物下部の地盤を掘削するコストを抑えられる。これらのメリットがあることが分かりました。

―球面すべり支承をどのように評価していますか。

 免震技術のなかでは比較的新しい技術ですが、免震装置の特性は単純で誰もが理解しやすく、性能はこれまでの積層ゴム支承と比べても遜色がない。装置がコンパクトなので工夫次第でさまざまなメリットが生まれる可能性があることから、免震装置を比較するうえで選択肢が1つ広がったと感じています。今後は、中間階に免震装置を取りつける「中間層免震」や耐震建物を免震建物に改修する「免震レトロフィット」でも、より装置の特性を活かした提案ができるのではないかと思っています。

藤田 芳治 (ふじた よしはる) プロフィール
昭和43年、福岡県生まれ。平成6年、熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、株式会社久米設計に入社。平成24年より現職。

支援企業の視点

シンプルな構成で多くの利点がある、新しい免震技術の魅力

日鉄エンジニアリング株式会社
都市インフラセクター 営業本部 鋼構造営業部 免制震デバイス営業室長 中村 泰教

いま免震構造の導入を検討している自治体の新庁舎建設計画において、免震技術の有力な選択肢となっている、球面すべり支承『NS-SSB®』。ここでは、この装置を開発した日鉄エンジニアリングで営業を統括する中村氏に、同技術がもたらす可能性や今後の自治体支援方針などについて聞いた。

日鉄エンジニアリング株式会社
都市インフラセクター 営業本部 鋼構造営業部 免制震デバイス営業室長
中村 泰教なかむら やすのり

複数の自治体新庁舎でも採用。免震構造の適用範囲を広げる

―『NS-SSB』の構造を、詳しく教えてください。

 免震装置『NS-SSB』の構造は、非常にシンプルです。建物重量を支えるステンレス鋼材の「スライダー」を、球面状に加工された上下の同じくステンレス鋼材の「すべり板」で挟み込むかたちとなっています。地震の際には、「すべり板」の球面に沿って「スライダー」が振り子のように大きくゆっくりと移動し、球面形状を利用して建物をもとの位置に復元する仕組みです。「スライダー」表面には「すべり材」が施工されており、その「すべり材」と「すべり板」の間の摩擦で、地震エネルギーを吸収し建物の揺れを抑えます。

 構造がシンプルであるため、装置自体をコンパクトに製造できるほか、球面の機械加工の精度が高いため免震装置としての性能のバラつきが小さい、という特徴があります。主要構成部材がステンレスを主体とした鋼材であるため、経年劣化がきわめて少ないのも特徴です。

―装置が小さいことが、建設コストの抑制につながるようですね。

 それは、『NS-SSB』の大きな強みです。そのほかにも、コンパクトであるゆえに、免震改修や中間層免震にも大変有効であると考えています。さらには、建物の重量に関係なく一定の免震性能を発揮できるのも、ほかの免震技術にはない強みになります。大館市の新庁舎のように、冬場に大雪で重量が変化するような建物でも、免震性能に影響を及ぼしません。また、従来採用が難しかった木造のような比較的軽量の建物でも免震を実現でき、免震構造の採用の幅を広げられたと考えています。

―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。

 「鉄」に対する当社の知見によって実現した『NS-SSB』は、免震構造の適用範囲を大きく広げ、いまや多くの自治体のみなさんの有力な選択肢になっています。実際、大館市のほか、長野県内や山形県内の自治体の新庁舎建設においても、『NS-SSB』が採用されています。免震構造の採用で庁舎の防災性能を高めたい自治体のみなさんは、ぜひ導入をご検討ください。

中村 泰教 (なかむら やすのり) プロフィール
昭和46年、三重県生まれ。平成8年、東北大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、新日本製鐵株式会社(現:日本製鉄株式会社)に入社。平成18年、新日鉄エンジニアリング株式会社(現:日鉄エンジニアリング株式会社)に転籍。平成28年7月より現職。
日鉄エンジニアリング株式会社
設立 平成18年7月(旧:新日本製鐵株式会社のエンジニアリング部門が独立)
資本金 150億円
売上高 3,404億円(連結:令和2年3月期)
営業収益 4,737人(連結:令和2年3月末現在)
事業内容 製鉄プラント事業、環境・エネルギー事業、都市インフラ事業
URL https://www.eng.nipponsteel.com/steelstructures/
お問い合わせ電話番号 0120-57-7815
お問い合わせURL https://www.eng.nipponsteel.com/steelstructures/contact/form/
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