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6時間先の「広域氾濫予測」が、水害時の避難行動を劇的に変える

民間企業の取り組み

中小河川の氾濫予測システム①

6時間先の「広域氾濫予測」が、水害時の避難行動を劇的に変える

三井共同建設コンサルタント株式会社
河川・砂防事業部 水文・水理解析部 部長 近者 敦彦
[提供] 三井共同建設コンサルタント株式会社 / NEC(日本電気株式会社)

※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


毎年のように全国各地で発生する大規模水害。特に昨今は、局地的な集中豪雨が頻発しており、自治体が管轄する中小河川における氾濫リスクが高まっている。そうしたなか、新たな「氾濫予測システム」が開発され、それを兵庫県がいち早く導入したことに、一部で注目が集まっている。このシステムは、自治体の水害対策をいかに変えるのか。開発元のひとつである三井共同建設コンサルタントの近者氏に、システムの詳細を含めて聞いた。

三井共同建設コンサルタント株式会社
河川・砂防事業部 水文・水理解析部 部長
近者 敦彦こんじゃ あつひこ

降雨から氾濫までを、一体で解析するRRIモデル

―水害対策をめぐり、現在自治体が抱えている課題はなんですか。

 近年の大規模水害の頻発を受け、国土交通省が管轄する大規模河川では、各種観測機器や予測技術の導入が進んできました。それに対し、自治体が管轄する中小河川はその数も多く、対策に割ける予算や人員も限られるなかで、すべての河川を対象とする以上、打てる対策には限界がありました。

 そのうえ、中小河川では急激な水位上昇が発生しますので降雨から氾濫までの時間が短く、情報を集めて避難指示を発令した段階では、すでに氾濫が起こっているというケースも珍しくはありません。

―自治体においては、どのような対策が必要になるのでしょう。

 中小河川の水害対策で重要なのは、一刻も早く正確な情報を入手すること。河川の氾濫をあらかじめ正確に予測できれば、効果的な対策が打てるでしょう。しかも、近年は被害が広域におよぶケースが多く、その予測も同様に広域に行えるものでなければなりません。こうした課題に対応するために、土木研究所が開発したRRI(降雨・流出・氾濫)モデルを用いた「氾濫予測システム」を開発しました。

―どのようなシステムですか。

 このシステムは、リアルタイムの降雨データや予測降雨をもとに、河川水位や氾濫を予測するもので、「浸水深」「河川水深」「河川流量」の画像や数値データを配信できます。まず解析時間は、6時間先まで予測しています。中小河川では、降雨後すぐに河川水位が上昇するため、従来の予測ではすでに氾濫後の状況となってしまっていました。このデータは10分単位で更新されていき、つねにリアルタイムの予測情報を手にすることができます。

 また、河道流量から洪水氾濫までを一体で解析できるようになったのは、RRIモデルのもっとも画期的な点です。


すでに兵庫県で導入され、県内全域の避難計画に活用

―詳しく教えてください。

 広域の氾濫予測モデルは、京都大学の佐山敬洋准教授と研究を進めてきたものです。従来の予測技術では、降雨から河川への流出量を解析する「流出解析」と、流出量から氾濫を解析する「氾濫解析」は別々に行われていました。そのため、実際に起きる「上流での氾濫による河道流量の低減」や「氾濫水の河道への戻り」といった、「流出」と「氾濫」にはたらく相互の影響を反映することはできませんでした。

 RRIモデルでは、流域スケールで流出と氾濫を一体で解析。実際に起こりえる降雨から流出、氾濫への相互作用も詳細に反映させたうえ、100m×120mのメッシュサイズで氾濫予測を高精度に、しかも広域にわたって提供できるようになったのです。

―なぜ、そういった詳細な分析が可能になったのでしょう。

 膨大な計算量を処理する必要があるRRIモデルは、共同開発パートナーであるNECのスーパーコンピュータ技術があって初めて実用化することができたと言えます。NECには、並列化処理による演算の高速化やプログラムの最適化で大きく貢献いただきました。実用化されたこのシステムは、すでに兵庫県で導入され、県内全域の各市町で水防活動支援として活用されていますが、ここではわずか10分間隔での情報更新が実現されているのも、NECの技術力に負うところが大きいです。

 このシステムは、構築モデル次第で予測精度を高めていくことも可能です。今後は、兵庫県をはじめ導入自治体の声を反映させながら精度向上にくわえ、使い勝手の良さも追求し、自治体の水害対策に貢献していきます。

近者 敦彦 (こんじゃ あつひこ) プロフィール
昭和49年、兵庫県生まれ。平成9年、三井共同建設コンサルタント株式会社に入社。河川計画部門の技術者として業務に従事。平成26年より現職。

民間企業の取り組み

中小河川の氾濫予測システム②

「氾濫予測システム」を実現した、最先端スーパーコンピュータの実力

NEC(日本電気株式会社)
プラットフォームソリューション事業部 兼 AIプラットフォーム事業部 シニアプロデューサー 泓 宏優

※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


前ページで紹介した、RRIモデルを用いた「氾濫予測システム」。この画期的なシステムが実用化された背景には、NECが開発するベクトル型のスーパーコンピュータ『SX-Aurora TSUBASA』の存在があったという。ここでは同製品で事業開発を担当する泓氏に、同社技術の優位性や、今後のスーパーコンピュータの応用可能性などについて聞いた。

NEC(日本電気株式会社)
プラットフォームソリューション事業部 兼 AIプラットフォーム事業部 シニアプロデューサー
泓 宏優ふち ひろまさ

設置面積で1,000分の1、電力で200分の1に進化

―RRIモデルを用いた「氾濫予測システム」には、NECの技術が活かされていると聞きました。

 「氾濫予測システム」の予測計算を行っているのは、当社が提供する世界で唯一のベクトル型スーパーコンピュータ(以下、スパコン)である『SX-Aurora TSUBASA』です。ベクトル型スパコンは国立環境研究所、核融合科学研究所、東北大学、海洋研究開発機構、大阪大学などの大規模センターで多くの実績を有する技術です。

―ベクトル型スパコンとは、どのようなものですか。

 一般的なパソコンやサーバなどで用いられるスカラー型が、データを細かく分けて逐次的に処理するのに対し、ベクトル型は大量のデータを一度に計算機に送ることができるため、大規模シミュレーションなどに適した技術です。例えると、5つの荷物を5台の車両で運ぶスカラー型に対し、ベクトル型は大きなトラックで一度に運ぶイメージです。平成12年当時、世界最高速に認定された海洋研究開発機構の『地球シミュレータ(SX-6)』は、地球温暖化予測などの研究分野で利活用されているベクトル型の代表的なスパコンシステムのひとつです。

 プロセッサの並列台数を増やして処理性能を高めるスカラー型に対し、ベクトル型では1プロセッサあたりの計算能力を上げていくのが開発アプローチであり、近年その成果は目覚ましいものがあります。

―詳しく教えてください。

 約20年前の『SX-6』を例にとると、同じ2TFLOPSの計算能力を発揮するには大型冷蔵庫並みのラック32台のスペースが必要でした。これに対し、現在では手のひらサイズのカード型エンジンでわずか1台のデスクサイドのサーバタイプに収まるようになりました。設置面積で1,000分の1、電力で200分の1の高集積化が実現されています。


装置を「販売する」から、機能を「使ってもらう」へ

―そうした性能向上は、今回どのように活かされているのですか。

 RRIモデルを用いた「氾濫予測システム」では、16枚のカード型エンジンで構成するシステムを利用いただいています。これまでは、お客さまのマシンルームにコンピュータを納入するのが一般的でしたが、今回は計算能力だけをクラウド経由で提供するスキームを実現しました。お客さま自身は保守・メンテナンスの負担なく、24時間、365日、安定して継続的に利用できるサービスレベルにてコンピュータリソースを提供しています。当社では、ベクトル型スパコンの技術を安心・安全という社会価値の創造に役立てたいと考えており、これからは装置を「売る」だけではなく、機能を「広く使ってもらう」ことに力を入れたいと思っています。その意味では、今回の三井共同建設コンサルタントさんとの共創は、まさに当社が描く事業理念をカタチにしたものと言えます。

―ベクトル型スパコン技術は今後、どう活用されていきますか。

 高速計算に適したベクトル型スパコンは、処理性能の向上を図りながらも小型化されています。さらに、「広く使ってもらう」サービスの拡充にも力を入れており、今までより身近な存在として多くのみなさまにご活用いただけると考えています。

 ベクトルは、近年注目を集めているAIでの学習・データ分析の処理にも利用できる技術です。たとえば、兵庫県が目指しているように、「氾濫予測システム」のデータ分析を通じた精度評価や警報発令の自動化といった仕組みにも活用できるかもしれません。また、5G以降の次世代通信時代には、ネットワークで通信できるデータ量がより一層増大します。そのため、そのデータを高速処理する計算リソースとしてのベクトル型スパコンの有用性はますます高まるはずです。当社では、この技術によって、自治体のみなさまが提供する住民サービスを下支えしていきたいと考えています。そのひとつの重要な成果である「氾濫予測システム」も、多くの自治体に活用していただきたいと思っています。

泓 宏優 (ふち ひろまさ) プロフィール
昭和39年、岐阜県生まれ。昭和63年、日本電気株式会社に入社。メインフレーム端末の製品計画、PCサーバのプロダクトマーケティングなどを経て、令和元年より現職。


 兵庫県は、日本海と瀬戸内海の両方に面した唯一の県で、日本の縮図といわれるほど多様な風土を有しています。県内には97水系685河川が流れ、その総延長は全国有数を誇ることもあり、さまざまな河川施策を展開してきました。

 そのようななか、平成21年に発生した県西・北部豪雨では、ハード面での河川改修にくわえ、ソフト面では全河川で3時間先まで河川水位が予測可能なシステムを構築・運用してきました。このたび、より早期における確度の高い防災情報の発信を主眼に、6時間先まで河川水位を予測し、氾濫も反映できる、RRIモデルを用いた「氾濫予測システム」に改良(令和2年10月から運用)しました。

 降雨から流出、氾濫までを一体的に解析できるこのモデルでは、再現性の高いシミュレーションが可能となります。また、その情報は、県内全市町が共有できる仕組みで、近年、課題となっている「広域避難」にも資すると考えます。実際に、本システムの予測情報を参考材料のひとつにして、避難勧告などを発令している市町もあります。こうした実情を踏まえると、県全域を広域にカバーできる本システムの意義を強く感じるところです。

 一方、実際の降雨データをもとにチューニングできるのも、本システムの特徴です。今後は、実河道断面やダムモデルの反映を行うなど、さらなる改良をくわえて水位予測の精度向上を図るとともに、データの利活用など発展的な運用方法も模索し、県内市町とも緊密に連携しながら、本システムを最大限に活用していく方針です。


三井共同建設コンサルタント株式会社
創立 昭和40年12月
資本金1億円
売上高88億400万円(令和2年6月期)
営業収益468人(令和2年7月現在)
事業内容総合建設コンサルタント
URLhttps://www.mccnet.co.jp/
お問い合わせ電話番号 03-3495-1321
お問い合わせメールアドレスmcc_sodanmadoguchi@mccnet.co.jp
NEC(日本電気株式会社)
創立 明治32年7月
資本金4,278億円(令和2年7月10日現在)
売上高3兆952億円(連結:令和2年3月期)
従業員数11万2,638人(連結:令和2年3月末現在)
事業内容社会公共事業、社会基盤事業、エンタープライズ事業、ネットワークサービス事業、グローバル事業
URLhttps://jpn.nec.com/
お問い合わせメールアドレスinfo@hpc.jpn.nec.com
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