
茨城県神栖市の取り組み
民間委託を活用した「放課後児童クラブ」運営①
民間の運営ノウハウを導入し、高まる学童保育ニーズに備えよ
※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
平成30年9月、文部科学省は「新・放課後子ども総合プラン」を発表し、すべての児童が放課後を安心・安全に過ごせるよう、「放課後児童クラブ」の追加的な整備を打ち出した。これを受け、対応を迫られる自治体にあっては、人手や財源の不足に頭を悩ませているところも多い。そうしたなか、神栖市(茨城県)では、早くから「放課後児童クラブ」の整備を進め、待機児童ゼロを実現してきた。その手法について、同市担当者に聞いた。

保育への需要が増すなか、運営を担う市の負担が課題に
―神栖市では、早くから子育て支援に力を入れてきたと聞きます。その背景を教えてください。
当市では、近隣の鹿島臨海工業地帯の開発により、過去数十年にわたって転入者が増え続け、人口の半数ほどを、この間に市外から移住してきた勤労世帯が占めている特殊な地域と言えます。そのため、核家族化も進み、放課後の児童をどのように受け入れるかは、早くから市の課題でした。その受け皿として、昭和49年から児童館の整備に着手し、現在までに県内で2番目に多い7ヵ所を設置。そこで「放課後児童クラブ」を運営してきました。
しかし、近年の保護者の就業形態の多様化や女性就業率の向上などを背景に、少子化が進むなかでも「放課後児童クラブ」への需要は増え続けてきました。そのため、現在まで継続的にさらに増設する必要に迫られています。
―この間、どのように増設を進めてきたのでしょう。
市内の小学校でも「放課後児童クラブ」を段階的に開設する方針を決めました。ただし、運営にあたっては、財源の確保はもとより、職員の配置も難しい状況でした。さらに、子育て支援に対するニーズは多様化・複雑化しており、クラブの運営を担う支援員には一定以上の専門性も求められます。そのため、運営をめぐる市の負担は年々大きくなっていました。
―どのように解決したのですか。
平成24年から、一部の「放課後児童クラブ」の運営を民間事業者に委託することにしたのです。ほぼ毎年増え続ける「放課後児童クラブ」を市の職員のみで運営していくのは難しく、民間のノウハウを導入することで、効率的な学童保育運営を実現できるのではないかと期待したためです。公募型の事業者選定により、委託先はシダックス大新東ヒューマンサービスに決定。支援員の教育・研修体制が充実していることにくわえ、市内に事務所を構えているため、迅速な連絡体制を確保してもらえる安心感が決め手になりました。

コロナ禍での「1日保育」対応力に利用者の高い評価も
―委託の効果はいかがでしたか。
利用者のニーズに対して、とても柔軟な対応ができるようになりました。急な支援員の増員や保育時間の延長が必要になった場合でも、シダックス大新東ヒューマンサービスの広い人員ネットワークによって支援員を迅速に配置してもらえるように。さらに、児童虐待やいじめなどへの対応が迫られるケースがかりに起こった場合でも、専門知識をもった人材を配置してもらえる体制もあります。
最近では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で小学校が一斉休校になった際、保護者から「1日保育」への強い希望が寄せられました。これに対し、同社は快く引き受けてくれ、約3ヵ月にわたって朝7時半からクラブを開いてくれたのは非常にありがたかったですね。
―市職員による運営では、とても対応できなかったと。
はい。そうした対応力を早くから評価してきたため、市では委託開始の翌年となる平成25年度から、市内の「放課後児童クラブ」すべての運営を一括して同社に依頼しています。平成27年度に国が「子ども・子育て支援新制度」を打ち出し、「放課後児童クラブ」の設置が一気に増えることになった際に十分に対応することができたのも、振り返れば民間委託のおかげでした。
当市ではその後も「放課後児童クラブ」の増設を続け、平成28年には待機児童ゼロを実現。平成31年時点で42クラブ、定員1,550人の受け入れ体制を構築していますが、そのすべての運営をシダックス大新東ヒューマンサービスに任せています。現在は保育時間を18時半まで延長。すべての希望者を対象に、土曜日の運営を集約して行っており、利用者からは大変喜ばれています。
支援企業の視点
民間委託を活用した「放課後児童クラブ」運営②
「地域性」と「専門性」を見極めて、学童保育の民間委託を成功に導く
学童保育事業本部 本部長 執行役員 石井 健治
※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いち早く民間の運営ノウハウを導入し、学童保育の「待機児童ゼロ」を実現してきた神栖市(茨城県)。この取り組みを一貫して支援してきたのが、シダックス大新東ヒューマンサービスである。国が「放課後児童クラブ」の増設方針を打ち出すなか、民間への運営委託でどのような効果が得られるのか。また、昨今のクラブ運営をめぐる課題とはなにか。同社で学童保育事業を統括する石井氏に聞いた。

全国102自治体で、1,054クラブの支援実績
―学童保育をめぐる現状の課題を教えてください。
現在、学童保育におけるもっとも大きな問題とされているのが、待機児童の問題です。厚生労働省が行った調査によると、令和元年の実績で全国の待機児童数は1万8,261人にのぼり、前年を上回っている状況です。小学校に進学すると、放課後の子どもの預け先がなくなり、保護者が就業形態の変更を迫られるという、いわゆる「小1の壁」が問題視されています。一方、こうした背景から、国が「放課後児童クラブ」の整備方針を打ち出していますが、自治体独自で対応するのは簡単ではありません。
―詳しく教えてください。
「放課後児童クラブ」をめぐっては、「量的拡大」だけではなく、「質的向上」という要請もあります。量の問題では、新たな財源や人員、場所をいかに確保するか。ただでさえ難しい問題であり、これまで以上に運営の効率性が求められます。そのうえ、近年学童保育の現場では、支援員(先生)の質が非常に重要になっています。障がいをもつ子どもへの対応をはじめ、児童虐待やいじめ問題といったケースへの対応も迫られるためです。保護者の就労形態が多様化する近年は、保育時間の延長や週末保育へのニーズも強いです。量的拡大と質的向上を同時に果たせなければ、「待機児童問題」や「小1の壁」を解消することはできません。
―解決策はありますか。
神栖市での実績が示すように、「放課後児童クラブ」運営の民間委託は、とても有効な解決策になります。たとえば当社には、これまで全国102自治体、1,054の「放課後児童クラブ」の運営を支援してきた業界トップクラスの実績があり、幅広い人的ネットワークがあります。神栖市のように、コロナ禍での「1日保育」や延長保育といった急な要請にも、グループ全体で約3万5,000人を擁する当社なら、柔軟に対応できる体制を構築しています。
また、支援員に求められる専門性に関しても、当社では社内研修体制を充実させており、多数の動画コンテンツを独自の動画マニュアルとして体系化。さらに、小児科医や栄養士、公認心理士、弁護士といった専門家人材から成る「キッズサポートチーム」を組成し、現場を支援する体制を整えています。

楽しく学べる環境を提供し、学校外教育の格差是正も
―ほかに、課題として挙げられることはありますか。
もうひとつ大きな課題として捉えているのは、「学校外教育における教育格差」です。塾や習い事に通っている子と通えない子では、学習機会や社会体験に差が出てしまいます。私たちは、学校外教育の格差を是正するため、さまざまなプログラムを展開しています。たとえば、外国人講師による「英語で遊ぼう」やプログラミング的思考の育成を目的とした「ペーパークラフト」の導入。また、コロナ禍で自粛を強いられた子どもたちに「リモート海外トリップ」を実施し、近年高まっている学習ニーズに対しても、最新のICTツールを活用し、楽しく学べる環境を提供しています。
―学童保育をめぐる今後の自治体支援方針を聞かせてください。
近年、地域コミュニティの希薄化が指摘されるなか、当社では「地域に寄り添った運営」を念頭に、地域の実情を踏まえた運営計画や人材活用を進め、全体で子どもたちに寄り添っていく学童保育を展開しています。また、グループの総合力を背景に、フードサービス事業で培ったおやつやお弁当の導入、衛生管理を充実させ、自治体の学童保育事業を支援しています。関心のある自治体のみなさんは、ぜひ当社までお問い合わせください。

設立 | 昭和61年11月 |
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資本金 | 1億円 |
売上高 | 273億円(令和2年4月期) |
従業員数 | 2,733人(令和2年4月現在) |
事業内容 | 児童福祉事業、社会サービス事業、学校給食事業 |
URL | https://www.shidax.co.jp/corporate/group/shidax-daishinto-human-service/ |
お問い合わせ電話番号 | 03-6731-9111(平日9:00〜18:00、祝日・年末年始を除く) |
