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「住んでよし、訪れてよし」そうしたまちづくりが観光施策の本質です

「住んでよし、訪れてよし」そうしたまちづくりが観光施策の本質です

「住んでよし、訪れてよし」そうしたまちづくりが観光施策の本質です

公益社団法人 日本観光振興協会 副理事長 久保田 穣
[提供] KDDI株式会社 /株式会社コロプラ

目下のところ、観光振興は日本における重要な産業振興と位置づけられており、国をあげてさまざまな施策が行われている。そうしたなか、日本観光振興協会は、観光立国の実現に向けた総合的な観光振興に取り組んできた。副理事長の久保田氏に、観光振興を取り巻く背景や同協会ならではの取り組み、自治体が観光施策を行うためのポイントなどを聞いた。

※下記は自治体通信 特別号(2018年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

全国にある観光資源が大きな可能性を秘めている

―改めて、日本が国家戦略として観光振興にチカラを入れている背景はなんでしょう。

 ご存じのとおり、日本は都市部も含めて人口減少が進み出しています。当然、人口が減ると経済は基本的に縮小傾向に。そのような状況で、どのようにして各地域を維持拡大していくかを考えたときに、着目されたのが「観光」です。

 たとえばインバウンドでは、海外の方が日本に来てお金を消費します。これは、いわゆる輸出と一緒です。これまでの日本は、どちらかというと技術立国で、安くていいモノを大量に輸出することで経済を発展させてきました。しかし、市場や世界情勢が目まぐるしく変化するなか、それ一辺倒ではさらなる成長は難しい状況に。

 一方で、観光資源に目を向けると、東京や大阪、京都といった特定のエリアだけでなく、全国各地に存在します。自然のみならず、文化や食もあります。より人口減少が進む地方でも、大きな可能性を秘めているのです。そうした地方創生の観点からも、観光が政策的なメインストリームになっているのだと考えています。

―そんななか、日本観光振興協会とはどういった組織なのですか。

 これまで長きにわたり、日本の観光振興に取り組んできた団体です。昭和6年に日本各地の観光協会や地方自治体などで「日本観光地連合会」を結成。これを母体に、昭和11年に任意団体として「日本観光連盟」が発足しました。その後さまざまな変遷を経て、平成23年に鉄道各社、航空会社、旅行会社などで構成された社団法人日本ツーリズム産業団体連合会と合体し、社団法人日本観光振興協会に改称し、平成25年から現在の名称になりました。以降、官民双方のメンバーをそろえたナショナルセンターとして、観光の政策提言や地域の方たちに観光の理解を深めてもらうためのタウンミーティングなどを行っています。

 代表的な取り組みでいいますと、毎年9月に『ツーリズムEXPOジャパン』を主催団体のひとつとして開催しています。日本にセールスするために約140ヵ国が集まるほか、日本の各地域がプロモーション目的で集まり、展示会や商談会、消費者向けのプロモーション、ダイレクトマーケティングなどを行っています。これは、世界でもトップクラスの旅行博だと自負しています。

人を呼び込むために立派な施設は必要ない

―自治体が観光施策を行ううえでのポイントはなんでしょう。

 ひと言でいうと、「住んでよし、訪れてよし」をめざすことです。どこでもそうですが、住民が誇りをもてない地域に「ぜひ来てください」とはなりません。別に、立派な商業施設は必要ありません。それぞれの地域には多様な文化や歴史、生活があります。有名な取り組みですが、岐阜県飛騨地方の高山・古川エリアのなにげない里山を自転車やスノーシューでめぐる『SATOYAMA EXPERIENCE』は、「日本ならではの原風景が楽しめる」と、訪日外国人に人気です。

 このように来訪者に楽しんでもらい、結果的に地域の理解につながり、その意識が住民に広がれば、住民自ら誇りのもてる観光資源を掘り起こして発信していくようになります。そうした流れをつくっていくことが重要です。

―ほかにポイントはありますか。

 地域の視野を広げて、広域で連携していくことです。たとえば、Aというまちは歴史も文化もあるが、宿泊施設がない。ただ、周辺のBには温泉もあって宿泊施設もある。ならば、AとBの両方をまわってもらうような仕組みにしていく必要があります。とくに訪日外国人は、広く周遊する傾向があります。近隣地域が役割分担した地域づくりを行い、共同して情報発信していくことが大事ですね。

 さらに、民間のノウハウを活用することも重要です。行政のトップダウンではなく、いかに地域の人が参加しやすいまちづくりの体制を整えるのかが、ポイントになるでしょう。たとえば、別府から始まった温泉泊覧会、通称「オンパク」は好例です。温泉を中心とした地域の体験型イベントで、お土産屋や地域の旅行会社、ギャラリーを運営している人など地元の人が知恵を出しあって、焼き物体験やラフティングなどそこでしかできないコンテンツをつくって集客を図るというもの。この取り組みは、現在全国に波及しています。

DMOに期待される地域マネジメント

―そうしたポイントを押さえるために必要なものはなんでしょう。

 地域マネジメントを行う、「かじ取り役」の存在です。その役割を担う団体として注目されているのがDMOです。日本観光振興協会では平成26年から「DMO研究会」を立ちあげ、海外のDMOの実例調査や勉強会を重ねてきました。観光庁では「2020年までに世界水準DMOを全国で100組織形成する」ことを目標としており、われわれもDMOに対してさまざまな支援を行っています。

 具体的に3つの取り組みに注力しています。ひとつはマーケティング支援。たとえば、宿泊を基軸にした観光に関連するデータを提供する「観光予報プラットフォーム」などを提供しています。また、協会内の総合調査研究所において、リサーチ・分析、戦略立案サポートなどを行っています。

 ふたつ目は人材育成支援。マーケティングや財源の確保、まちづくり、地域のコンセンサスづくりといった研修や講座を、入門・初級編から応用編まで幅広く提供するなどの取り組みを行っています。

 そして、ビジネス支援。DMO自体がビジネスをするかどうかは各DMOのあり方しだいですが、なんらかのカタチで地域のビジネス拡大を図ることが求められます。そこで、そうしたノウハウをもった企業とのビジネスマッチング支援などを行っています。

 3つの支援にくわえ、今年度からは「KPIのつくり方がわからない」「県と市町村のDMOがどう連携すればいいか」といった個別の課題を支援するコンサルティング支援にも取り組む予定です。

団体を「送客」するのではなく個人を「集客」する時代に

―今後の観光における支援方針を教えてください。

 旅行や観光が個人化(FIT化)している今日、「団体客を送客してください」と旅行会社にお願いするのは時代遅れ。個々の指向をとらえ、観光客が自ら足を運びたくなる施策が必要です。「送客」ではなく、地域が「集客」する時代なのです。そのためには、客観的なデータや聞き取りやクチコミなどにもとづいたマーケティングが必要不可決となります。

 近年はビッグデータが注目されているため、平成29年にGPSのビッグデータにかんする研究会を開催しました。さらに、観光庁が発表している成功事例集の作成にも各種データにくわえ、GPSのビッグデータによる調査を実施しています(次ページ参照)。

 今後の観光には、地域マネジメントが必要で、DMOが担う役割は大きいです。その支援を行うことで、「住んでよし、訪れてよし」のまちを増やしていきたいですね。

公益社団法人 日本観光振興協会 副理事長 久保田 穣(くぼた みのる)プロフィール

東京大学経済学部卒業後、昭和54年に日本国有鉄道に入社。昭和62年、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、人事部勤労担当課長、事業創造本部部長、ジェイアール東日本企画常務取締役を歴任。平成21年に執行役員長野支社長に就任後、信州DCにおいて、長野県の観光による地域活性化を推進する。平成23年より株式会社ジェイティービー常務取締役に就任。平成28年に公益社団法人日本観光振興協会に入社し、副理事長に就任。長野県観光振興審議会会長、一般社団法人日本温泉協会理事、一般社団法人日本ジビエ振興協会理事。


日本観光振興協会が行っているビッグデータにかんする取り組み

KDDI株式会社 /株式会社コロプラ
[提供] KDDI株式会社 /株式会社コロプラ

久保田氏のインタビューからも、観光施策の戦略を立てるためにはデータにもとづいたマーケティングが欠かせなくなっていることがわかる。このページでは、ビッグデータにかんする日本観光振興協会の取り組みを紹介する。

観光経営研究会を開催

 平成29年10月16日、日本観光振興協会の会議室(東京都港区)において、『第1回観光経営研究会~世界水準の観光経営を目指す産学官合同研究会~』が開催された。この研究会は、効率的・効果的な観光地経営の実現やDMOのさらなる形成促進などを図るため、地域と企業の相互交流を促進。産学官がそれぞれの立場から意見交換を行うことでイノベーションを育み、観光マネジメントを進化させるのが狙いだ。

 記念すべき第1回目は、「ビッグデータを活用した観光マーケティング」がテーマ。同協会総合調査研究所所長であり、首都大学東京都市環境学部教授・清水哲夫氏が基調講演を行った。その後、ビッグデータの分析結果を自治体や民間企業に提供している株式会社コロプラのコーポレート統括本部 新規事業開発部の酒井幸輝氏、株式会社ナビタイムジャパン インバウンド事業部の藤澤政志氏が、それぞれのテーマに沿ったこれまでの取り組み事例を発表した。

 酒井氏は、「旅行者の動きを❝見える化❞することで、性別や年齢層別にターゲットごとの観光マーケティングが可能になる」と指摘するなど、ビッグデータからえられる効果を説明。一方の藤澤氏は、「訪日外国人に人気のスポットでも、アジア系旅行者と欧米系旅行者によって回遊する傾向の違いがわかる」といった説明を行った

観光庁事業の取り組み

 日本観光振興協会は、平成28年度に行われた「国内観光の振興に関する調査・分析業務」を株式会社コロプラと受託して実施。

 この事業では、各種統計データやビッグデータなどの科学的根拠にもとづいて国内観光の現状調査や、課題分析を行うとともに、地域の課題に対する効果的な施策を検討した。さらに調査により国内旅行者、国内旅行消費額を高めている地域を選定し、要因分析を実施。それを今後の観光地域づくりをめざす地域へ向けて提示することにより、観光による地域活性化を支援するのが目的だ。

 データには、観光関連基礎データ(「人口の現状」「人口推計」「地域経済循環図(RESAS)」「延べ観光客数」「事業者割合」「事業所売上」を活用)、観光消費額データ(観光庁「旅行・観光消費動態調査」をもとにコロプラが推計)、KDDIデータ(属性・主要アンケート・人溜まりヒートマップ)、観光予報プラットフォーム(宿泊動向推計値・宿泊属性・来訪者ランキング・平均宿泊単価推計値)が記載されている。

 地域事例としては、青森県・函館デスティネーションキャンペーンによる誘客などにより、関東、東北を中心に多くの人が訪れた函館市や、農業体験や就業体験ができるホームステイ民泊で国内のみならず、訪日外国人の宿泊者数を伸ばしている明日香村のほか、小田原市、下呂市、鯖江市、倉敷市、松江市、東かがわ市、高千穂町など、独自の事例が紹介された。