
神奈川県横浜市の取り組み
障害者へのコミュニケーション支援①
障害者への自己表現支援で見出した「コミュニケーションロボット」の可能性
経済局 イノベーション都市推進部 産業連携推進課 担当課長 松本 圭市
デジタル統括本部 企画調整部 デジタル・デザイン室長 谷口 智行
※下記は自治体通信 Vol.49(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
障害者福祉の充実を図ることは、自治体に求められる重要な責務のひとつだ。特に、自己表現を手助けするコミュニケーション支援は、障害者の自立を促す重要な取り組みとして力を入れる自治体が多い。そうしたなか、横浜市(神奈川県)では、ロボットを使ってコミュニケーションが苦手な子どもたちをサポートする実証実験を行い、大きな成果を得られたという。この取り組みを推進した同市経済局とデジタル統括本部の各担当者に、詳細を聞いた。


デジタル活用に向けた検討が、実証実験のきっかけに
―ロボットを活用したコミュニケーション支援に関する実証実験を行った経緯を聞かせてください。
谷口 デジタル統括本部では令和3年の発足以来、企業がもつデジタル技術を用いた行政課題の解決を推進してきました。そのなかで、行政課題のひとつに「障害者の活動支援」が浮上したのが、今回の実証実験のきっかけとなりました。
松本 経済局ではすでに「I・TOP横浜」という事業を展開し、IoT技術を有する企業におけるビジネス創出を支援していました。そこでは、「社会課題の解決」も事業の命題に掲げていたため、デジタル統括本部が目指す取り組みと方向性が一致すると考えたのです。そこで経済局とデジタル統括本部の連携のもと、実証実験の提案を「I・TOP横浜」の事業として募りました。実証実験の場は障害者スポーツ文化センター「横浜ラポール」を選定。テーマは「障害者のスポーツや文化活動の充実、施設の利便性向上」と設定しました。
―募集の結果はいかがでしたか。
谷口 さまざまな企業から実証実験のアイデアが集まり、そこから6社の提案を採択しました。スポーツ活動に関する提案が多いなか、特に注目したアイデアの一つが、三菱総研DCS社が提案した「コミュニケーションロボットを使ったワークショップ」でした。人とコミュニケーションを取るのが難しい子どもたちに、ロボットを自分の分身として使い自己表現してもらうというものです。
松本 特別な支援が必要な子どもたちの自立を支える重要な取り組みとなりうる点において、社会的意義の大きさを評価しました。ロボットを活用するため、経済局としては、先端技術の普及や経済の活性化という効果にも期待しました。
「ロボットは友だち」多くの参加者が親近感
―具体的に、どのように実証実験を行ったのですか。
松本 ワークショップは、サービスベンダーである三菱総研DCS社が行いました。そこでは、小学3年生から高校3年生までの計10人と、その保護者が「発表会」を開きます。参加者は「ロボットを使ってプレゼンテーションをするチーム」と「ロボットを使って来場者を案内するチーム」に分かれました。ワークショップは4回に分けて実施し、各チームは1~3回目に、ロボットに語らせたい言葉を用意したりロボットの挙動をプログラミングしたりしました。最後の4回目に、それぞれプレゼンテーションや会場案内を行うという内容です。
ワークショップ前後に、三菱総研DCS社がアンケート調査を実施し、コミュニケーションロボットの活用によって子どもたちの情緒や行動にどのような変化が起こるか、効果を検証しました。
―そこでは、どういった効果を検証できましたか。
谷口 コミュニケーションロボットを活用することで、子どもたちに前向きな心情が芽生えることを実証できました。アンケートでも、多くの子どもたちがロボットを「一緒にいたい友だち」と答えていたことがとても印象的でした。
松本 ワークショップへの参加前に「楽しみにしていたこと」と参加後に「楽しかったこと」を尋ねる質問でも、子どもたちの心情の変化は見て取れました。参加前は、「ロボットの操作」そのものを楽しみとする回答がもっとも目立っていました。しかし参加後は、「ロボットを通して人とコミュニケーションを取れたことが楽しかった」という回答が10人中7人*1から得られたのです。いずれの調査結果からも、ロボット活用の大きな可能性を実感しています。*2
施設職員の声
ロボットとの出会いをきっかけに、将来の夢を見出す参加者も
横浜ラポール 管理運営課担当課長 小島 匡治

私はスポーツ分野の指導員として子どもたちと接することが多いのですが、子どもが興味を示すことを探すのは難しいものです。その点、昨年のワークショップは、コミュニケーションロボットを使うということで、多くの子どもたちの関心を惹きつけていました。
たとえば、障害のある子どものなかには、集中力を持続させることが難しい場合もありますが、参加者は毎回60分という長い時間、ロボットの操作に集中していたのです。また、参加者は自らプログラムしたとおりにロボットを動かせることに達成感を得られていたようです。さらに、参加者のなかには、プログラミングそのものに関心をもった中高生も複数人いました。「将来はプログラミングにかかわる仕事をしたい」と自ら相談をもちかけてくれた参加者もいるほどで、ワークショップが将来の夢を見出すきっかけになったのならば喜ばしい限りです。
普段、保護者の話を聞いているなかでは、障害のある子どもたちの悩みは学校でのコミュニケーションに関するものが大変多いようです。コミュニケーションロボットを活用する同様の取り組みが今後、教育現場に広がり、子どもたちの悩みを解決する手段としてますます発展していくことに期待しています。
ワークショップ参加者の声
障害者へのコミュニケーション支援②
コミュニケーションロボットが、子どもたちの秘めた能力を引き出した
ここまで紹介した、「横浜ラポール」における「コミュニケーションロボットを使ったワークショップ」は、令和4年7~8月の間、4回にわたって実施された。そこでは、子どもたちがAldebaranの小型二足歩行ロボット『NAO』*3を使って、プレゼンテーションや来場者の案内を行うという試みが実践された。このページでは、ワークショップの参加者とその保護者2組に取材し、ワークショップでの体験で感じたことや、そこで得られた学びなどについて聞いた。(学年は取材時)
自分で文章を考え、入力も。想いはうまく伝えられた

ロボットを動かすのは初めてで、緊張しました。『NAO』も最初はちょっと怖かったですが、使ううちにだんだん「かわいい」と思えるようになりました。ワークショップでは、文章を考えるのも、それを入力するのも大変でしたが、みんなに伝わるように自分で言葉を選びました。みんなの前での発表はとても緊張しましたが、想いはうまく伝えられました。とても楽しかったです。もし同じようなワークショップがあれば、また参加してみたいです。学校にも『NAO』がいてくれたら、とても楽しいと思います。そのときは、私がみんなに使い方を教えてあげたいです。
今回のワークショップには、明莉本人が自分の言葉で気持ちを伝える良い機会になってくれればとの期待がありました。限られた時間でしたが、言葉選びも入力も基本的にはすべて本人が行っています。発表はとても緊張したようでしたが、本人は「楽しかった」と。ワークショップで、人前での発表にも自信がついたように思います。使い方次第で、『NAO』は娘の能力をさまざまに引き出してくれるのではないかと感じました。
思いどおりに動かせて楽しかった。ロボットのことが好きに

ロボットとか機械って、すごく気になります。『NAO』は、操作どおりに動くので、すごいなと思いました。キーボードは難しかったけど、だんだん慣れてきて、言葉もちゃんと工夫して、最後は間違えずに動かせました。発表会では、『NAO』と一緒に案内役をしました。会場の入口に人がいっぱい集まってきたので、とても緊張しました。でも、思いどおりに動かせたのは楽しかった。お客さんが喜んでくれたのも、うれしかったです。『NAO』のことが好きになったので、夏休みの自由研究でロボットについて調べました。ロボットの元になったのはチェコの言葉ですよ。
ワークショップには、本人が新しく夢中になれるものを見つけてくれればとの思いから、参加しました。ワークショップが進むにつれて、本人の意識が「ロボットの操作」から「ロボットを通じてコミュニケーションを取ること」に変わっていったのは印象的でした。発表会では、うちと同じようなお子さん、事情を知らない来場者など、相手に合わせて『NAO』の言葉やジェスチャーを臨機応変に選択していたのには驚きました。
支援企業の視点
ロボットの豊かな表現力は、心や行動の変容をもたらす
DX部門 テクノロジー事業本部 デジタル企画推進部 部長 古川 洋介
デジタル企画推進部 ビジネス推進グループ 担当課長 西岡 裕子
「横浜ラポール」で行われた、ロボットを用いたコミュニケーション支援の実証実験。この取り組みをサービスベンダーとして企画・実施したのが、三菱総研DCSである。ここでは、同社の古川氏と西岡氏に、自治体におけるコミュニケーションロボットの活用効果や導入のポイントなどを聞いた。


―現在、コミュニケーションロボットの活用は広がっていますか。
古川 開発の成果が積みあがっており、先進的な自治体では現実的な選択肢として活用を検討する動きが増えています。タブレット端末による文章読み上げなど、ICTを活用したコミュニケーション支援の試みはほかにもあります。しかし、ジェスチャーや表情といった身体性をもつロボットは、表現の幅が大きく広がるため、ほかの手段にはない効果が期待できます。
西岡 豊かな表現力は、ロボットを自分のアバターとして使ったとき、利用者が自己投影しやすくなります。一方、会話の練習相手とする場合、ロボットの安定した語調が適度な緊張感と安心感を利用者に与えるため、最適なパートナーとなりえます。
―横浜市での実証実験では、どのような成果が得られましたか。
西岡 コミュニケーションロボットの活用が利用者の心や行動の変容をもたらすという効果が、アンケートや観察を通じて確認できました。年齢や性別、障害の種類や程度も異なるさまざまなお子さんについて、実証実験という限られた機会で確認できたことは期待以上の成果だったと感じています。
古川 個々の利用者に合わせてカスタマイズができる柔軟性と豊富な機能は、当社の『Link&Robo for グローイング』の特徴ですが、それらが有効に活用されていました。なにより、ソフトウェアの操作が壁となってロボットへの興味を損なう、といったことがなかったことは大きな成果でした。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
古川 当社では、現場の声をもとにコンテンツやUI/UXの改善を重ねつつ、活用イメージをもってもらえるような情報提供にも力を入れていきます。当社の調べでは、住民がもっともDXを期待する分野は「教育」と「介護」との結果もあり、今回の実証実験は教育分野での象徴的な取り組みとの評価もあります。関心のあるみなさんは、ぜひご連絡ください。
設立 | 昭和45年7月 |
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資本金 | 60億5,935万円 |
売上高 | 695億円(連結:令和4年9月期) |
従業員数 | 2,921人(連結:令和4年9月現在) |
事業内容 | ソフトウェア開発とコンサルティング、各種事務計算等情報処理サービスなど |
URL | https://www.dcs.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 | 03-3458-8376 (平日 10:00〜17:00) |
お問い合わせメールアドレス | robocomm@dcs.co.jp |
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