
民間団体の取り組み
保育士等キャリアアップ研修の強化
「対面とオンライン」両輪の研修で、保育士のキャリアアップを支援すべき
※下記は自治体通信 Vol.47(2023年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
コロナ禍を経て、多くの自治体が「保育士等キャリアアップ研修」を対面に加えてオンラインでも実施している。保育士の処遇改善や専門性強化を図る同研修だが、対面研修と比べた習熟度の不足も懸念されている。そうしたなか、令和4年に5都府県で約2万人に同研修を提供した家庭まち創り産学官協創ラボ(以下、家庭ラボ)代表理事の上田氏は、「オンラインを発展させつつ、対面との両輪で工夫を重ねれば、習熟度を大きく高められる」と話す。同氏に詳細を聞いた。

コロナ禍をきっかけに、オンラインでの実施が増加
―「保育士等キャリアアップ研修」をオンラインで実施する自治体は増えているのですか。
コロナ禍で大きく増えましたね。保育士は日常的に多くの子どもと接するため、対面による集団受講でクラスターが発生すると、園への影響が大きいからです。加えて、さまざまなメリットから、普及が加速した面もあると思います。
―具体的には、どのようなメリットがあるのでしょう。
たとえば、受講スケジュールを調整しやすい点です。保育士等キャリアアップ研修は、全体で8科目あり、計12時間の個別研修と3時間の集合研修を受講する必要があります。対面形式では2、3回に分けての実施が主流で、受講者は移動も含めて1回あたり1日近く時間を使います。そのため、多忙な保育士は、行事などの合間になんとかシフトを調整する必要がありました。これに対し、オンラインの場合は、個別研修を分割して受講できるうえに、会場への移動が不要なので、園や自宅で学習しやすい時間に受講が可能です。
ただし、オンライン形式が増えたことの懸念もあります。
―どういった懸念ですか。
オンライン形式の研修は、会場で臨場感をもってみんなで受講する対面形式よりも、深い理解や共感を得られにくく、現場での実践に繋がりづらい、と考えられているのです。そこで、国による保育士等キャリアアップ研修の政策検討会から発足した当法人では、コロナ禍で増加が予想されるオンライン研修でも、 受講者の習熟度を高めて制度の目的を達成できるよう工夫を凝らしてきました。
オンラインを発展させつつ、対面研修の良さも活かす
―どのような工夫でしょう。
まず、15分程度の間隔で講義のなかに演習問題を入れて、集中力が途切れにくいようにしています。そして、何日かに分割して受講した演習内容をそのつど園で実践をしながら学習を進めてもらうことで、習熟度向上を図っているのです。また、ICTの知識があまりない受講者に対して十分にケアができる体制を整えています。具体的には、電話対応部署などに元保育士が携わり、ビデオ通話ツールの操作方法といった初歩から、保育士がつまずきやすい点を踏まえた学習をサポートしています。
一方で当法人では、対面とオンラインの両輪で研修の効果を高める取り組みにも力を入れています。たとえば、ディスカッションを行う集合研修だけは対面で行いたい人向けに、オンラインの個人研修と対面の集合研修というハイブリッド開催も実施。研修での要望や質問などはビッグデータ化し、カリキュラムに反映することで、研修全体の質も高めています。こうした施策を迅速に行えるのは、当法人が医師向けの行政研修など類似の研修を数多く提供しており、それらのノウハウの活用やオペレーションの統合が行えるからです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
全国から講師が訪れやすい東京駅付近に専用の撮影ブースを新設することで最新の研修動画を提供できる体制を整えるなど、今後も研修内容やシステムの改良を行っていきます。また、当社はコンソーシアムを通じて、約110の企業・機関と分野や組織の垣根を越えて連携できる体制を築いています。すでに手がけている保育や医療以外の分野の行政研修でも、官民連携×業界横断のオールジャパンで、最適な行政サービスを創っていきたいと考えています。
利用者の声
講義を見返して理解を深められ、忙しいなかでも実践的に学べた

オンライン研修は、自宅や職場で学習しやすい時間に受講でき、内容を毎日の仕事に活かしながら実践的に学べました。加えて、確認したい箇所を何度でも見返すことができ、さらに理解が深まったように感じます。また、コロナ禍で保育現場が緊迫するなか、会場での集団受講には抵抗がありましたが、オンラインなら安心して受講できました。今後も、「学びたい」と思ったときに自分のペースで理解を深められるオンライン研修を活用して、最先端の研究や現場で学んでいる講師の方々の話を聞き、もっと保育力を高めたいと感じました。
専門家の声
研修制度の趣旨をよく理解した、講師が多く揃っている

保育士等キャリアアップ研修」は、分野ごとに計15時間もの研修を通じて、受講者の保育に対する姿勢が良い方向に変わることを狙った制度です。特に保育について改めて「楽しい」「深い」と思えるようになることが期待されています。そのためには、現場の機微をよく知り、保育の実践現場で悩んでいる人に共感できる熟練者が講師になることが肝要ですが、家庭ラボの講師陣は、この趣旨をよく理解した人が多く揃っています。参加者の方々には、「ここだけはぜひ理解を深めたい」という積極的な姿勢で参加してもらいたいですね。
(政策ラボ、家庭ラボ by ラボグループ)
設立 | 平成30年6月 |
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従業員・講師数 | 約60人 |
事業内容 | 保育・教育・医療・介護支援、政策検討会・行政サービス、官民連携の各種コンサル・事業化支援など |
URL | https://katei.labo.jp/ |
お問い合わせ電話番号 | 03-3414-5211 (平日 10:00~16:00) |
お問い合わせメールアドレス | info@labo.jp |
