
民間企業の取り組み
交通政策におけるビッグデータ活用
高度なまちづくりを可能にする「交通関連ビッグデータ」の真価
オートモーティブ モビリティサービスユニット 統括マネージャー 中野 貴司
オートモーティブ 事業副統括 野間 高明
※下記は自治体通信 Vol.47(2023年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いま、先進技術の導入で都市機能の効率化を図るスマートシティ計画が各地で進んでいる。そこでは、地域住民や来訪者の利便性と安全性を高めるための最適な都市計画や交通政策の立案が自治体には求められる。そうしたなか、地図情報大手のジオテクノロジーズの中野氏は、「ビッグデータを効果的に活用すれば、自治体の交通政策はこれまで以上に高度化できる」と指摘する。その手法について、同社の野間氏とともに、話を聞いた。


都市計画や交通政策で、自治体が抱える4つの課題
―スマートシティへの取り組みが注目される現在、自治体の動きをどのように見ていますか。
中野 ITなど先進技術を導入して、さまざまな都市問題の解決を図るスマートシティの取り組みは、いま全国で関心が高まっています。そこでは、生活者のニーズや人口構成など社会情勢の大きな変化を受け、自治体には人々の利便性と安全性を高めるための最適な都市計画や交通政策を新たに立案することが求められています。そうしたなか当社では、地図データなどの提供を通じてスマートシティ構想を支援するなかで、多くの自治体が共通して抱えている課題がおもに4つあると見ています。
―それはどのような課題ですか。
中野 1つ目は、政策立案の基礎データとなる「交通量調査のデジタル化」です。ほとんどの自治体が、現在も人力で調査を行っており、人件費はもとより調査精度の観点でも課題を抱えています。人力では通行車両や歩行者の属性、移動の目的など詳細なデータを取得することはできず、調査精度を高めようにも人件費の高さが足かせとなり、年間に何度も調査を行うことは難しいのが現状です。
2つ目は、「交通渋滞の可視化」です。解消すべき交通渋滞が、「いつ、どこで、どのように発生しているのか」という正確なメカニズムが理解できておらず、経験や勘に頼った把握にとどまっているケースが少なくありません。そのため、3つ目の課題である、「交通結節点である駅周辺の人や車両の回遊促進策」がなかなか進まないようです。
1日10億件の位置情報から、ビッグデータを生成
―4つ目の課題はなんでしょう。
中野 近年、カーボンニュートラルに向けた取り組みとして全国的に進んでいる「自転車移動の活用施策や自転車専用レーンの整備」です。利便性の高い専用レーンを整備するには、自転車移動の現状把握や利用者の行動分析が必要であるうえ、安全性の観点からは自動車や歩行者などの交通量を把握することも重要です。
野間 これら4つの課題を解決するには、いずれも業務におけるデジタル化と、得られるデータに裏打ちされたエビデンスに基づく政策検討が必要になります。そこで当社では、自治体の都市計画や交通政策の立案において当社が提供する「交通関連ビッグデータ」を活用し、政策をこれまで以上に精緻化・高度化することを提案しています。
―「交通関連ビッグデータ」とは、どのようなものですか。
野間 当社が長年にわたり蓄積してきた地図データ上に、独自で取得した人流データを重畳したもので、これによって人や交通の動きを網羅的に把握することができます。地図データは、当社が保有する詳細な道路・歩行者・鉄道・自転車などのネットワーク情報と、地図背景に施設情報を加えたもので、業界トップクラスの精密さを誇ります。
中野 一方の人流データとは、当社が提供するM2E*1アプリ『トリマ』を通じて取得した、1日10億件にのぼる膨大なユーザーの位置情報を集積したものです。『トリマ』とは、徒歩・自転車・車などで移動して広告を見るとポイントが貯まるアプリで、ユーザーの位置情報から収集した詳細な移動履歴を取得できる仕組みです。この人流データを地図データに重畳することで、もし位置情報が鉄道ネットワーク上を高速に移動していれば電車移動であることがわかり、道路ネットワーク上を移動していれば速度によって徒歩か自転車か自動車かを判別できる、という具合に人々の移動履歴を収集・可視化し、交通関連ビッグデータを生成します。
20m・5秒ごとに取得し、経路や短い滞在まで解析
―その人流データとは、どの程度信頼性が高いものなのでしょう。
中野 『トリマ』は、令和4年12月現在、1,200万を超えるダウンロード数を誇り、月間アクティブユーザー数は400万を超えています。ユーザーは都市部に集中することなく、日本の人口とほぼ同じ比率で分布しており、『トリマ』の人流データは、現実の移動実態に即した信頼性の高さが特徴といえます。
野間 そもそも『トリマ』自体が一定の移動ごとにアプリを起動してポイントを貯める仕組みのため、起動回数が高く、1時間以内の収集率が90%超というきわめて高い鮮度で位置情報が収集できます。そのうえ、位置情報を20mごと、もしくは5秒ごとときわめて短い間隔で取得しているため、これまで難しかった詳細な移動経路や短い滞在まで位置情報から解析できるのも、これまでにない特徴です。
さらに『トリマ』には、ユーザーに対するアンケート機能があり、これが自治体でのデータ活用シーンで大きな役割を果たします。
―詳しく教えてください。
野間 『トリマ』のユーザー情報には、アンケートで取得した性別、年代などの属性情報が付与されています。その属性情報に加え、位置情報をもとに「半径▲㎞に住んでいる人」や「この日時に、この場所にいた人」といったように位置情報からスクリーニングすれば、属性情報と位置情報をかけ合わせた高いターゲッティング精度で、目的に合わせてピンポイントに調査やアンケートを行うことができます。
中野 『トリマ』では現在、約700万ユーザーがモニター登録をされており、回収したそれらの詳細なアンケート結果は政策立案の重要なエビデンスになりえます。こうした情報を当社では、「交通関連ビッグデータ」としてワンパッケージ化して、自治体での活用を提案しています。
―自治体はこうした「交通関連ビッグデータ」を、具体的にどのようなシーンで活用できますか。
中野 たとえば、冒頭にあげた「交通量調査のデジタル化」に悩む自治体が活用すれば、人件費をかけることなく低コストで、しかも迅速かつ正確に地域の交通量を取得できます。一年で複数回の調査を行うことも容易で、調査精度を高めることもできるでしょう。そのうえ、従来難しかった交通量における性別や年齢といった属性別の内訳を知ることもできます。
野間 また、「交通渋滞の可視化」という課題を抱えた自治体が活用すれば、ボトルネックがいつ、どのように発生しているのか詳細なメカニズムまで分析できます。そこにアンケートを組み合わせれば、その渋滞に対する地域住民の感情や来訪者の意識などを知ることもできます。たとえば、そのアンケート結果をもとに、地域住民とドライバーの両者のモチベーションを向上させ、安全で安心なまちづくりを進めることもできるでしょう。
まちの実態がつかめ、課題解決の糸口が見えるはず
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
中野 当社では、ビッグデータの活用に際して、単なるデータ提供にとどまらず、その解析や政策立案に至るまで我々のノウハウを惜しみなく提供し、伴走しながらサポートを行います。データ活用が初めての自治体はもとより、過去にデータ活用の経験がある自治体も、当社の交通関連ビッグデータであれば、いままで把握できなかったまちの実態がつかめ、課題解決の新たな糸口が見えるはずです。
野間 また当社では、より詳細な地域データが取得できるよう、高齢者をはじめ地域住民に『トリマ』をより活用してもらうためのイベント開催などでも自治体を支援していく考えです。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。
設立 | 平成6年5月 |
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従業員数 | 456人(令和4年4月1日現在) |
事業内容 | オートモーティブビジネス、GISビジネス、アプリケーションビジネス |
URL | https://geot.jp/ |
問い合わせ先 | オートモーティブ モビリティサービスユニット 担当:中野 ☎ 080-2032-3821 ✉ t_nakano@geot.jp |
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*1:※M2E : Move to Earnの略。移動によって、ポイントを貯めたり、貯まったポイントを活用したりするポイント活動(ポイ活)のこと