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独自の哲学に基づいた❝蒲島流❞復旧・復興の取り組みとは

次を見すえた展望を素早く示す。それが震災直後における私の役割でした

熊本県知事 蒲島 郁夫

気象庁震度階級のうち、もっとも揺れが激しい震度7の地震に2度も襲われ、数多くの余震にも見舞われた「平成28年熊本地震」。多くの被害を受けた熊本県では、現在も復旧・復興に向けたさまざまな取り組みが行われている。政治学者であり東京大学名誉教授でもある熊本県知事の蒲島氏に、独自の政治哲学に基づいた取り組みの詳細について聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.10(2017年10月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

リーダーはつねに次の展望を考える

―「平成28年熊本地震」からの復旧・復興に向けて、どのような取り組みを行ってきたのでしょう。

 まず、この地震の特徴をいいますと、阪神・淡路大震災と同規模である震度7の地震が28時間以内に2度起こりました。また、余震が4300回以上続いており、今朝(平成29年7月19日)も余震がありました。そういう意味で、対応が非常に難しい地震だといえます。

 熊本県では震災に対応するため、すぐに「復旧・復興の3原則」を示しました。「被災された方々の痛みを最小化する」「単に元あった姿に戻すだけでなく、創造的な復興を目指す」「復旧・復興を熊本の更なる発展につなげる」の3つです。

 また、本震から2日後に有識者会議の開催を決め、今後の対応策を検討。そして8月3日、4つの柱からなる「平成28年熊本地震からの復旧・復興プラン」を発表しました。暮らしのなかでも住まいの再建に重きをおいた、「安心で希望に満ちた暮らしの創造」。生活するには仕事が必要なので、「次代を担う力強い地域産業の創造」。傷んだ熊本城や阿蘇へのアクセスなどを立て直す、「未来へつなぐ資産の創造」。そして空港・港の復興など、交流機能を強化する、「世界とつながる新たな熊本の創造」です。

―地震直後から、長期的な視野を含めた意思決定をスピーディに行ったのですね。「優先順位が違う」という批判はなかったですか。

 たしかに3原則の指示や有識者会議を開催したのは大混乱の最中であり、人命救助や水・食料の確保が最優先される状況でした。周囲には「まだその段階ではないのでは」と、冷ややかな目を向ける人もいました。ただ、リーダーは次の展望を考えないといけません。場当たり的な行動では、必要な時期に必要なものを用意できません。さらに、先の展望を示すことは住民の安心にもつながります。そうした信念をもって、行動しました。

 また、スピーディに有識者会議を開催したからこそ、早い段階で「復旧・復興プラン」を策定でき、政府に具体的な財源措置を申し入れることができました。政府もそれに応え、我々の負担が最少になるようなカタチで財源措置を行ってくれたことがありがたかったです。

プランの4本柱に基づき着々と復旧・復興を進める

―「復旧・復興プラン」の進捗はどうでしょう。

 「暮らしの創造」では、避難所はすべて解消し、住まいを失った被災者の方々の多くが仮設住宅などに入られています。今後は、いかに本来の住まいに移ってもらうかが課題。難しいテーマですが、やり遂げたいと思っています。

 「資産の創造」では、阿蘇に向かう俵山トンネルルートが昨年12月に暫定開通し、今後、ほかのルートも開通させていきます。熊本城には、600億円を超える巨額の復旧費用と時間が必要です。ただ、安倍首相から「熊本城の復旧なくして熊本地震からの復興はない」と、支援を約束していただきましたし、民間からの寄附金も集まっています。時間はかかりますが「熊本城は必ず復旧できる」と、信じています。

 「地域産業の創造」では、グループ補助金(※)による支援を行っています。こうした制度のアナウンスを迅速に行うことで、廃業を検討していた方が「もういちどがんばろう」と意欲をみせてくれています。その結果、震災関連による倒産件数は、震災後の1年間で8件にとどまっています。

※ グループ補助金:中小企業グループ施設等復旧整備補助事業に応募し、認定を受けたグループの事業者に対して交付される補助金

―「新たな熊本の創造」はいかがですか。

 ふたつの象徴的な事業を進めています。ひとつは阿蘇くまもと空港の国内線と国際線が一体となったターミナルビル建設を設計段階から民間委託する取り組み。民間の発想で空港や周辺地域の活性化が期待でき、建設費の民間負担で公費支出を抑えるのが狙いです。

 もうひとつは、工業中心である八代港をクルーズ船の寄港拠点としてさらに開発する取り組みです。これは、県北地域より経済的に弱かった県南地域の活性化につながるのでは、と考えています。

 こうした創造的復興を着々と進めているのが、熊本の現状です。

知事の仕事はすべて県民総幸福量の最大化のため

―復興への取り組みで蒲島さんが重視していることはなんでしょう。

 「県民総幸福量を最大化させること」につきます。これは復興だけではなく、知事の仕事すべてに通じる私の哲学です。人がなにに幸福を感じるかはさまざまですが、政策上は「経済的安定」「誇り」「安全・安心」「夢」の4つが重要であると考え、それらを最大化させる取り組みを行っています。

 たとえば、くまモンの活躍は県民の総幸福量を最大化させる政策の象徴です。昨年のくまモン関連の売上は1280億円。さらに、存在自体が県民の誇りにつながっているほか、臨時職員だったくまモンがいまでは部長ですから。夢にも貢献しています(笑)。

 行政は、「指導」「管理」「画一性」などを連想しがちですが、「前例にとらわれずチャレンジする」行政にパラダイムシフトしなければならない。そういう気持ちで、日々の仕事に取り組んでいます。

皿を割ることを恐れずチャレンジする集団に

―職員とはどのように連携をとっているのですか。

 私はいつも、「皿を割ることを恐れるな」といっています。リスクを恐れずどんどん挑戦しよう、という意味を込めています。この意識が共有できているからこそ、熊本県庁は「日本でいちばん挑戦する職員集団だ」と自負しています。

 また、私は知事としての10年間、一度も怒ったことがない。副知事にいわせると「知事は怒りの遺伝子がないんじゃないか」と(笑)。ですから、職員が失敗しても怒りません。そのかわり、私は県民の総幸福量の増大に貢献した職員を、年に1回「蒲島賞」として表彰しています。表彰者の功績を称える場を設け、その後は知事公邸に招いて一緒に食事会を開きます。それをめざして、みんながんばってくれているようです。

―今後の方針を教えてください。

 熊本県では、2年後に「ラグビーワールドカップ」「女子ハンドボール世界選手権大会」という国際スポーツイベントが開催されます。さらに熊本は、同年に放送される大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」の舞台にもなっています。翌年の東京オリンピック・パラリンピックのキャンプ地もその時期には決まるはずです。このような明るい話題が控えており、平成31年はさまざまな創造的復興が花を咲かせる年になるのではないかと考えています。

 県民の総幸福量を最大化させるために、職員とともに力をあわせて取り組んでいきます。

蒲島 郁夫(かばしま いくお)プロフィール

昭和22年、熊本県生まれ。昭和40年、県立鹿本高等学校卒業後、地元農協に勤務。昭和43年、農業研修生として渡米し、昭和49年、ネブラスカ大学農学部を卒業。昭和54年、ハーバード大学大学院修了(政治経済学博士)。筑波大学教授などを経て、平成9年、東京大学法学部教授に就任。平成20年に熊本県知事に就任。同年、東京大学名誉教授に就任する。現在、知事として3期目を務めている。

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