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過度な「選択と集中」は危うい 多様性を活かした地域づくりを推進

過度な「選択と集中」は危うい 多様性を活かした地域づくりを推進

弘前市長 葛西 憲之

「オール弘前」。弘前市(青森県)が以前から取り組んでいる施策の総称だ。市民と一体となって地域づくりを行うという考えのもと、さまざまな施策を打ち出し、ほかの自治体からも注目されている。市長の葛西氏は、平成22年から「オール弘前」の陣頭指揮を執ってきた。同氏にコンセプトが生まれた背景や、具体的な取り組みなどを聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.7(2017年1月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

市民の声に耳を傾けるそれを計画に落とし込んだ

―弘前市が積極的に打ち出している「オール弘前」のコンセプトが生まれた経緯を教えてください。

 市民に寄り添い、市民の意見やサイレント・マジョリティの声にも耳を傾けて政策に反映するという考えに端を発しています。

 私が政治家を目指した際、市民のみなさんと意見交換を重ねるうちに、市民と行政が同じ目標に向かってまちづくりを推進する必要性を強く感じました。そこで平成22年に、「対話と創造」に基づくマニフェスト「市民主権の実現」を約束。目標と具体的な取り組み内容を行政計画というカタチで“見える化"し、PDCAサイクルを確立することで市民と協働し、着実な進行管理を行ってきました。

 そうした取り組みが評価され、平成23年に、全国から1600以上もの応募があるなか、「マニフェスト大賞グランプリ」を受賞することができました。

 現在は、市の総合計画である「弘前市経営計画」に地域経営の考え方を取り入れ、行政、市民、コミュニティ、民間事業者なども含めた地域全体をひとつの経営体としてとらえ、それぞれが協力・連携しながら「オール弘前」体制で地域づくりを推進しているのです。

―「オール弘前」体制における具体的な取り組みを教えてください。

 政策間連携、地域間連携、官民連携などさまざまな取り組みを行っています。たとえば官民連携では、人口減少対策を民間企業にも広げるため、市内民間事業者と3つの企業認定制度を創設しています。

 まず、従業員が健康で働きやすい職場環境を整え、健康寿命の延伸を図るため、積極的な健康づくりに取り組んでいる企業を認定する『ひろさき健やか企業認定制度』。次に、仕事と子育てを両立できるような職場環境づくりや地域での子育て支援活動に積極的な企業を認定する『弘前市子育て応援企業認定制度』。そして、首都圏などをはじめとした他地域からの観光および移住、二地域居住といった交流を促進し、地域の活性化に積極的な企業を認定する『弘前市移住応援企業認定制度』です。

 これらの制度は、地域金融機関と市で連携しており、認定企業や従業員が融資を受ける際、金利優遇が受けられるほか、認定企業は市の入札評価点も加算されます。

 また、『弘前市まち・ひと・しごと創生総合戦略』の策定を機に立ち上げた『ひろさき地方創生パートナー企業協定』があります。

さまざまな連携で生まれた弘前市ならではの取り組み

―それはどんな制度でしょう。

 さまざまなノウハウやアイデアを有する民間企業から、人口減少対策や地域経済の活性化につながる提案を募集し、官民連携による総合戦略を推進する制度です。市内のガソリンスタンドから、(株)ドール、スカパーJSAT(株)、(株)楽天野球団、損害保険ジャパン日本興亜(株)といった大手企業まで協定を締結しています。

 そのほか、(一社)CSV開発機構と千葉商科大学の三者で『弘前市のまちづくりに関する三者包括協定』を締結していますが、食文化による新たな誘客促進策として、白神で育った素材をふんだんに使ったおもてなし料理『白神めぐみ寿司』が誕生しています。

―ほかに取り組んでいることはありますか。

 自治体同士の連携で取り組んでいる『都市と地方をつなぐ就労支援カレッジ事業』があります。

 弘前市はりんごの生産量が日本一ですが、人口減少や少子高齢化により産業の担い手が減っている状況です。泉佐野市(大阪府)でも、農業の担い手不足という課題を抱えていましたが、若年無業者を含む生活困窮者に対して、行政と支援機関が連携して就労支援に取り組んでいました。そこで、そうした若者を弘前市に派遣し、農業体験をしてもらおうという取り組みです。それがうまく発展すれば、当市は若い就農者を獲得でき、泉佐野市にとっては、若年無業者の就労による自立につながります。いわばWin -Winの関係を構築することができるのです。都市の生活環境から飛び出して、農作業に取り組む若者はイキイキとして本当によく働いてくれるんですよ。

 この取り組みは、内閣府から「日本における地方創生の好事例」と評価をいただきました。

発想を転換することで25億円超の広告効果を生んだ

―葛西さんが行政を率いるうえで重視していることはなんでしょう。

 私は行政・市民のリーダーであるとともに、市の広告塔でありセールスパーソンでもあります。そのため、次になにをするべきかつねにイマジネーションを膨らませて仕事をするようにしています。その発想の種は、すべて課題の解決につながっているのです。

 たとえば、弘前城天守の曳屋工事。弘前城の石垣改修により、観光客の減少が危惧されました。そこで、通常は工事現場を囲って関係者以外立ち入り禁止にしますが、これを公開・体験工事にすることを決断。市民や観光客の方に、「世紀の大改修」として見て体験できるように。

 そして、約4000人の方に弘前城の曳屋に参加してもらった結果、広告費換算をすると25億円を超える効果を得ることができました。

 また、「HIROSAKIDESIGNWEEK」という取り組みも行っています。これはいまあるものを磨き上げて、新しい価値を創造していこうという考え方で、「サブカルチャー」「融合」「市民参加」「世界基準」「発信力」の5つのプログラムを設定。子どもから大人まで市民一人ひとりが、まちをデザインするクリエイターとして参画し、著名人も巻き込み、弘前にある既存の価値をさらに高めていく市民運動として位置づけています。

子どもたちの笑い声が響くそれが目指すべき都市像

―今後のビジョンを教えてください。

 当市の将来都市像は「子どもたちの笑顔あふれるまち弘前」です。子どもたちの笑い声が地域に響きわたり、笑顔で楽しく過ごせているということは、地域のもつ魅力や豊かさが高まり、隅々まで行きわたっていることを表しています。

 これを実現するため、「オール弘前」体制で一体となって地域経営を行っていく。それにより市民が地域に愛着と誇りをもち、地域の活力になると思っています。

 「選択と集中が大事」といわれますが、個人的に行政では「選択と集中が過度になると危ういな」と思っています。あまりに過度になると、地方独自の豊かな個性が失われ、小さなものが大きなものに飲み込まれたり、効率性だけを追い求めて価値観が画一化されたりなど、地方が地方として生き抜くために大切なものを失いかねない。選択と集中を意識しつつも、地域がもつ多様性を受け入れながら自治体が独自に自立、自走する体制をつくって市民とともにうねりにしていかないと地方創生は成らないと思います。

 そのために我々は、市民力・地域力を高め、より行政の仕事力を高めていきたいと思っています。

葛西 憲之(かさい のりゆき)プロフィール

昭和21年、青森県弘前市生まれ。昭和42年、函館工業高等専門学校土木工学科を卒業。昭和45年、青森県庁に入庁。県土整備部都市計画課長、弘前県土整備事務所長、県土整備部長などを務める。平成19年、県庁を退職し、弘前副市長に就任する。平成22年、弘前市長に初当選。平成23年、「マニフェスト大賞グランプリ」を受賞。現在は2期目。

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